幻界英雄ブレイライト(旧版)

コケシK9

第1話 その名はブレイライト

第1話 その名はブレイライト 前編

惑星「F」。

十数年前、この惑星にたどり着いたある地球人は

ここをそう呼称した。


この星の住人は「魔力」と呼ばれる力を誰もが持っており、

その魔力を詠唱や儀式で操り「魔法」として活用していた。


地球人、じん 光博みつひろは魔法のメカニズムを研究し、

詠唱や儀式を代行して魔力だけで魔法を発動できる「回路」を発明した。


誰もが簡単に魔法を行使できる時代が到来。

馬車は魔力で動く自動車にかわり、

家庭でもちょっとした操作で簡単に火をおこせるようになり・・・


文明まほうの光に照らされ、惑星Fの国々は大きく発展した。


しかし発展ひかりあるところには犯罪かげが差す。


回路によって動く巨大な人型兵器「サーキメイル」を開発し、

それをばらまく犯罪結社「魔王軍」をはじめとする

数々の悪が登場したのである。


一流の魔導師が数人でかかってようやく一体倒せる

サーキメイルを量産する魔王軍に誰もが恐怖し、

未来は闇に閉ざされたかのように思われた・・・

しかし、影があるところ、それを光で照らすものもまた現れるのだ。

その名は――――


―ブライト・シティ 郊外―


「ひぃぃ!なんでこんなところにサーキメイルが!」


ブライト・シティへの物資を輸送している、

魔力で動く大型トレーラーの行く手を、

一騎のサーキメイルが阻んでいた。

全長10mの、人間からすれば異様なほど巨大な、騎士甲冑のような姿。

魔王軍が量産し、目を付けた悪人たちにばらまいているサーキメイル、

ザックォーである。ザックォーを操っているスキンヘッドの男は

このところ近辺を騒がせている追剥であった。

魔王軍からサーキメイルを入手した彼はまさに鬼に金棒。

厚い装甲で普通の追剥は寄せ付けない堅牢さを持つ、

大型の輸送トレーラーさえ標的にし始めたのだ。


「さあ、おとなしく積み荷を渡してもらおうか。」


下種な笑みを浮かべて男は運転手に告げる。

もちろんサーキメイルの装甲の向こうにある表情など見えないが、

この男の人柄はこの態度だけで十分伝わることだろう。


「やめてくれ!これは医療用の・・・」

「わかっている!だからよこせと言うんだ!高く売れるのでな!」

「そんな!病気で待っている人たちが町には何人も・・・!」

「死にぞこないがどうなろうと知ったことか!」


トレーラーの運転手は絶句する。

何ともわかりやすい悪人だ。

これが物語の中なら、今から正義のヒーローが現れて

何とも痛快なやり方で懲らしめてくれるのだろう。

だがこれは現実。町のヒーローたるべき衛兵団は

今から呼んでも間に合わないだろう。

そもそも彼らではサーキメイルに勝てるのかどうか怪しかった。


「さあ、とっとと降りろ!」


しびれを切らした追剥は運転手を座席から追い出そうと、

ザックォーの腕をトレーラーに伸ばす・・・

もうだめか―――運転手が諦めそうになったその時・・・

