第3話 異質な卵 ー パラサイト・オヴァム ー



『見てください、こちらが大堂時重工業が公開しました最新型の宇宙旅客船です。全長680m、幅185mと宇宙用旅客船では史上最大規模で』


――――プツン


 彼女はテレビ映像の電源を切った。空中に浮かび上がっていた映像が消失する。



「……これでよろしいのでしょう? さぁ、いい加減にわたくしから・・・・・・出て行ってくださいまし!!」

 搾り出すように声を荒げる。だが、30畳の広い部屋の中には他の人の姿はどこにもない。


「ソンナニ キラワナイデ。ママ ト ボク ハ オヤコ ナンダカラ」

 自身の下腹部よりくぐもった声と振動が響く。彼女の表情が恐怖に歪み、その場で床に崩れ落ちた。


「う、うっ……一体なんなのです。お父様を殺し、わたくしに取り憑いて何が望みなのですかっ?」

 大堂時家のご令嬢として何不自由なく好き放題に暮らしてきた幸せは、16歳の誕生日プレゼントにと連れて行ってもらった宇宙旅行をきっかけに崩壊した。


 肉の塊のような生物が船内へと浸入し、お付きのSSを全て殺害。父に取り付いた挙句、自動航行オートドライヴで地球へと戻ってくるまでの、実に3ヶ月もの間、彼女は何者かに乗っ取られた父に犯され続けた。


 結果として父は地球に帰った後に病死という形で急逝したが、本当は違う。


「イキモノ ガ ハンエイ シヨウト スルノハ トウゼン。ママ タチモ オナジ オナジ オナジ」

 謎の生物が取り付いた時点で父は死んでいたのだ。そして父の体内を経由し、生殖器を通して娘である彼女の胎内へとこの生物は転生・・した。


「同じではありませんわ!! ……ううう、わたくしはこれから一体どうすればいいんですの……」

 この謎の生き物が胎内に居座ってより2年。

 幸いにも成長して大きくなる、というわけではないらしい。お腹が膨らんだりしてこないため、他人には知られずに済んでいる。


 自身の母体であるからなのか、父のように生命を脅かそうとする様子もない。彼女は至極真っ当に女子校生として生活できている。

 だが日に日に胎内の生物は知能をつけているらしく、こうして会話ができるようになったのも昨年の夏あたりからで、そこから少しずつ言葉遣いや話す話題が高度化していった。


「ダイジョウブ、ダイジョウブ。ママ ハ ズット・・・ ボクタチ ト イッショ。 コロサナイ、コロサナイ。 ダイジョウブ、ママ ダイスキ、ダイスキ」

 彼女にとっての最悪は既に終わっている。卵巣の中の卵子は、全て謎の生物に犯され尽くされている事を、彼女はまだ知る由もない。



 しかし、今でも絶望のほどは十分過ぎる。


 裕福な金持ち特有の豪奢な部屋の中で彼女は一人、自身の両肩を抱いてただただ悲嘆にくれる事しかできなかった。






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