第10話 強欲の宇宙船 ー 共謀者 ー



 ―――某国宇宙港、リニアレーン離陸道側道。



「これが新型の宇宙船かね?」


「はい、大統――」

「チッチッチッ、ここでその呼び方はタブーだよキミぃ。秘密事項はちゃんと守ってくれないと困るんだが?」


「こ、これは申し訳ございません、つい…」

 ヘコヘコする担当者を尻目に、彼は新造宇宙船を見上げた。全長680mの体躯が十数隻と並ぶ様はなかなかに壮観で、見ているだけでも飽きない。


「どうかね、キミ・・のリクエストに沿うモノだと思うんだが?」

「へ?」

「キミじゃあない。私の付き人に聞いているのだよ。で、どうかね?」

 付き人は黙っているだけだ。何もしゃべろうとはしない。しかし―――


「そうかそうか、そんなに喜んでもらえるなんてね。私もわざわざ海外に発注した甲斐があったというものだよ」

 担当者は首をかしげる。一体彼は誰と話をしているというのだろうか…と。


「では予定通りに1週間後、我々はこの船で旅に出られるというわけだ」

「い、一週間後に処女航海ですか。それは楽しみで…す、…ね…―――」

 担当者の姿が掻き消えた。まるで洗濯機の中に入れられたかのように丸まりながらひしゃげて潰れる。


「…シークレットも守れないような愚者に、我々と共に行く権利はない。あの世にいっても覚えておきたまえよ?」

 すでに血の一滴すら残さず掻き消えた担当者の魂に、彼は十字をきって祈る。その後ろで付き人は、口から軽くガスを吐いた。





―――某大陸国家

「影武者の用意は済んでるネ? 時間厳守、ワカてるナ? 連れてくノは役に立つのダケのコトよ!」


―――某北国大統領特別機

「わー、すごいやパパ。雲をどんどん追い越していくよー」

「ハハハ、よく目に焼き付けておけよー? もうお目にかかれないんだ、永遠にな」


―――某大金持ち所有大型旅客船

「地球の海を楽しむのも、これが最後だな」

「海なら移住先の星にもあるんでしょう?」「あーん、早く見たいわ~、新しい星の海~、どんなトコかしらぁん」



 世界中から続々と集まってくる者達。彼らはこれからの地球などもはやどうでもいいとする、特権階級者ばかりだ。



 しかし世界中のメディアは彼らの動向を砂粒程度も報道しない。

 報道管制は、史上最高の完璧さで彼らの居場所と行動を隠した。




 そして彼らは行く。為政者たる責任も、権力者たる威厳もすべてかなぐり捨て、民を見捨てて新天地へと旅立つ。


 かろうじてその日、報道されたのは新型宇宙船の処女航海…というわずか十数秒のニュース1本のみだった。









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