空から円筒状のものが複数飛んできてザックォーの背中で爆発した。

ミサイルという武器だがこの星の住人は知らない。


「ぐおっ、何だ今のは!?爆発魔法か!?」


突然機体全体を揺るがすほどの衝撃に見舞われ、追剥の男はあたりを見渡す。

だが地上には自分とトレーラーしかいない。

しばらくあたりを見回した後、ふと上を見上げると、

空にまっすぐな翼のついた緑色の乗り物が飛んでいた。

飛行機だ。これもこの星の住人は知らない。


「空を!?鳥のサーキメイルだと!?」


サーキメイルに乗った男が動揺した、その一瞬の隙は

トレーラーの運転手にとって最大の好機だった。

全速力でトレーラーを発進させ、ザックォーの脇をすり抜け町に向かう。


「貴様!」


追剥の男がトレーラーを追いかけようとすると、

飛行機の機銃が火を噴いた。

安価な量産型とは言えサーキメイル。

弾丸は魔力の通った装甲に阻まれるが、

数秒間動きを鈍らせるには充分であった。

トレーラーはその間に追剥との距離を十分にとる。

ここまで距離が開けば、

さすがにサーキメイルの2足歩行では追い付けない。

トレーラーは逃げ切ったのだ。

せっかくの獲物を取り逃がした追剥は歯噛みし、

自分の周囲を旋回している飛行機をにらみつける。


「くっ・・・貴様、何者だ!?」


飛行機からの返事の代わりにまた別の飛行機が飛んできた。

こちらは色が青い。

新たに現れた方の飛行機はまっすぐにサーキメイルの方へ飛んでいき・・・


『モードチェンジッ!』


飛行機の前に突き出した部分が二つに割れ、根元が下に折りたたまれ、変形して足に。

機体の横についた翼が斜め上に折りたたまれ肩の装飾となり、

付け根のブースター部分から腕が生えた。

コックピットと思しきキャノピー部分が丸ごとひっくり返るように反転し、

頭が出て来る・・・その姿は・・・


「人型に変形した!?・・・まさか、話に聞くブレイライト!?

 ただの噂ではなかったのか!」


変形した全長15mの青い鋼鉄の巨人は着地するとさらに

動揺する追剥の乗るザックォーを指さし、


『市民の命を助けるための物資を私利私欲で奪おうとするなど、

 この正義の心にかけて、許しはしない!覚悟してもらうぞ!』


自らを正義と名乗り、宣戦布告する。


「何が正義かっ!そんなもので飯は食えんぞ!」


追剥の男はブレイライトの噂は聞いていた。

悪人たちの前に颯爽と現れ、天誅を下す鋼鉄の巨人がいると。

そして既に魔王軍のサーキメイルが何騎も破壊されていると。

(それが何だ。この俺にかなうものか!)

だがサーキメイルを得て力に酔っていた追剥の男は

根拠のない絶対の自信に満ちていた。

その自信が、男に戦うという選択肢を選ばせた。

ザックォーの腰にマウントされたスピアを構え、青い巨人に突進する。

だが素早く動く巨人にあっさりとかわされ、

おまけにカウンターでキックを喰らった。

衝撃が再びザックォーのコックピットを揺らす。


「ぐおおおおおお!

 なぜあんな動きができる!?

