(12)冬のボーナス
みづきさんは市杵嶋姫命に仕える女官“候補”だ。
候補、ということは当然のことながら女官もいる。
大半の女官は市杵嶋姫命のお屋敷で暮らしているのだけど、そのうちのいくらかは、女官昇進を賭けた任務に挑む女官候補の監視や、他の神々やその眷属の動向を探るための諜報員として人間の世界で暮らしているそうだ。
「……どうしたの? みづきさん、その巨大なぬいぐるみ」
今し方、うちにやってきたみづきさんは一メートル近くありそうな茶色いぬいぐるみを抱えて、とろけるような笑みを浮かべていた。
たぶん、あれだ。前にみづきさんがほしいって言っていたカピバラさんのぬいぐるみだ。
「買ってもらったのだ、この近所に住んでいる諜報部のちはるに」
「……何でまた?」
ちはるというのがどなたなのかぼくは知らない。まあ、諜報員ならば、みづきさん監視のためにこの辺に住んでいてもおかしくないし、女官が女官候補にしてはならないのは任務の手助けだけだから問題はないのだろうけど、この巨大なカピバラさん、確か一万円以上したような……、
「ちはるはOLでな、ボーナスが思ったよりも出ていたそうだ。だから、と、買い物に付き合ったら買ってくれたのだ! ちはるはあったかいコートとかわいい服と高くていい匂いのするコスメを買い揃えていたぞ!」
……ちはるさん、人間に混ざってがっつりOLさんしていらっしゃるんですね。
「私も女官になったらOLになる!」
高らかにそう言ってギュッとカピバラさんを抱きしめるみづきさんと、女官になったらOLにって何かちょっと引っかかるのだけれども指摘できないぼく。
平和だと思います、今日も、ぼくらは。
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