第6話「本当の仲間」
やっと、長い廊下を抜けると、一人の女性が、そこに立っていた。
「やなちゃん!?」
ともにゃんがそう呼ぶと、彼女は、弾かれたように、こちらに向き直った。
来ることは分かっていたような表情で彼女は告げる。
「なんで・・・、きてしまったの?」
その表情はとても寂しく、悲しそうな顔をしていた。
そんな彼女をレイナは睨みつけるように呟いた。
「間違いない・・・、彼女がカオステラーよ!」
ともにゃんは不思議そうな顔のままレイナに言い放った。
「なにを言ってるの?彼女は僕の友達のやなちゃんだよ!きっと、もしかしたら、彼女も魔法少女かもしれない」
そう言ったともにゃんにむかって、彼女は申し訳なさそうに答えた。
「ごめんね、ともにゃん。私はもう魔法少女じゃないの。魔法少女に憧れて、それでも、魔法少女にも、いいえ・・・、あなたの友人ですらいられなくなった存在」
「それって・・・」
「私、ともにゃんの理想の世界をつくりだしたかった。みんなで楽しくしていた、あの頃みたいな。だから、絶対に現れない、私たちの存在をあなたの運命の書に記した・・・。そう、ともにゃんと私と、そして、私と決裂してしまった彼女たち三人の友人で冒険するってお話を、あなたの書に記したの」
悲しそうな、それでもどこか嬉しそうにカオステラーとなってしまった住人はそう答えた。
「だから、ともにゃん、私を倒してはダメなのよ。だって、あなたの思い描いた魔法少女の物語は私が生み出しているんだもの」
そう言って、彼女は苦悶の表情をうかべる。
「私はカオステラー、魔女を生み出す存在へと進化した。だから、あなたは、私を倒す必要なんてないの。魔女をずっと狩り続けて、そして、魔法少女で有り続けて・・・」
「やなちゃん!なにを言っているのか、僕にはさっぱり分からないよ!なんで、君が魔女を生み出す存在になってしまったのか・・・」
彼女は答えた。
「だって、『本当の物語』では私は端役にすぎない。あなたもまた、魔法少女にはなれないのだもの」
「それでも、僕はそんな事を望んでなんかいないよ!やなちゃん!」
彼女はしばし沈黙する。そして、やっと、彼女は重い口を開いた。
「どうして?本当の『物語』では、ともにゃんは魔法少女にはなれないんだよ」
「今、僕はやなちゃんの言う『本当の物語』が何か分からないけれど、それでも、やなちゃんが間違っているってことだけは分かる!それなら、僕が君を止めなくちゃいけない・・・」
僕は聞かずにはいられなかった。だって、『カオステラー』の言うことが本当ならば、『調律』をしてしまったら、ともにゃんは魔法少女ではいられなくなってしまうのかもしれない。
「あのさ、ともにゃん・・・、本当にいいの?」
ともにゃんは不思議そうな顔で答えた。
「何を言っているんだい?僕たちは魔法少女!夢と希望から生まれた存在」
「でも、もし・・・『カオステラー』のいう通りなら、ともにゃんは魔法少女には・・・」
ともにゃんはクスリと笑って答えた。
「奇跡も魔法もあるんだよ!どんな世界にも、どんな物語にも!だから、僕はやなちゃんの言う『本当の物語』でも魔法少女でいるよ。だって、現れるはずのない君たちという四人の魔法少女が現れた!だから、僕には迷いなんてない」
ともにゃんの表情はなんの迷いも、躊躇いもなかった。
彼は信じている。自分が魔法少女でいると。例え、それが酷くつまらない物語でも、例えそれがともにゃんの望む世界の形でなかったとしても・・・。
「それじゃ、ここいらで一発強いのぶちかまして、お友達の悪夢を覚まさせてやろうぜ!」
そう言って、タオが『導きの栞』を構える。
ともにゃんもあの『変身の栞』を構えた。
そんな僕たちの様子に、『カオステラー』は悲しそうに言った。
「この夢を壊さないで。魔法少女を夢のままにしないで・・・。私は、私は・・・、魔法少女にはなれないのだから・・・」
そして、悲鳴を上げながら、みるみるうちに醜い巨大な竜へと変身する。
僕たちはそれぞれ、ヒーローとコネクトし、ともにゃんも『変身の栞』で変身する。