 機体各部をあそこまで正確にコントロールするなど・・・!」


サーキメイルは各部に魔力を通し、指令を送って操縦する。

両手足、指の一本ずつに至るまで別々の命令を送らなければならない。

ゆえに動きはゆっくりとしたものになるか、

速く動くならさっきの突撃など、単調になりがちなのだ。

それを、目の前の巨人は

「素早く」「飛び上がって攻撃をかわし」「空中で体をひねり」

「そのまま蹴りをかました」のである。

その複雑な動きを平然とやってのける相手に、追剥の男は戦慄する。

その時、空で旋回していた飛行機から巨人へ通信が入った。

これは追剥の男には聞こえていない。


「ブレイ!一気に決めるぞ!」

『了解だ、ライト!』


ブレイと呼ばれた鉄の巨人が飛び上がり再び飛行機に変形する。

その青い機体が少しずつ黄金の光を帯び始める。

それは近くを飛ぶ緑色の飛行機も同じであった。


「な、何だ?何をする気だ!?」


うろたえ、何もできずに2機の飛行機を交互に見る追剥の男。

もっとも、冷静でいられたとしてもスピアしか装備されていないザックォーでは

空の敵相手にできることなどたかが知れているが。


やがて黄金の光に機体全体を包まれた2機の飛行機がいったん離れ、

ザックォーの立っている道の両端に移動する。


「『ツイン・ブレイブ・アタック!』」


高密度のエネルギーをまとった2機の飛行機が、

超低空を飛行しながら前後からザックォーを挟むように突撃した。

二機の飛行機は絶妙な距離感ですれ違い、間にいたザックォーはバラバラに粉砕された。


「ば、馬鹿な!サーキメイルの装甲を、こうも容易く!?うおおおおおおおおお!」


空に追剥の絶叫が響き渡った。


十数分後、トレーラーの運転手の通報により町の衛兵団が到着すると、

そこにはサーキメイル、ザックォーの残骸と、拘束された乗り手だけが残されていた。


「くそっ!ブレイライトめ・・・」


ザックォーに乗っていた追剥の男が悪態をつく。


「またブレイライトか・・・いったい何者なんだ?」


衛兵たちは首を傾げた。



―上空―


緑色の方の飛行機に乗っている少年、ライトは一息ついた後、拠点に向けて通信を送る。

通信には自分と年の近い少女の声が応えた。


「こちらライト。悪党は片づけたよ。これから帰還する。」

「了解しました。お疲れ様です。

 第3秘密ゲートを開きますのでそちらからご帰還ください。」

「了解。」


2機の飛行機はブライト・シティ郊外の森に到着。

その木々に隠れたゲートが開き、帰還した主を迎え入れる。


―ジン家地下 秘密格納庫―


ブライト・シティ随一の富豪、ジン家。

この家は、地球人、じん 光博みつひろが今は亡き妻と立ち上げた「ジン工房」の

「回路」を用いた製品が生み出す莫大な利益によって成り上がった。

「ジン工房」はほかにも資材流通をはじめとする幅広い事業を展開しており、

各方面から大きな信頼を勝ち取っていた。

そんなジン家の財力を表すような大きな屋敷の地下には、

それに負けないほどの大きな格納庫が存在した。

森の秘密ゲートから帰還した2機の飛行機がその格納庫に収まる。


「おかえりなさいませ、ライトさん。それにブレイも。」

「ああ、ただいま、ルゥ。今回も間に合ってよかった。

 あのトレーラー、ちゃんと町に着いたんだよね?」

「はい。医療物資もきちんと病院に届けられたそうです。」


格納庫に戻り乗っていた飛行機「スカイブレイブ」から降りてきた黒髪と青い瞳の少年、

この格納庫の所有者、ジン家の跡取り、「ライト・ジン」を

ルゥと呼ばれた、短い赤髪に黄色い瞳、メイド服の少女が出迎える。

ジン家の従者、「ルーメ・ヘルフェン」だ。


「先ほどの出撃でスケジュールが遅れました。

 本日はこれから経済学のお勉強です。

すぐに準備なさってください。

その後は夕方の企画会議に出席していただきます。

まあ要は見学です。それから・・・」


今後の予定を挙げていくルーメ。

ライトはそれらを頭に叩き込み、先ほどまで飛行機で戦闘していた疲れなど

一切見せない余裕の笑顔をルーメに向ける。


「了解。じゃあ行ってくるよ、ブレイ。」

『ああ。何かあったらすぐに呼ぶんだぞ、ライト。』

「わかってる。」


ブレイは自分の飛行機から降りてこない。

否。初めから飛行機に乗ってなどいないのだ。

コックピットがあるべきキャノピー内部には地球製の機械が詰まっている。人工知能だ。


ライトとルーメは格納庫を後にし、勉強のための部屋へ向かう。

移動しながらルーメがライトに話しかけた。


「何度みても不思議です。ブレイはどうやってものを考えているんでしょうか。」

「父さんが説明してくれたことがあるけど、全然わからなかったよ。

まだまだ勉強が足りないってことだね。頑張らなきゃ。」

「今からやるのは経済学ですけどね。」

「まあ・・・それも大事さ。」


ライトは苦笑いで答えた。

ブレイと協力してサーキメイルと戦う戦士である前に、

ライトは「ジン工房」の跡取りであった。

スカイブレイブの運用などの活動資金はジン家の私財から出ているので

ジン工房を無事に受け継ぎ、経営すること、

つまりジン家の財産を存続させることもまた、

重要な戦いなのだ。

そのためには今日の企画会議など、実際に父の仕事を見て覚える事の他に、

何よりも勉強が必要であった。


―ブライト・シティ 郊外―


文明まほうの力で光輝く街、ブライト・シティ。

街から一歩出れば、他の街とつながる道だけが整備されているくらいで、

ほとんど手つかずの自然が広がっている。

たった十数年で進められた急激な発展は街だけを明るく照らしていた。

そして街の周囲には光が木々にさえぎられた、昼でも薄暗い影の森。

森の中、誰も近づかない場所に、ある地下室への入り口が隠されていた。


―アイザック所有 地下研究所―


「ぬはははははははは!ついに完成した!これぞこのワシ、

 世紀の天才錬金術師、アイザックの現時点での最高傑作!

 最強のサーキメイルじゃ!

