美しき人魚が、仮想空間を泳ぐ

この物語の舞台はAIに支配された未来の世界。

こう書くと、私はどこか冷やかで硬質な世界を想像します。
しかし巨大な鯨型AIに見守られるこの物語は、まるで淡い色彩で描かれた水彩画のようです。

AIにまつわる言葉のほとんどがケルト神話に由来している点が面白い。
物語は繊細な筆致で描かれ、海をモチーフとした仮想空間の美しさがありありと想像することができました。
人魚の唄が響く中で繰り広げられるバトルシーンも幻想的。
特にコンピューターウイルスであるフォモール退治の場面では色とりどりの燐光が瞬き、日本刀が舞い、ビー玉が花火を咲かせるファンタジーのような戦いの中で『ウイルスソフト』『ダウンロード』というワードが使われているのがどこか新鮮でした。

ミサキの秘密、消えた父親、テラリウムの作られた理由――全てを知ると、もっとこの世界に触れたいと思います。

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