第11話 終末の脱出 ー トラベラーズ ー




 30xx年、夏――― “ 彼ら ” は突如、世界中に顕現けんげんした。


「ぎやぁぁぁぁあ!!?」

「な、なにこれ!? あっあっ、あーーー!!!」


 ボォッン! キキィー…ズガァアンッ!!!


 未曾有の大混乱が発生してより僅か30分で、全世界の社会が機能不全に陥る。


 本当にいきなりの出来事…まるで予兆のない謎の生命体の出現。それも全世界余すことなく同時にである。




「あびっ!」

 ある男は、四肢が飛び散った。



「いや、いやいやぁ! なんで、なんで入ってく――――――、………」

 ある女は、子宮から魂を喰われて寄生された。



「うわ、うわぁああ!? なんで、なんで俺がもう一人い―――るじっ!!」

 ある青年は、瓜二つなもう一人の自分に殺害された。





 宇宙から飛来したものであるという情報分析すら間に合わない。猛スピードで地球人は死滅してゆく。


 前々より地球を狙っていた数多の種族。

 潜伏中だった彼らの緊張は一気に爆発し、競うように人類を殺害しだしたのだ。



 本来、人類を救うべく旗をふるわなければならない指導者達はもう半年も前にこの星を後にしている。

 リーダー不在でこの未曾有の事態に対応しきれるはずもなく、あらゆる組織はその力を十全に振るうことかなわず、半日もしないうちに地球上の人口は2/3にまで減少した。






―――――――さらに2週間後、大堂時家所有の宇宙港。


 順番に飛び立っていく大型宇宙船は、実に1200隻にも及ぶ。それでも当初の予定よりも遥かに少ない。


「各避難艦全船の、緊急離陸成功を確認。ではわたくし達もまいりましょうミカさん!」

「はい! では、エンジン点火………9、8、7、6、5…ッシグナルイエロー?!!」

 旗艦であるこの艦はよりしっかりとした造りにしてあり、最も自信をもっていただけに、離陸前にトラブルが生じるとは思いもしていなかった美樹は、慌てて操縦席を覗き込む。


「これは……船の故障ではありませんわ、船内に侵入されてっ!」

「(ママ。この感じはたぶん、軟体侵略者マズルだよ。人がいっぱい集まっている気配を嗅ぎ付けるのが上手い奴なんだ。人口の多い街に潜伏してたはずだけど)」

 思いのほか人類の減少ペースが早かったのだ。殺戮の果てに死の街と化したところは多く、近くの都市を殺し尽くした奴が流れてきたのだろう。



「ミカさま! 美樹お嬢様! マユミさまが侵入者を外に締め出すのに成功しました! 早く出してください、張り付いていてもこのまま大気圏脱出で焼き剥がせます!!」

 操縦室に飛び込んできた美樹のSSの言葉に突き動かされ、ミカは改めてエンジンを始動させた。



 天に向かって湾曲しながら伸びる超電磁打上げ路リニアレーンを走りだす宇宙船。



 …それを見送る者は、自身に巻きついていたマズルの脚をにべもなく引っぺがし、その辺に放り捨てる。


「はー、所詮はニセモノかー。どーせ “ マユミ ” はとっくに死んでるんだし、因果応報かなー」

 ガラにもなく仲間を守るなんて青臭い感情に突き動かされてしまったダウブルは、深くため息をつく。

 あるいは彼女が成り代わったマユミという人物は、仲間思いで正義感の強い女の子だったのかもしれない。


 仲間を倒されて怒りに燃えるマズル達がマユミ・・・に詰め寄る。


 多勢に無勢は承知の上だ。

 もうバスはいってしまい、彼女の運命は既に決していた。








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