 魔王軍の量産型なんぞ、目じゃないわい!」


白衣を着た人相の悪い老人、アイザックが薄暗い格納庫で大笑いしている。

禿げてはいないが、髪は真っ白に、肌は褐色に染まっていた。

その後ろで彼の部下たちが拍手しながら歓声を上げる


「さすがアイザック様!」

「これならザックォーなんて瞬殺です!」


口々に老人とその作品をほめたたえる部下たち。

建造には助手として彼らも関わっていたので完成した喜びもあった。

部下からの絶賛の声を一通り聞いたアイザックは

満足そうに頷き、部下たちに号令を飛ばす。


「早速起動テストに入るぞ!準備せい!」


アイザックの号令を受けて部下たちは一斉に動き出した。

部下たちの向かう先には、全長40mを超える、

見上げるほどの巨大なサーキメイルがあった。


起動準備に入る部下たちを見守りながらアイザックはふと思いついたように言う。


「そうじゃ。こいつを使えば・・・ぬふふふ。目的地が決まったわい。」


人相の悪い顔を一層ゆがめて老人は微笑んだ。

また何かよからぬことを考えているな、

これさえ無ければ・・・と、

彼の部下たちが呆れた顔になるが何か言える者は居なかった。


―ジン邸 食卓―


「いただきます。」


勉強、企画会議の見学など、この日の予定を終えたライトが食卓に着く。

食卓には食欲をそそる色とりどりの料理が並べられていた。

ライトは上品にそれらを口に運ぶ。


「うーん。シェフの料理は今日も最高だね。」


流石に少々疲れていたためか、もともと美味な料理は

さらに上のランクのご馳走に感じた。

ライトが夕食を楽しんでいると、テーブルの上座の側に座っていた男が口を開いた。


「ライト。どうだ?調子は。」

「父さん、ソレ毎日聞いてくるね。」

「これでもお前を心配している。」


ライトの父親、魔法回路の発明者、ミツヒロはそう言って息子を見据えた。

息子も、もう18歳になる。これまでできる限り鍛えてきたし、学ばせてきた。

まっすぐに育った自慢の息子だ。

それでも心配なのだ。


サーキメイル登場の原因となる回路を発明したのは自分だ。

つまり魔王軍の登場も半分は自分のせいだ。

本来は自分が戦うべきだが、

地球から持ち込んだロボット・・・

かつての相棒、ブレイやスカイブレイブを操る適正はすでに失っていた。

ゆえに息子に託した。そのためにライトを鍛えたのだ。

だが息子にいつまでも戦わせ続けるわけにはいかない。

一刻も早くサーキメイルに対抗するほかの手段を見つけなければ。


衛兵団にでもサーキメイルを配備できればいいのだが、

サーキメイルの建造には特殊な技術が必要で、今のところ魔王軍や、

一部の変わり者たちにしか作れなかった。

魔王軍は当然ながら、変わり者たちも技術提供などしてくれる連中ではない。

難しい顔をするミツヒロを、ライトはまっすぐに見据えて微笑む。


「俺なら大丈夫。父さんに鍛えてもらってるからね。

 この町の平和は、必ず守り抜いて見せる。」

「・・・そうか。」


息子のまっすぐな瞳を見るとミツヒロは少し安心できた。

こと正義感や戦う戦士としては、

おそらくライトはもう自分よりしっかりしているだろう、と。

改めて息子の成長を実感し、ミツヒロは優しく微笑んで頷いた。


その時、突然、町中に警報が鳴り響いた。


「何事だ!?」


ミツヒロは立ち上がり、近くに設置してあった地球製の通信機を起動する。


「ブライト・シティ付近に巨大なサーキメイルが出現!場所は・・・

 鉱石採掘所です!」

「採掘所を荒らす気か?もう遅い時間だが、まだ作業員が残っているはずだぞ!」


それを聞いたライトはすぐさま駆け出し、取り出した自分の通信機に叫ぶ。


「ブレイ!警報は聞こえたな?緊急出動だ!」

『了解!』

「ルゥ!準備してくれ!」

「はい!既に!」


見ればルーメは廊下にある緊急用の通路の隠し扉を開いていた。

この通路は格納庫に直結している。


「よし!」


素早く通路を駆け下り、

格納庫に到着したライトはそのままスカイブレイブに乗り込む。

スカイブレイブは通信機の遠隔操作で既に起動しており、

すぐに発進できる状態になっていた。


「第2秘密ゲートを開きます。

 ゲート周辺に不審物なし。いつでも出られます。では、ご武運を。」

「ああ。ブレイ、スカイブレイブ、発進!」

『よし、行くぞ!ライト!』


格納庫から通路を進んでいき、町から少し離れた森のゲートから

2機の飛行機が飛び出し、

そのまま採掘所に向かって加速しながら飛んで行く。

己の信じる正義を成すために。


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