<「その勇者、無職」を読んでのレビューです>
世界を救った勇者が、日常に戻ってやることを見つけられず、街や森をゆったりと歩き回る様子が、静かに心地よく描かれている。子どもたちとのやり取りの細部まで丁寧に描かれており、「勇者さまみて! お花みつけた!」の一節では、勇者の優しさと無垢なやり取りの楽しさが自然に伝わる。
街での散歩や水汲みの場面でも、環境描写と心理描写が重なり、読者も一緒に歩きながら安心感と微かな緊張を感じられる。「遠回しに暇だったら遊んであげてって、お世話頼まれてるじゃん」という表現は、日常の中に勇者ならではの特別さをうまく挟み込み、テンポよく読ませる。
森での馬の場面では、眼下の荒野まで見渡す描写や、子どもたちの期待のまぶしさを描くことで、平穏な生活の中に潜む小さな冒険心を表現している。全体を通して、戦いの後の生活や人間関係を丁寧に描き、優しく温かい日常の雰囲気が感じられる、好意的で読みやすい作品。無職と無色がかかってたりします?
ストーリーの骨子自体はよく言えば王道、悪く言えばありふれた作品なのだが、個性的というか癖のあるヤンデレ気味なヒロイン達のキャラが立っていて、今では一周回って新鮮になってしまった癖のない王道勇者との掛け合いが面白く、一気に読んでしまいました。最初は優しい世界の話かと思ったがそこまで優しい世界ではないかと思いつつもやっぱり優しい世界(錯乱)。
伏線の使い方がなかなかうまいのと、相手の名前が認識できない呪いというギミックの使い方がうまく、読者の心を揺さぶってくる作品。
いわゆるなろう系の作品をたくさん読んできて飽き気味の方(私のことです)には一周回って新鮮に感じる良作だと思います。
追記)以下少しネタバレ気味な内容含む。区切りまで読まないと気づかないと思うけど初見なら読まない方が楽しめるかも。
夜に最新話まで一気に読んで、一晩開けて冷静に考えるに、最初は優しい世界の話なのかなと思って読み進めさせておいて、世界を救った勇者が田舎で子供と遊んでてはいはいテンプレテンプレ…と思考する読書経験多目ナ人の読者心理を利用した巧みなトリックに作者の力量を感じました。構成的に起承転結の転のところでのあるキャラクターの衝撃的な一行のセリフ。それ単体ではたいしたセリフでないのにあの流れで持ってくると頭をガンとやられるような衝撃。完全にやられました。すごいね。
週間ランキングで今100位前後だけど、もっと上に行ってもおかしくないというかぜひ行ってほしい良作ですね。
冷静に考えるに誤字脱字や違和感を感じる変な文章表現も少なく、編集が校正とかしなくても即書籍化できるレベルの完成度。ヒロインズも魅力的に描けてるし構成もすばらしい。ラノベ編集部よ掘り出し物だぞはよ気づけ!早く書籍化するんだ!騎士ちゃんや死霊術師さんのイラストが見たいですぞ。作者さんは私が知らなかっただけでベテランかもともとプロ又はセミプロの方かもしれませんが。
キャラに関しては個人的に姫騎士ちゃんが魅力的に書けてるなと思いました。わたしは今までなろう系で頻繁に出てくる姫騎士ヒロインのなかであまり好きになったキャラはいなかったのですが、このキャラは勇者から見て気さくな友達キャラな一面とヤンデレ気味な一面と高貴な王族である「姫」の一面と巧みに描きわけられていてすごく気に入りました。
死霊術師さんもドッピキするレベルの暗い背景の割に良い意味で悲壮感が無く魅力的に描けていると思う。この二人の存在だけで読む価値がある。勇者と武道家さんは平凡なキャラなのでそこは残念だが濃いキャラばっかりだとクドくなるのでバランスをとったのかな。
王道にうまくスパイスを加えて読者の心を揺さぶる作品を作るあたり、作者さんの力量はかなり高いと思うので今後も期待させていただくと言うことで文句なしの星3つをつけさせていただきます。