第3話 激闘の海底都市 part3


―海底 魔王軍工場 爆破跡―


「ロボットだって・・・?あいつが地球人ってことか!?」

『それは分からん!だが気を付けろ。

 さっきのパワーといい、おそらく性能はこちらより上だ!』


戦闘態勢のまま睨みあうブレイライト・ダイバーとマギアブレイブ。



「・・・来ないな。警戒してるの?・・・

 まあ、この間に仲間がもっと遠くへ逃げられるか。」


マギアブレイブに乗るグリッタが少々つまらなそうにそうつぶやいた直後、

ブレイライトが動き出した。

両腕のスラスターを全開にしてドリルを前に突き出しながら突進する。


「正体が何であれ、魔王軍なら戦う!情報は奴も持っているはずだ!」

『応!』


突進しながらブレイライトはわずかに残ったドリルミサイルを全弾発射する。

ミサイルによる牽制で動きを制限し、ドリルによる一転突破の攻撃を叩き込む、

先ほど半ムカデ型のサーキメイルを撃破した必殺技を仕掛ける。


「『『ブレイブ・スパイラル!』』」

「・・・おそい。」


グリッタのつぶやきと同時にマギアブレイブが背中のブースターから

黒い粒子を吹き出しながら急加速。

わざわざすべてのミサイルを手刀で叩き壊した後、

ブレイライトのドリルをかわし、その胴に蹴りを叩き込んだ。

ライトの乗る操縦席を強烈な揺れが襲う。


「うわあああああああああああ!」


水の抵抗など完全に無視した高速機動に武器を使わない格闘での戦闘能力。

両者はそれほど変わらない大きさだが、

その力はマギアブレイブの方が頭一つ分秀でていた。


「速い・・・!」

『構えなおせ!また来るぞ!』


急いで敵に向き直るブレイライト。

しかし既にその懐にマギアブレイブが飛び込んできていた。

黒い粒子をまとったパンチがブレイライトの胴をとらえる。

装甲に亀裂が走り、機械に浸水し始めた。

モニターが各部の異常を告げる。


『ぐぅっ!・・・いかん!上昇するんだ!動けなくなるぞ!』


ライトはすぐにスラスターを全開にして上昇を始める。

その様子を見たグリッタは軽くため息をつき、


「・・・逃げるの?本気でやってあの程度ってこと?」


そう言って上昇するブレイライトを追う。

逃がすつもりなど無かった。


「まあいいや。これで・・・!」


とどめを刺すべく迫りくるマギアブレイブ。

ブレイライトが上昇するよりも明らかにトドメの一撃が届く方が早い。

ライトは意を決し、ブレイ達に叫ぶ。


「こうなったら一か八かだ!やるぞ!」

『・・・分かった!』

『応!』

「『『幻界剣!』』」


腰のサイドアーマーから幻界剣を抜き放ち構えるブレイライト。

ブレイライトの戦いを魔王の映像で見ていたグリッタは訝しむ。


「幻界剣・・・でもあのはこんなところじゃ・・・

 それとも何か策が?」


思わず警戒し、一瞬マギアブレイブの速度が緩む。

直後に幻界剣からエネルギーが周囲に放散された。

本来はそれにより相手を拘束するための物だが今それを使った目的は違った。

エネルギーによって部分的に水が沸騰して大量の泡が発生し、

マギアブレイブの視界を覆う。


「っ!・・・何も見えない!」


視界をふさがれその場で完全にマギアブレイブを止めてしまうグリッタ。

その隙にブレイライトはあえて一旦潜る。


「行くぞ!」

『応!』

『了解!』


幻界剣を下に向けエネルギーを放射して推進力を増しながら

上にいるマギアブレイブに向けてドリルを突き出し全速で上昇する。


「『『幻界剣・ブレイブ・スパイラル!』』」


「!? いつの間に下に・・・!」

「そこだっ!」


視界がふさがれていたことでグリッタの反応が遅れ、

ブレイライトのドリルがマギアブレイブの胴をとらえる・・・

かのように見えたその時、

突如マギアブレイブの全身を黒いオーラのような物が覆い、

壁のようにドリルを押しとどめる。

ドリルは装甲に届きすらせずむなしくその場で回転する。


「何っ!?」

『バリア!?・・・いや、違う!センサーに反応がない!

