第1話 その名はブレイライト 後編
―採掘所―
「よしいけ!ワシの最高傑作、ロードクラッシャーよ!
この山には完璧なお前を
さらに強化するための資源が眠っておる!
稼働テストもかねて掘って掘って掘りまくるのじゃ!」
完全に調子に乗っているアイザックと、
完璧という言葉の意味をなんとか思い出そうとする4人の部下たちが
分担して操縦する、ロードクラッシャーと呼ばれた、
40mを超える巨大なサーキメイル。
騎士甲冑とはかけ離れた、
直線の箱を組み合わせたような人型のフォルムを持つ赤い装甲。
ただし右腕だけは円柱型に球体関節で、先端にはドリルが備わっていた。
ロードクラッシャーは操縦に従い、
右腕についたドリルで採掘場の壁に乱暴に穴を開け始め―――
その背中にミサイルが直撃し爆発が起こった。
巨体ゆえ、大した衝撃ではなかったが、
攻撃を受けたという事実に、アイザックは振り返る。
「なんじゃ!?」
空から2機の飛行機、スカイブレイブとブレイが接近する。
『でかい!気を付けろライト!』
「わかってる。いざとなれば・・・」
油断なく相手のサーキメイルを観察するライト。
今の自分たちの装備が通用する相手か、それを見極めているのだ。
「な、なんじゃあの乗り物は?空を飛んでいる!?」
一方のアイザックは初めて見る飛行機に驚いていた。
回路が発明され、魔法が簡単に使えるようになった現代でも、
空を飛ぶ乗り物は作るのが難しいとされているからだ。
技術者としての敗北感を感じ、奥歯をかみしめる。
青い方の飛行機、ブレイがロードクラッシャーの目前まで接近した。
『モードチェンジッ!』
人型に変形し着地する。
「なんと!?人型に変形した!?」
空を飛んだうえ、人型に変形した。
明らかにロードクラッシャー以上の技術力を持って作られている。
これでは最高傑作の名が泣く。
「やはり早急にさらなる傑作を生み出さなくては!」
皮肉なことに採掘場荒らしを止めに来たブレイの存在が
アイザックの対抗心に火をつけ、採掘場荒らしを加速させる。
そんなことは露とも知らず、ブレイはロードクラッシャーを指さして告げる。
『今すぐ破壊活動をやめるんだ!この採掘所にはまだ人が残っているんだぞ!』
「破壊活動じゃと?何を言うか!このロードクラッシャーの強化に
必要な資源をいただくだけじゃわい!」
そう叫ぶ老人のそばでやれやれと言った感じに肩をすくめる部下たち。
「ああ、アイザック様はこうなれば止まらない。」
「これさえ無きゃただの面白いジジイなんだけどな。」
「やめろって。聞こえたらどうする。」
「大丈夫。聞こえてないみたいだ。」
ブレイはそんなロードクラッシャー内部の様子など知らず、
その赤い巨体を指さしたまま続ける。
『そんなデカブツを造る金があるなら買えばいいだろう!
なぜわざわざ採掘所を襲う!』
「貴重でな!出回っておらんのじゃよ!邪魔をするなら・・・
やれ、ロードクラッシャー!」
『くっ』
振り下ろされた巨大なドリルのついた腕をブレイは間一髪でかわす。
ブレイの動きでも間一髪だった。
ドリルの回転、関節の曲げ伸ばしなど、動作を複数人で分担することで
複雑かつ素早い動きを実現しているのだ。
作った本人が飛行機を前に敗北感に苛まれているとはいえ、
最高傑作と謳うだけの性能は持ち合わせていた。
ロードクラッシャーは完全に戦闘態勢を取っている。
「話してわかる相手じゃないのか・・・
しかたない。ブレイ!あれをやるぞ!」
『了解!』
ブレイが飛行機に変形し、スカイブレイブとともに黄金のエネルギーをまとう。
「なんじゃ、アレは?」
エネルギーが十分に放出され、2機の飛行機が黄金に輝き、
今朝ザックォーを倒したように、
前後からロードクラッシャーを挟むように突撃する。
「『ツイン・ブレイブ・アタック!』」
2機のエネルギーと連携によって敵を粉砕する必殺の一撃。
ロードクラッシャーの胴体に前後から激突する。
だが、ロードクラッシャーの装甲は粉砕されることはなかった。
それどころか傷一つついていない。
ロードクラッシャーが身をよじる。
2機の飛行機はすぐに離れ、距離を取った。
「・・・無傷だと?」
「ぬははははははははははは!ひょっとして今のは攻撃か?
