自分とは一体なんなのか。自分というものの実態は、肉体なのか、記憶なのか、感性なのか。
悲しい事故をきっかけに、入れ替わり、重なり、そして融合していく静と動の二つの主題。
魂が肉体から遊離して曖昧になっていく二人が立ち向う真実と、そして迎える結末とは。
音楽に情熱を注ぐ全く感性の異なる双子を主題に、重なっていく旋律は、心に何か騒めきのようなものをもたらす不思議で美しい作品でした。
構成が少し難解であったり、視点の変化などで戸惑う感覚はありますが、音楽の幻想的な響きを文字から生き生きと感じることができ、登場人物の情熱などを生々しく感じることができる独特の魅力がありました。
兄弟の人格が入れ替わるお話です。
実は読む前は、小説で入れ替わりものは鬼門なんじゃないかと敬遠していました。映画やテレビドラマみたいに映像がない分、今どっちがどっちだかわからなくなってしまうので。
しかし読んでみると、このお話は小説であることに意義があると思うようになりました。
今入れ替わっているのか、読み手がわからなくなる。しかしこの兄弟たち二人も、自分が今どちらかわからなくなっていく。
この感覚が奇妙なリンクを起こし、気づけば物語にのめり込んでいました。これを著者様が狙って書いているのだとしたら、脱帽ですね。
そしてミステリーのような構成が光ります。入れ替わるたびに謎が出てきて、最後に一気に明かされる。果たして兄弟の人格はどうなってしまうのか、とても見ものだと思いました!