 魔力でもただのエネルギーでもない!?』

「ちょっと焦ったけど、攻撃がまともに当たってこの程度?・・・弱すぎ。」


マギアブレイブがドリルのついたブレイライトの右腕を両手でつかみ、

ブースターから黒い粒子を放射して上昇しようとする力に逆噴射をかける。

この時に出しうる最大のパワーで突っ込んだブレイライトだったが、

先ほどよりも一段と出力を増したマギアブレイブの圧倒的なパワーに簡単に押し返され始める。


『つ・・・強すぎる!』

「この黒いオーラ・・・一体何なんだ!?」

『まずいぞ!浸水が・・・!』


ライトの乗る操縦席周りのモニターが数々の警告を赤く表示する。

本来想定されていない場所への浸水により機体各部が故障寸前であった。


『ライト!どうする・・・!?』


ブレイが言うが、ライトの方もどうすればいいか判断がつかないでいた。

操縦桿を必死で前に倒すがマギアブレイブのパワーとは拮抗すらしない。

せいぜい沈む速度が少し遅くなる程度であった。

そしてそうするエネルギーすら、もう尽きようとしていた。

幻界剣によるエネルギー放出の使い過ぎが原因だ。


機体に大ダメージ、エネルギーは枯渇寸前、敵は無傷。

勝つどころか相手を振り切ってここから離脱する事すらもうできそうになかった。


「・・・負ける・・・!俺たちが・・・」


絶望にも似た感情。

その時、そのほかにライトの心の中で何かが動き出す。


「俺たちが・・・負けたら、ブライト・シティは・・・

それだけじゃない。放っておけばいずれ魔王軍は他の国も・・・!」


心の中で動き出した何かが加速していく。

それに合わせるかのようにライトの鼓動が速くなっていく。

全身が燃えるような熱さに包まれる。


「負けて・・・・・・負けてたまるかあああああああああああああああああ!」

「っ!?」


ライトの声を引き金にしたように突如、

幻界剣から放出していたエネルギーの出力が爆発的に跳ね上がった。

それだけではない。ドリルやスラスターも

出せる限界のパワーを今まで出していたにもかかわらず、

そこからさらに出力が上昇していき、モニターを新たなエラーが埋め尽くす。


『私の動力部が暴走している・・・これは!?』

『俺の動力部もだ!・・・ライト!?』

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


ライトの叫びに合わせるように、幻界剣から放たれるエネルギーの形が変化した。

それを見たグリッタが驚愕の声を上げる。


「炎!?水の中で・・・!?」


幻界剣の刀身が赤い炎を吹き出していた。

膨大な熱量に周囲の水がさらに広範囲にわたって泡立つ。

さらに炎は右手のドリルにまとわりつき、その回転力を数段押し上げていく。

先端がマギアブレイブのまとう黒いオーラを通過し始めた。


「障壁が・・・!」

「行けえええええええええええええええええええええええ!」


マギアブレイブの操縦席を衝撃が揺らす。

ドリルが装甲表面に到達したのだ。


「甘く見過ぎた!今まで本気じゃなかったんだ・・・!」


奥歯を噛みしめて衝撃に耐えるグリッタのもとに通信が届いた。魔王からの物だ。


『工場に居た者の避難が完了した。君も離脱した方がいい。

 どうやら今ここで倒すのは骨が折れそうだ・・・奥の手を隠していたとは。』

「・・・分かった。」


気づけば海面近くまで押し上げられている。

グリッタはエネルギーをマギアブレイブの拳に集中し

ドリルのついた相手の右腕を打ちすえ無理やり軌道をそらし

攻撃から脱出。そのまま上に加速して海面から飛び出し、

元居た格納庫へ飛び去った。


海中に取り残されたブレイライト。

武器に燃えていた炎はゆっくりと消え去り、

操縦席のモニターにあった動力部のエラー表示が消える。


炎が消え去ると同時にライトの中で燃えていた何かが再び静まり返り、

ライトは気力を使い果たしたかのように気を失う。


『ライト!?大丈夫か!?』

「・・・」

『落ち着け。眠っているだけだ。・・・とはいえ、どうするか。もう動けんぞ。』


ヘルプダイバーが言うように駆動部は完全に故障したらしく、

腕一本動かすこともできず機体が下へと沈み始めた。


『・・・工房との通信もつながらない。』

『まずいな。俺たちは問題無いが、

 早く上がらなくてはライトの酸素が尽きるぞ。』

『くっ・・・何か手はないのか・・・!』


ブレイは人工知能をフル稼働して考えをめぐらすが

機体が動かない以上はどうしようもなかった。

そのままブレイライトは海中深くへと沈んでいく・・・


―海底―


「ぬははははははははははは!大漁じゃ!」

「やりましたねアイザック様!」


海底で見つけたグリッター鉱石の採掘がひと段落し喜びで大笑いするアイザック。

部下たちも連日の疲れから解放されたように笑う。


「よし、すぐに持ち帰って新たなサーキメイルの建造を・・・んん?」

「どうしました?」

「いや、何か反応が・・・ブレイライトめが戻ってきたか?」


そう言って外を目視したアイザックは驚きに目を見張る。

ブレイライト・ダイバーが装甲に亀裂の入った状態で沈んできたからだ。

どう見ても機能停止している。


「な、な・・・何があったんじゃ!?

 あのバケモノみたいな奴をあんなボコボコに!?」


アイザックに続いて目視した部下たちも驚きの声をあげる。


「ま、魔王軍にやられたんですかね?」

「ぬう・・・あいつら、量産しやすいだけの

 ポンコツばかり作ってるかと思えば・・・」

「あの、どうするんですか?」


おそるおそる訪ねる部下にアイザックは一切迷うことなく告げる。


「陸まで上げてやるぞ!ワシの傑作が超える前に奴に消えられてたまるか!」

「「「「了解!」」」」


アイザックの指示を受け、

シーベッドマイナーが沈んでくるブレイライトを受け止め運び始めた。


『・・・!』

『運んでくれるらしいな。助かったか。』

『・・・ああ。感謝しなければ。

 陸に上がれば通信が使えるかもしれない。用意しておこう。』

『しかし、さっきのアレはなんだったんだ・・・?』

『分からん。私たちを作ったミツヒロなら

 何か知っているはずだが、そんなことは一言も・・・』

『無事帰れれば聞くこともできるだろう。

 こいつらのパワーに期待させてもらおう。』


「荷物が重い!パワーが上がりません!」

「こいつらの前で音を上げるな!意地を見せるんじゃ!」

「うおおおおお!つらい!超つらい!」


シーベッドマイナーはよろよろと頼りない泳ぎを続ける。

かなり無茶をしているようで途中何度かバランスを崩しガクンと大きく揺れた。


『・・・大丈夫、だろうか。』

『・・・祈るしかあるまい。』


彼らに募る不安とともにブレイライトを抱え、

シーベッドマイナーは何とか人気ひとけのない海岸までたどり着いた。

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