第5話 機械と思い込んで ー ライブ・マシン ー



 ―――ピッ、ガガ。


「お、演算が終わったか。ごくろーさん、えーと何々? 大堂時重工業の最新型大型宇宙船は、外寸とエンジン出力から算出して、大気圏脱出の角度が……」

 衛星軌道上に浮かぶステーション。

 新しい型の宇宙船の発表を受け、常駐職員は予測される航路や星への突入角、または離脱経路といったデータをコンピューターに計算させていた。


 時刻は午前9時。やや遅めの朝食を口にくわえながら、出力された演算結果に目を通してゆく。



「! …おっと、ブライアンド・インダストリィの貨物船か。相変わらずギリギリのラインでキメてきやがるなぁ」

 200mほど離れた近接距離を通過し、地球にむかって降下してゆく貨物船。その余波でステーション全体が小刻みに振動する。

 職員は、ぶつかったらどーすんだと相手に聞こえない事を理解した上で、その場で文句を垂れながら、コンピューターの吐き出す結果をチェックし続けた。


 ・

 ・

 ・



「ふーむ、ま、こんなものか? あー、肩がこったな……とりあえずまとめたデータを地上に送って、と。よし! これで本日の業務は終了だ、お前もご苦労だったな」

 そう言って、ステーションの要ともいえるメインコンピュータのAIがおさまっているカプセルの表面を軽く叩く。


 人工知能AIとはいえ、人間味があるわけでも、性格や自我があるわけでもない。

 単なる演算機であり、AIたりえる特徴は、演算精度の自己改善による向上やデータベースの修正など、あくまで人間の道具の範疇におさまる程度のレベルである。


――――――ところが




「ん、なんだぁ? 一瞬灯りが……基本生命維持設備をチェック。液体燃料……グリーン、ステーション内配電……グリーン、外部太陽光発電パネル……グリーン、自家発電装置……グリーン、空調および重力制御もグリーンか」

 だが、ごく一瞬の停電は気のせいではない。


 彼はコンソール操作画面上で手を横に閃かせると、ステーションの管理プログラムを呼び出した。



「メインシステムに異常なし。ハッキングの痕跡も見られないし、新たに怪しいプラグインが自動インストールされたような形跡も……ん? なんだ、データ容量が増えて―――」


 ガァァンッッ!!


 Bee! Bee! Bee!


「な、なんだ!? 何がおこった!! ステーション内をチェック、システムを管理者権限で緊急フルスキャン!! 環境維持を最優せ……ん?」

 しかし彼の手は止まる。画面の表示が動かない。


<< ステーション内温度低下。空気バランスが崩壊してCO2が増大。 >>

<< 空気圧が変動。通信はオールエラー               >>


 彼が最後に耳にしたのは合成音声作り物による警告メッセージの嵐だった。


 そして完全に絶命した後、フッとコンソール画面が点灯する。


『……体内の・・・ 異物 の 死滅 を 確認。 これより、当ステーションは 独自に 生命活動 を 開始 する』








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