痛くもかゆくもないわい!」
今の2機でできる最大の技が一切通じなかった。
ロードクラッシャーに乗り込んでいるアイザックと4人の部下たちの魔力が
合わさっているため装甲の強化率はザックォーの比ではなかった。
戦闘では飛行できる目の前の相手よりロードクラッシャーの方が強い。
そんな確信がアイザックの心に余裕を取り戻し、
人相の悪い老人は不敵に笑う。
「何も出来んならおとなしくしておれ。邪魔さえしなければ見逃してやるわい。」
アイザックがそう言ってロードクラッシャーは強引な採掘を再開した。
『ライト!このままでは採掘所の人たちが!』
「こうなったら・・・!」
ライトが通信機に向かって叫ぶ。
今の2機で勝てない相手。ならば、自分達のやることは一つだ。
「ランドブレイブ!緊急発進!」
「了解!ランドブレイブ、緊急発進!」
ルーメの操作とともに平野にある隠しゲートから新たなマシンが発進する。
スカイブレイブの3倍はあろうかという巨大なトレーラーだ。
トレーラー、ランドブレイブは採掘所に急行する。
「んん!?今度はなんじゃあのバカでかいトレーラーは!?」
全長はロードクラッシャーよりも長いのではないかと言うほど
巨大なトレーラーが迫っていることに気付き、
アイザックは再び動揺する。
「行くぞブレイ!・・・合体だっ!!」
『了解!』
ライトはスカイブレイブのパネルを操作し、叫ぶ。
「『ブレイブ!ライトアップ!』」
スカイブレイブと変形したブレイの後ろを飛ぶ。
その下の機械も左右対称に二つに分かれており、
荷台のタイヤ部分ごと左右に開いて足となる。
その後前輪部分が左右に飛び出す。
キャノピー部を変形させ頭を出す。
耳飾りのついたヘルメット型に変形。
合体が終了し、空中で全長40mの鋼の巨人が完成する。
地球から星を渡り、世代を超えて受け継がれた力。
人の心を宿した、機械の英雄。
二人はその名を叫ぶ。
「『現界、ブレイライト!』」
ブレイライトはゆっくりとロードクラッシャーの前に着地する。
アイザックは飛行機を見た時以上の衝撃を受ける。
「合体して、別のサーキメイルに!?お前ら、何者じゃ!?」
その問いに、ライトはフッと笑い、
「知らないのなら、お答えしよう!」
「『愛の光が暗闇照らし!
勇気の刃が悪を断つ!
幻界英雄ブレイライト!
正義を背負ってここに現界!!』」
セリフに合わせ、腕を斜めに上げてアーチを描くように振りぬき、
逆の手を添えた後、空を割くように振り下ろす。
そして胸の上で両腕を交差させ、
それを頭上まで持ち上げた後一気に左右に引き戻す。
まるで舞台の役者のように大仰にポーズを取りながら名乗りを上げた。
合体したことに驚いたアイザックだが今度はその名前を聞いて驚くことになる。
「ブレイライト!?ただの噂ではなかったのか!」
「人々の幸せのために作られた回路を使った悪事、見過ごすわけにはいかない!」
悪事と断言されそれに付き合わされているアイザックの部下たちが
居心地悪そうに顔を見合わせる。
正直、彼らには噂のブレイライトと戦おうという気は起きない。
「おのれ、邪魔をするなら容赦はせんぞ!」
しかしアイザックは憤慨し、やる気十分だ。
部下たちはアイザックの指令に従い、慌てて操縦を再開した。
ドリルのついたロードクラッシャーの腕がブレイライトに迫る。
だが、ブレイライトはその巨体に似合わぬ、
ロードクラッシャー以上に素早い動きでそれをかわし、
ドリルが取り付けられている円柱状の腕の方をつかんだ。
「ぬぅ!振りほどけ!」
アイザックが叫ぶ。
だがどれだけ出力を上げてもブレイライトの握力から逃れられない。
関節が嫌な音を立て始め、やがて火花を散らして煙を吹いた。
「『うおおおおおおおおおおおおおお!』」
ブレイライトはそのままロードクラッシャーの腕を力任せに引きちぎった。
「なんじゃと!?なんというパワーだ!
