(9)おおきくなってからね
みづきさんがノートパソコンの前で何だか浮かない顔をしている。
怒っている、というか、しょげている――そんな感じだ。
基本強気なみづきさんのそんな表情がめずしくて、何が彼女の表情をそんなにさせているのだろう? と気になってモニターをのぞき込む。
ショッピングサイトのようだけど……、映っているのは、ぬいぐるみ? 何かやたら構成のシンプルな顔が妙に大きい、犬? かな――
「何見てるの? みづきさん」
――まぁ訊いたが早いよね。
振り向いたみづきさんは、やっぱり浮かない顔で、そして、彼女にしては限りなく弱気な声でぼそりと言った。
「カピバラさんのぬいぐるみだ」
「かぴばらさん? カピバラ……」
「カピバラさんだ。さんを付けろ」
……とりあえずこの画面のなかのぬいぐるみが、その“かぴばらさん”なのだろう。
「その……欲しいの?」
みづきさんはこくんと頷いた。
確かにゴテゴテしたパーツがついてなさそうなその形状からして、抱き心地はよさそうだけれども何というか……みづきさん、まだまだ子どもなんだなぁ。
見た目は小学校の高学年か中学生といったところ。でも、市杵嶋姫命に認められて人と同じ姿になったのは一年とちょっと前らしいから、中身はまだまだなところがあってもおかしくはない。
「ほしいならば買っていいんじゃないのかな?」
みづきさんが暮らす市杵嶋姫命のお屋敷は異次元だから配達は届かないけれども、住所はぼくんちにすればいいし、支払も着払いにすれば解決するし。
しかし、みづきさんは首を横に振った。
「駄目なのだ」
「ダメ?」
あれ? 女神様ってみづきさん溺愛かつ激甘だと思っていたんだけど?
ぬいぐるみくらいあっという間に買ってくれそうな気が――
「女官候補の仕事に必要のないものは女官になってから自分のお金で買いなさいと言われているのだ」
――ああ、ね……そこは厳格なんだね……。
限定販売だから女官になってからでは買えそうもない、と、いよいよ泣きそうなみづきさんと、そういえば子どもの時によく「おおきくなってからね」と親にたしなめられたことあるなあ、と思い出すぼく。
まあ、今日も平和だったのではないかと思われ。
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