第6話 絆された侵入者 ー イントルーダー ー


 電子音と共に扉が開く。彼は油断なく身構え、しかし怪しまれぬよう堂々と歩を進めた。


「いらっしゃいませー」

 女は明朗快活な声で来訪を歓迎する。しかしそれは自分をめるための罠かもしれないと思い、彼は一瞬だけたじろいだ。


「こないだの銀河系アイドルライブSPみた?」

「おお、見た見た。木星コロニー出身のアミちゃん、超可愛かったよなー」

「ばっか、やっぱ“月からの侵略者”のボーカル、カグヤちゃん一択だろーがよ。着物の隙間からチラ見えたケツのラインがたまんねー」

 彼は思わず足を止めた。動揺―――しかし、悟られてはいけない。


「(まさか彼らに、気づかれている!?)」

 雑誌を片手に雑談しているだけのように見える少年達。だが、彼らがこの星のガーディアンでないとは限らない。


「(アイドルの話は、もしかすると暗号による情報交換である可能性も…)」

 彼はノドをゴクリとうならせる。帽子を深くかぶりなおして、早々と目的のブツの入手せんと、少年らを通り過ぎた。


「(よし、あとはそこの角を曲がれば―――……な、なにぃいッ!?)」

 なんと、目的のブツの陳列の前に恰幅のいいオバチャンが居座っているではないか!


 彼は戦慄した。

 調査によれば、彼女達は通称オバタリアンなどとも呼称され、中にはかなり危険な個体も存在するという、この星における第一級警戒対象となる生命体である。


「(お、落ち着け。接触しなければどうという事はない。刺激せず、相手が動くまでやり過ごせば!)」


 ・

 ・

 ・

「ありがとうございましたー」

 彼はブツを手に足早に外へ出た。強い日差しに一瞬、視界を奪われる。


 ―――ドスン!


「キャッ!? な、なんなんですの、もう!」

「(しまった、トラブった! い、いやここは冷静に、冷静に対処を…)」

 ぶつかって転んでいる女子高生らしき少女に手を差し伸べる。つとめてにこやかに笑顔を作りながら。


「だ、大丈夫ですか、お嬢さん。おケガは?」

「え、ええ。平気ですが…」

「よかった! それじゃあ私はこれでっ」

 彼は汗を流しながら手短にすませ、その場を去る。



 その後ろ姿を少し唖然としながら見送る彼女。

 すると、その下腹部の中にいるモノが少し蠢く。

「(ママ アイツ コノホシノ ニンゲン ジャ ナイヨ)」

「…え? それはどういう事ですの??」




「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ! ……な、なんとか目的のブツは入手できた。ミッション完了だ!」

 彼は安アパートの一室に飛び込んで鍵をかけると、ようやく深い息をついて落ち着いた。


 ウキウキしながら手に持ったコンビニの袋から、“ぷれみあむ・プリプリン”と書かれた商品を取り出す。



「姿形が普通の人間に見えているはずとはいえ、はぁ~…生きた心地がしない」

 この星に降り立ってからというもの、随分と長い時間が経過した。


 侵略に際しての偵察要員である彼は、手首のリングのスイッチを押し、銀色に輝く本来の体色に戻る。そしてそそくさと丸いちゃぶ台テーブルの前に丁寧にも正座して座ると、プリンを賞味しはじめた。


「はぁ~…やはりたまらないな、この至福のひと時は! 報告には、侵略は厳しい、偵察続行の必要アリと返しとこっと。うーん、んま~い♪」






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