第2話「魔法少女ともにゃん」
僕たちは霧の中を通って、ようやく次の想区へとやってきた。
そして、とんでもない物を目の当たりにする事になった。
「お、おい、お嬢!また、ゆーほーが飛んでるぞ!?」
お嬢呼ばれた少女、レイナが青年にむかって、違う方を指して言う。
「それどころじゃないわよ、タオ!あっちなんか、灰色の建物ばかりよ!」
シェインはレイナと同じ方向をむいて、あっちゃーと言わんばかりの顔をした。
「姉御、灰色の建物の隣に明らかに隣接してはいけなさそうな宮殿が立ってます」
色々なものが混在するカオスと化した街の反対側を見ると、明らかにこれまた異質な砂漠の中に氷の城やら赤の宮殿が建っていた・・・。
「あのさ、みんな、あっちも結構、異質っぽいんだけど・・・」
と、僕、エクスが指摘すると、レイナは不安そうな顔で言った。
「まさか、今ままでの物語が全部、混在してるなんてないわよね・・・」
僕たちは着いて早々に頭を抱える事になったのだった。
『想区』僕たちは区切られた、この世界の事をそう呼んでいる。『想区』にはそれぞれ、『物語』があり、そして、その『物語』を紡ぐ役者たちである住人がいる。ある者は『主役』、あるものは『悪役』。それらを住人は、一冊の本『運命の書』の通りに演じ続ける。回る運命の中でずっと、『運命の書』の通りに生き続けなければならない。
しかし、僕たちのように希に『運命の書』に何も書かれていない、『空白の書』を持つものが現れる。配役のない僕たちは『導きの栞』を空白の書に挟むことでヒーローとコネクトつまり、変身して戦う事ができる。
そうして、僕たちは本来の『物語』とは違った『物語』を元に戻す旅を続けている。違う物語を生み出す『カオステラー』という存在を倒しながら・・・。
そう、本当にそれが正しいことなのかどうか分からないまま・・・。
「と、とにかく人を探しましょう!まずは・・・」
と言いかけたレイナの言葉を遮るように大声が飛んできた。
「危ない!危ない!そこのひと!どいてえーーー!」
「え!?なに!?」
突然、そう言われて、どけるはずもなくレイナとその人は頭をぶつけたようだった。
「あいたた・・・。まさか、こんなところに人がいるなんて思わなかった。ごめんね、大丈夫?」
そう言って、頭を撫でながら青年はレイナに優しく声をかけた。
レイナも頭を撫でながら、答える。
「ええ、大丈夫・・・、たんこぶはできてないみたいよ。ところで、あなた、空から落ちてこなかった!?」
青年は小首をかしげて、「そうです、空から落ちてしまいました」と答えた。
「どうして、空から・・・」
と僕が言いかけた途端、いつもの聴き慣れたヴィランたちの唸り声が聞こえた。
「くるるる・・・」
僕たちがヴィランと呼ぶのは『カオステラー』によって、書き換えられた、元この『想区』の住人たちのことだ。元に戻す・・・、『調律』という儀式によって物語のあるべき姿を正せば住人たちも元に戻る。
青年はくるりとヴィランたちの方をむいて言った。
「今はその話は後です!あの魔女の手下達を僕がなんとかします!みなさんは逃げてください!この世界の平和は僕が守る!」
そう言うと、青年は本を取り出して、栞を挟んだ。
「まじかる!?ミラクル!変身!」
「魔法少女、ともにゃん、ここに参上!」
その様子に僕たちは呆気に取られた。まさか、空白の書の持ち主がいたなんて・・・。
しかし、僕たちはその違和感に気がついた。
「なんか、おかしくねーか?」
「タオ兄も気づいたですか?」
そう、彼は『栞』によって、衣服の変身はしたものの、姿は全く変わっていない。
それなのに、彼の衣服はきらびやかなフリルと大胆にカットされた可愛らしいものに変身していたのだ。
「あれ、どう見ても、女装・・・よね。そういう趣味の方なのかしら?」
そう言う僕たちを見て、『ともにゃん』さんはにこっと笑って言った。
「みんなには、秘密だよ!」
そして、ヴィランの群れにむかって魔法を繰り出し始めた。
こうしちゃいれらない、僕たちも一刻も早くヒーローとコネクトして『ともにゃん』さんを助けないと!
「ヒーロー!コネクト!」
僕たちはそれぞれ、得意とするヒーローに変身する。僕は赤ずきん、レイナは鬼姫、タオはハインリヒ、シェインはカーミラにそれぞれ、変身したのだが、それを見て、『ともにゃん』さんは嬉しそうに声を上げた。
「まさか、こんなところで仲間に出会えるなんて!僕、感激しました!皆さんも魔法少女だったんですね!」
「「え!?」」
「この世界では変身して魔女の手下と戦う少女の事を魔法少女と言うのです!もちろん、歳は関係ありません!」
と、力強く返答した。
「とにかく、話は後よ、みんな、ヴィランをやっつけるわよ!」
こうして、僕たちと『ともにゃん』さんは共闘してヴィランの群れを蹴散らしたのだった。
「で、マホウショウジョって一体なんだ?」
と一人、コネクトしたヒーローが男性だったタオがなんとなく不機嫌気味に『ともにゃん』さんに言い放った。
「僕の事は気軽にともにゃんって呼んで!あ、そうそう、魔法少女のことだけど、今、この世界は魔女に支配されようとしているんだ!それを魔法少女である僕が止めているんだよ」
「女装して・・・ですか。まあ、あまりに綺麗に女装されるので、見苦しくないのでシェインは別にかまわないのですが・・・」
ともにゃんさんはその言葉に気を悪くした様子もなく答えた。
「うん。そう、魔法少女の衣装はかわいいって決まっているから!」
「どう、僕の衣装かわいいでしょ」とフリルが付いているが大胆にカットされた衣装をみんなに見せびらかした。
「あのー、ともにゃん、もしかして空白の書の持ち主だったりする?」
「クウハクノショ?僕の『運命の書』の事を言っているのかな?それとも、この変身アイテム『変身の栞』の事を言っているのかな?『運命の書』は誰もが持っているものだけれど・・・」
「運命が書かれているのにヒーローとコネクトできるなんて・・・」
コネクトしていると本当にそう思っていいのだろうか?
僕がそんな疑問を頭に浮かべていると、ともにゃんも同じように首をかしげながら言った。
「ん?君たちは変身の事をコネクトって呼ぶんだね。変な人たちだな・・・でも、僕の運命の書に書かれた通りだよ、これで五人揃ったね!」
「え、ちょっと待って、私たちは、あなたの『想区』の外からやってきたのよ!?あなたが探してる仲間とは違うんじゃ・・・」
「いやいや、僕の運命の書には五人の仲間が集うとき、魔女を真に打ち倒す時って書いてあるんだ!」
「「え」」
僕たちは慌てて、周囲を見回した。
本当はここで、ともにゃんとぶつかるべき『本当の仲間』がいたんじゃ・・・。
「じゃあ、どこかにともにゃんの仲間になるはずの魔法少女がいるはずなんじゃ・・・」
僕の思った事をそのまま、レイナが言葉にするが、ともにゃんは嬉しそうに僕たちの言葉を否定した。
「いいや、君たちで間違いない!だって、僕と同じように『変身の栞』で変身する魔法少女なんて、そうそう居ないよ、さあ、真に魔女を打ち倒す時が来たんだ!行こう!」
と、ともにゃんは僕たちを『魔女』を打ち倒すべく、促すのだった。
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