黒曜に染まる宇宙 ー Death in the Space ー
ろーくん
第1話 死なぬカラダ ー 魂食い ー
Beee! Beee! Beee!
けたたましく鳴り響く警報。しかし船内で動く者は一人として居ない。
高気密な3重の装甲壁の外はどこまでも闇が広がって、星の光点が散りばめられている。
Beee! Beee! Be……
警報を切るスイッチを何者かが押した。
しかしスイッチのボタンを押すソレは人の指の形をしてはいない。例えるならタコやイカのような軟体生物の足先と形容するのが最も近いだろうか?
「ωrωsαΘ……(urusai……)」
その生物は気だるそうにつぶやいた。発音そのものはまるで不明だが、確かな言語体系を有しているようで、高い知性を持っているようだった。
「yσsΘ、nёrωkα(yosi、neruka)」
科学の結晶たる、防汚性の高い合金の板が敷き詰められているブリッジ。ズリズリと這いずって移動するその生物は、壁につながれ、うなだれている全裸女性の股間へと入ってゆく。
気味の悪い生物が己の大事な場所に入っていくというのに女性は声一つ上げない。
生物がおさまって下腹部が妊婦のように膨らんでも、女性は微動だにせずにうなだれたまま。
……彼女は死んでいた。
否、その肉体は正常に心臓の鼓動を打っているし、目も開いている。呼吸もしている――――肉体は生きているのだ。ただ、その魂は既に死んでいる。
生きた肉体―――リビング・ボディ。
その宇宙生物は通称ソウルイーターと呼ばれた。
魂を糧とするこの生命体は宇宙船に潜入し、そこにいた生きた人間の魂を喰らい、居心地のいい女性体を探し、その肉体へと住み着く。
サッカーボール程度の大きさの肉の塊。そんな姿をしているせいか身体能力に乏しく、住み着いた
故に魂を喰らっても肉体は死なせず、正常な生命活動を保持させるのだ。
「………」
腹を膨らませた全裸女性が無言のままゆっくりと立ち上がる。そして操縦席へ向かうと宇宙船の行き先を入力し、自動航行を開始させてから椅子に腰掛けた。
船内には魂だけを食われた人間の身体が数多く残っている。彼らのカラダが生命活動を終えてしまう前に、ソウルイーターは船ごと母星へと持って帰えるのだ。
魂を失ったリビング・ボディは仲間達への土産。人間の肉体が朽ち果てるその時まで、彼らの動く住処と化す。
他生物の身体を乗っ取って暮らす宇宙生命体……それが彼らである。
――――広大な宇宙において、人類に死よりも恐ろしい結末を与えるものは無限に存在している。
それでも人々は、未知なる宇宙へのあくなき挑戦を止める事はないのだろう。
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