(2)法事にて
這々の体でアパートに帰りつくとみづきさんがいた。
こたつに入ってぬくぬくと早生みかん。勝手知ったる何とやらをためらいもなく体現しながら、おう帰ってきたか、と亭主のような口振りでぼくを出迎え、眉をひそめた。
「ん? どうした仙太郎。浮かぬ顔だな」
――あの、その、三分の一は確実にみづきさんのせいなんですけど。
と思いつつ、それを口にしたら余計疲れるだろうから、ぼくは這々の体になっている理由だけを説明することにする。
「祖母の法事だったんだけどね、それだけでも疲れるのに、ちょっとばかり揉め事が起こってさ」
「どうした? 座布団の枚数でも足りなかったか」
「違うよ」
そんな大人げない理由で揉め事になったのだとしたら、ちょっとじゃあなくて
「祖母の三回忌と曽祖母の十三回忌を併せてやったんだけど大叔母、ええっと祖父の妹――祖母の配偶者の妹が『
ちなみに曽祖母は祖母の実母で、法事を併せて執り行うといっても
「大叔母の御家族も『併せて行うなんて罰当たりだ』っておっしゃるし、併せて執り行うって話が行き届いていると思っていた御院家はびっくりなさってたし、大叔母に連絡した祖父方の大叔父は『ちゃんと説明していたのに来てから文句を言うのはおかしい』と怒り出すし、祖母方の親戚筋は大困惑」
「なるほどな」
まるで気のない様子で手許のみかんの皮を剥きながら頷きつつ聴いていたみづきさんは、
「まぁでも、大叔母も祖母とは仲がよかったから祖母の法事には参列したいけれども、大叔母のことをひどく嫌っていたっていう曽祖母の法事には参列したくないと思う気持ちは分からないでもないけど……」
ぼくがそう言うと、手を止めて、それは違うぞ、と、こちらに向き直った。
「住職を御院家というということはお前真宗だろう?」
「え? あ、う、うん」
た、確かにぼくんちは浄土真宗だけど。
「真宗ならば、人は死ねば等しく仏になるのだ。過去の因縁などすべてなくなる。つまり曽祖母と大叔母の因縁とやらも、曽祖母が亡くなった時点ですっかりなくなったのだ。遠方の親戚が多ければ、法事を併せて行うこともあろう。しかし、仏はそのようなことで人を恨みなどしない。仏なのだから。だから、生きている者は等しく仏を敬い、手を合わせるのだ――違うか?」
「た、たぶん、違わない、か、な……」
で、でも、みづきさんって、その、日本の神様に仕えているんだよね……?
「しかし、わたしも真宗のことはまだよくわからない。今度色々教えてくれ」
ていうか、もしかしてぼくが物知らずすぎなのか?
「は、はい……」
とりあえず、意外とグローバルらしいみづきさんと無知なぼくですけれども、今日も平和です。
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