その様子を惚れ惚れするような顔で、『カオステラー』は見て、尚も食い下がる。
「ともにゃん、こんな楽しい夢を終わらせてしまって、本当にいいの?」
「あなたの思い描いた魔法少女の物語をここで終わらせてしまっていいの?」
そんな、『カオステラー』に向かって、ともにゃんはキッパリと答えた。
「僕の思い描いた楽しい世界は善良な人々が魔女の手先になってしまうような、悪夢ではないよ、やなちゃん。そして、そんな悪夢をやなちゃんが生み出すような世界でもないんだ」
その言葉を聞いた『カオステラー』は小さく、「そう・・・」とだけ呟いて、言った。
「じゃあ、もう一度、ともにゃんの思い描く世界をつくりかえなくちゃ・・・」
ここで、とうとうレイナがブチ切れた様子で『カオステラー』に向かって言った。
「それって、ただのあなたのワガママよね。ともにゃんの理想の世界を作ってやったって恩を着せて、言い訳に友達を使っているだけじゃない!」
「いい加減に目を覚ましなさい!誰もあなたが『カオステラー』になることを望んでなんかいないって!」
「例え、ともにゃんがそんな世界を望んだのなら、彼は自分でその力を手に入れるわ。私たちはこの『想区』で彼と旅をして、それを知った!もし、あなたが本当に彼の友人なら、そんな事、とっくに気がついているはずよ!」
「あなたは自分に割り当てられた『端役』が気に入らなくて、だだをこねている子供よ。そんな大きな竜に変身したって、あなたの子供っぽい思いは彼には届きはしない!」
大きな竜となった『やなちゃん』さんは、そんな言葉なんて聞こえないかのように、いや、聞こえないフリをして、僕たちに戦いを挑んできた。
だって、戦う彼女の表情はとても、不安そうで、今にも泣き出しそうだったから。
本当はレイナに言われる前から分かっていたのかもしれない。
ともにゃんのためと言いながら、自分のために世界をつくりかえてしまった事を。
そして、夢をみる彼が、彼女にはまぶしすぎて、だから歪んでしまった。
僕にはそう思えてならないんだ。
僕も、そう思う時があったから。
巨大な竜を退治すると、先ほどの女性『みきちゃん』さんのように、『やなちゃん』さんが床に倒れ込んでいた。
すぐに、ともにゃんがやなちゃんさんに駆け寄る。
「やなちゃん、大丈夫!?ごめんね」
しかし、やなちゃんさんの視線はレイナに注がれていた。
彼女は言葉を詰まらせながらも、レイナに懇願した。
「お願いよ・・・、夢を・・・、終わらせないで。この夢は・・・、私の夢でも・・・あるの」
レイナはキッパリと断った。
「お断りよ」
レイナの言葉にめげず、彼女は言葉を続ける。
「この世界に本物の魔法少女が・・・、魔法が使える人が・・・、欲しかった」
「私は『悪役』でも『端役』でもいい」
レイナはそんな彼女を見つめて冷たく言い放った。
「だからって、無関係の友達まで悪者にしたの?それは、あなた一人が悪者になりたくなかった心の現れよ。もし、自分ひとりが『悪役』でいいなら、仲間は三人にして、ともにゃんと旅をさせるべきだった。それをしなかったのは、あなたが寂しいから、自分一人だけのけものにされるのが嫌だから」
レイナが調律を開始しようと、あの不思議な本をとりだす。
それを見て、彼女は慌てた。
「お願い! 夢を壊さないで!」
今まで、黙っていたともにゃんが重い口を開いた。
「やなちゃん・・・、夢は自分で叶えるものだよ!僕は君に叶えてほしいだなんて、一度だって思ったことはない!君は勘違いしている!僕は本当に魔法が使いたいと思うのなら、本当に魔法を使えるんだ!だから、君が頑張る必要はないんだ!僕は僕で頑張るから、君は君で頑張ればいいんだ!」
決着がついたと判断したのか、レイナが静かに本を開く。
そして、を閉じてあの不思議な呪文を口にする。
「混沌の渦に呑まれし語り部よ・・・」
「我の言の葉によりて、ここに調律を開始せし・・・」
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