第7話 共存する異星者 - ラヴ・シンドローム -



――――――大堂時学院中等部、校門前。


「そいじゃーねー。モモカ、ばいばーい」

「ばいばーい……ふぅ」

 校門を出たところで、反対方角に家がある友人と別れる。モモカは大きくため息をついた。


「また、この時間がやってくるのか」

 家に帰るのが億劫だ。

 いや家族仲が悪いわけではない。むしろいい方だと思うし、早く帰ってお父さんとお母さんと一緒に過ごしたいくらいだ。


 ……アイツ・・・さえいなければだが。





「……た、ただいまー」

 家の扉をあけると同時に中をうかがう。アイツに聞こえないよう、ごく小さい声で帰宅の挨拶を済ませた。しかし


「おおおおお、おかえりぃ~、マイハニー・モモカ~~ぁ、…へぶしッ!!」

「はぁ…。なんであの声で聞こえるかな…」

「ぐはっ、ぎべっ! ちょ、モモカ、モモカ踏んでるぅう、おうっ、おほっ、おっほぉ~~ううんっっ!!」

 ミュージカルばりの旋律にのせて出迎えたのは、異星人のガンタルタン・マグドマート・エブルィーゼ。

 そしてソレを蹴り飛ばして、なおかつ無慈悲に顔面を踏みつけてる彼女はこの家の一人娘のモモカである。


「はぁ、はぁ、はぁ…フフ、相変わらずキミの愛は厳しいねぇ、でもボクは受け止めてみせる―――っよほぉ~!? ー――ーおぶっ!! ごふっ、おごっ、ちょっ、やめ…あびっ、ぶはぁっ、げぼごっ!!」

 モモカは彼の後頭部を掴んで、壁に何度もたたきつけた。普段は冷静で歳の割りに落ち着いており、感情をあまりあらわにしないモモカだが、エブルにはまるで遠慮しない。


「ふう、さてと。宿題かたづけてお風呂を沸かさないと」

 ボロ雑巾のようになった彼を捨て置き、モモカは2階の自分の部屋へと上がっていった。





 夜。


 風呂からあがってきたモモカの濡れた髪をタオルで拭き、ドライヤーを当てながら、エブルは口を開く。


「ね~、モモカ~。本当に本当にこの星は、もうすぐ消えちゃうんだよ~。ね、だからボクのお嫁さんになって、一緒にボクの星で暮らそうよぉ~」

「その話がウソじゃないって根拠は? それに本当だとしても私だけなんでしょ。友達やお父さんお母さん、ほかの人たちもみんな見殺しにしろって事でしょ?」

 エブルはうっと言葉に詰まる。

 実際、その通りだからだ。彼の乗ってきた宇宙船は個人用で小さく、とてもじゃないが2名が限界。大勢は無論、モモカの家族ですらも助けられない。


 彼はこの星にきてモモカに一目ぼれしたからこそ、いまだにここに留まり、逃げ出さずにいる。

 しかし、本当のところもう避難を開始しなければいけないほど、切羽詰っているのも事実だった。


 だがモモカは他の人が助からないのに、自分だけ助かるのを良しとしない、しっかりとした考えを有している少女―――だからこそ彼もモモカに惚れ込んだだけに、心苦しい部分は確かにあった。


「(はぁ、どうすればモモカはボクといっしょに来てくれるんだろう……)」








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