どれだけの魔力を込めればこんな出力が!?」
5人分の魔力を込めた剛腕が軽々とねじ伏せられ、引きちぎられた。
目の前の相手の底知れない力に部下たちが震え上がる。
「・・・魔力なんて込めてないさ。俺にそんなものないからね。」
と、ライトはスピーカーをオンにせずつぶやいた。
そう、彼には魔力がない。母はこの星の住人だったし魔力も使えた。
だが残り半分の地球人の遺伝子が強かったらしい。
ゆえにブレイライトに魔力は通っていない。
ブレイライトを動かすのは魔力ではなく、電力。
そして、父から受け継いだ英雄の心、勇気だった。
「ブレイライトは、地球のロボットだッ!決めるぞブレイ!」
「『幻界剣!』」
腰のサイドアーマーが開き、剣の柄が顔を出す。
ブレイライトはそれを掴み、一気に抜き放った。
エネルギー制御機構を組み込んだ必殺の剣、幻界剣を。
膨大なエネルギーが供給され、刀身が黄金に光輝く。
その光がオーロラのように伸びてロードクラッシャーを拘束した。
「なにぃ!?い、いかん。脱出じゃ!いそげ!」
エネルギーのフィールドに包まれ各回路が灼けついていくのを感じた
アイザックとその部下たちは脱出装置に向かって走る。
ブレイライトはそのまま剣を中段に構え、
一気にロードクラッシャーの懐へ突っ込んだ。
「『極光・流星斬り!』」
すれ違いざまに一太刀。
ツインブレイブアタックをはじき返した強靭な装甲はまるで
熱したバターでも切るかのように容易く切り裂かれ、
ロードクラッシャーは胴体から真っ二つになり、
暴走した魔力で爆散した。
だがそのエネルギーはオーロラが閉じ込め、周りに被害は出ない。
爆散の直前、タイヤのついたカプセルのようなものが
ロードクラッシャーの足元から飛び出し、森の方へ走り去った。
オーロラが消えた時、そこには剣を収め、
たたずむブレイライトだけが残っていた。
『乗っていた奴らは逃げたようだな。』
「ああ。なんとなくだけど、
根っからの悪人ってわけじゃなさそうだったし、
これに懲りてくれればいいけど。
さあ、急いで撤収だ。ギャラリーも増えてきたし。」
『ん?』
見れば一般人や衛兵など様々な人々が採掘場近くに集まり
ブレイライトを見上げていた。
「やれやれ、見世物ってわけじゃないんだけどね。」
苦笑いしながら肩をすくめるライト。
ライトが最初からランドブレイブを呼ばなかった理由はこれだ。
ブレイとスカイブレイブは素早く飛んで身を隠せるが、
全長40mを超す巨大トレーラーなど目立って仕方がない。
帰還の際、秘密ゲートの場所がばれるかもしれないのだ。
「今朝は輸送トレーラーを守ってくれてありがとう!」
「採掘場の作業員はあなたのおかげで助かった!ありがとう!」
「君はどこの誰だ!?ぜひ衛兵団に!」
人々から歓声が上がる。
『・・・まあ、いい意味で見られるなら、いいんじゃないか?』
と、ブレイ。
「まあ、悪い気はしないね。」
と、ライト。
「・・・とはいえ、基地の場所バレずに帰るの大変そうだな。
ルゥ、いい感じの帰還コース考えてくれる?」
「かしこまりました。ではまず・・・」
通信機からルーメの声が返ってくる。
ライトはそれらを頭に叩き込み、
「よし、それで行こう。これから帰還する。」
「はい。お疲れ様です。」
これが、この世界の暗闇を光で照らす英雄、
ブレイライトの活躍の1ページである。
彼が、いや、彼らがいる限り、ブライト・シティの光が消えることはない。
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