階段の先、行き着くところは天国か地獄か。

すごいものを読んだなあ、というのが率直な感想です。
建築、造形美術、詩、哲学……と、作者様の造詣の深さに圧倒され、構築された世界観に飲み込まれてしまいました。

主人公のエーリカは行方不明の姉を探すため「オスカー・オルフォイス捜索社」なる場所を訪ねます。

だだ広い部屋。燃える暖炉。タッセルのないシンプルな窓辺。テーブルの上には山盛りのコンディトライの商品と、黄金色の紅茶……。

細部にまで行き渡った情景描写を楽しませていただいたあと、いかにも癖のありそうな社主・オスカーの登場。
――と、まるで映画を見ているかのような展開ににやりとしてしまいました。

また、作中で何度も引用されるダンテの『神曲』。
学がないもので、気になって途中調べながら読んでいたのですが、次々明かされる真相に調べる手が疎かになり……。最後まで一気に読んでしまいました。
読み終えてから、ああ、なるほど……と。
地獄において最も重い罪とされる悪行は――そうなのですね。うつくしく、そしておそろしい。

エーリカとベアトリーセ。
亡くなってしまったダヴィト。
エーリカへ求婚し続ける〈幽霊卿〉の真実。

転換期のウィーンを舞台に巻き起こる、生と死、愛憎のミステリー。とても素晴らしかったです。楽しませて頂きました!