第6話 イロリ姫の憂鬱

とにかく、一息つくことにした。


「姫様、お茶の準備が整いました」

「ありがとう、アーニャ。ヴァゼル様も、御一緒にどうです?」

「あんなことがあった後にもかかわらず、お誘いいただき恐悦至極にございます」


まぁ、色々聞きたいこともあるし。なにより、今の状態で解散するのも後味が悪いからな。

俺用に、アーニャが作ってくれた、甘さ控えめの焼き菓子を食べながら紅茶を飲む。


「やはり、アーニャの淹れてくれた紅茶は格別ですね」

「確かに、イロリ姫様に淹れていただいた紅茶も美味しかったが、この紅茶はまた別格ですね」

「ありがとうございます」


ヴァゼルに褒められて、アーニャが少し照れている。

アーニャが褒められるのは俺も嬉しい。

そんな感じで、まったりとした時間を過ごしていると。


「ふむ、ところで疑問なのですが、先程のイロリ姫様は一体どうしたのでしょうか?」


唐突に、ヴァゼルが核心部分を聞いてくる。

あぁ、アーニャも聞きたそうにしている。


「何のことでしょう?」


とりあえず誤魔化してみる。


「私も、気になります。もし、姫様が変なご病気だったら心配です」


アーニャが、悲しそうな顔をこちらに向けてくる。

やっぱり正直に話さないとダメだよなぁ。


「ふぅ、隠していても仕方ないから、正直に話すとするか」


そう言って、いつものイロリ姫ではなく、イロリの喋り方に変えて話す。


「姫様!?」


やはり、少しアーニャが驚いている。


「そんなに驚かないでくれ、喋り方は変わってるが、お前の知ってるイロリ姫だ。まぁ、その、なんだ、俺はイロリ姫なんだが、俺でもあるんだ。なんだか、説明がややこしいな」

「ふーむ、それは、多重人格ってやつなのかな?我々魔族の中でも、偶に強い魔力を持つものが、心を護るために別人格を生み出すと聞いたことがあるが」

「いや、それとは少し違うかな。俺は、自分がイロリ姫の自覚がある。逆に、俺自身が誰なのか分からない感じだ」

「そ、それでは、今までのことは、お忘れになっているのでしょうか?私のこと、姉姫様方や国王様、王妃様、それに侍女達のことは」


アーニャが、それを聞いた途端に不安になったのか、矢継ぎ早に聞いてきた。

そんなアーニャの頭を優しく撫でながら。


「そんなことはないよ。全部覚えている」


そう言って、アーニャを安心させてやる。

ただ、正確には記憶が蘇っているってのが正しいのだが。


「いつもの、イロリ姫様も幼気で儚気で可憐で素敵だが、今のイロリ姫様も姿に似合わず凛々しさがあって素敵だ」


突然ヴァゼルが、いかにも少女趣向があって、さらに男勝りな少女が好きだという偏好さを口にしやがった。

今話をしている間も、俺を見る目が時々いやらしさを感じたのはそのせいか。


「そうしたら、今度はこっちの質問に答えてもらおうか」


紅茶のおかわりを口に含み、喉を潤してから疑問を投げかける。


「ヴァゼル、お前が言っていた、イロリの中にある強大な力とはなんだ?」

「本当に知らないのですね。そうですね、正直言いますと私にも分かりません」


ヴァゼルの言葉に耳を疑った。


「はっ?何、ふざけたことを言っているんだ」

「ふざけてはおりませんよ。ただ、私の国の魔導師がこの国に発生した、魔力とは違う力の収束を観測しただけなのです」

「魔力とは、違う力?」

「えぇ、それが何なのか確認と、手に入れることが出来るのなら行動に移せとの命令で・・・」

「その、力がイロリの中にあったことに気付いたから求婚を申し込んだということか」

「元々、貿易を持ちかけ、この国を探索する予定でした。それも、今考えると恥ずべき愚考です」

「もう、終わったことだ。気にするな」


魔族の国の動向はどうあれ、ヴァゼルは改心したというし貿易も大丈夫そうなので、一応お咎め無しにしておこう。


「ありがとうございます。しかし、他の種族も力を狙って既に行動を起こしていると思いますよ」

「他の種族だと!?」

「我ら魔族は魔力の扱いに長けていたので、いち早く力の存在に気付き行動を起こしましたが。たぶん、力がイロリ姫の中にあることは、他の種族にも伝わっていることでしょう」


なるほど、間者は既に入り込んでいたということか。


「と、言うことは」

「はい、近いうちにどこかしらの種族の王族及び貴族が求婚に参りますでしょう。ただ、私も諦めてはいませんので、引き続きイロリ姫様にアプローチをさせていただきます。もし、そやつらが邪魔をするというのなら全面戦争ですね」


め、面倒くせぇ。

頭を抱えながら、これからのことを憂いていると。


「イ、イロリ姫様は、ぜ、絶対に誰にも渡しません!」


突然、アーニャが叫んだ。


「ほほう、この私と張り合うつもりですか?」

「た、たとえ魔族の王子様でも、他の種族の方だとしても、姫様を渡しません」


ヴァゼルとアーニャが、火花を散らしながら睨み合ってるが見える。


とにかく、これ以上面倒ごとなってほしくない。

そう願っていたが、次の日には新たな面倒ごとがやって来たのだった。

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前世の記憶が蘇ったロリ姫はなぜか異種族にモテモテだが絶対に貞操を護る為に奮闘する! からうり @xinnsakuji

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