第4話 知らぬままに潰れ逝く ー 黒口獣 ー


「また消息を絶ったって?」

「ああ…まぁ宇宙は広大だからな。不測の事態なんざ起こって当然。っつっても? 年間にして何十万に1件程度じゃあ、遭遇しちまったら不運だと思うしかねーわなー、ハハハ」

 気楽な宇宙の旅は、他の宇宙船の不幸をも暇を潰す雑談のネタへと貶める。


 操縦席から見える光景は暗闇と星の瞬きばかり。操縦といってもオートドライヴ機能に任せっぱなしで、他に何かする事もない。


「宇宙人が攻撃してきたとか、そんなだったら張り合いもあるかもな。まー、消息絶っちまった船は今まで見つかったためしがねーから、原因もわかんねーの多いし」

 極々一部の人を除いて、上も下も消息不明になった宇宙船の事件など、ほとんど気にかけない。

 件数があまりに少ないのがその理由だ。番組やメディア配信のニュースでも、ほんの数秒か数行だけ伝えておしまいだった。



「宇宙の旅は何が起こるかわからない、ってんで命を落とす事もあらかじめ覚悟の上でー、って誓約書くだろ? だから関係者家族とかもあんま騒ぎ立てたりしないもんだから余計に取り上げられな―――」

 その異常に気付いた時、彼らは絶句した。


 どこまでも闇夜が広がる宇宙空間ではあるが、星という光源が常に存在している。ところが彼らの船の前から突如、その光源が一切消えてなくなったのだ。



 Bee! Bee!



「!! 重力反応!? いや…これはっ」

「や、闇に吸い込まれている!? ブラックホール超重力の屍星だとでもいうのか!!?」

「ありえねぇ!! なんでいきなり目の前に現われる!? く、とにかく回避、回避だっ!! マニュアルで船首回せ、スラスター最大出力…全力でぶっ飛ばせ!!」

 しかし船はどんどん漆黒の穴へと吸い込まれてゆく。厳密にはブラックホールとは言うものの穴ではない。

 超重力を持った質量の天体であり、一定以上近づいた時点で、その重力によって宇宙船ごとひしゃげ、彼らは死ぬ。


 しかし一つ、彼らの認識には間違いがあった。それは――――――


「な…に…?」

「ど、どうしたっ!? なんだ、早く言えっ!!」


「バカな、ブラックホールとの距離、10km?! 9…8…7…6…!?!?」


「ありえないだろ!! 計器がぶっ飛んじまってるんだよ!! でなきゃそんな距離…俺ら既にペチャンコになってるはずだぞ!!!?」

 彼らの認識が誤っていたのだ。ブラックホールと思い込んだそれはブラックホールではない。


「5…4…、3km! ち、ちくしょう、何がどうなって――――」



  バクンッ



 ブラックホールのようなものが突如二つ折りになって宇宙船を喰らった・・・・

 そして平面的になった “そいつ ” は、何事もなかったかのように宇宙の彼方へと去っていった。





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