第3話 激闘の海底都市 part2

―海底―


自称、世紀の天才錬金術師、アイザックは

ここ最近で一番の大笑いをかましていた。

そんな様子を眺める彼の部下たちの顔もどこか嬉しそうだ。

理由は簡単。


「ついに!ついに発見じゃ!グリッター鉱石!

 これで最強のサーキメイルが造れる!

 ブレイライトも、魔王軍のガラクタどもも、もう目じゃないわい!

 ぬうあっはははははははははははは!」


そう、苦労のかいあって目的の鉱石を見つけ出すことに成功したのである。

体をのけぞらせ両腕を広げて喜びを表現しながら笑う老人に拍手が浴びせられる。

アイザックは余韻に浸るように拍手を受け止め続けた後、

部下たちに新たな指示を飛ばす。


「早速持って帰るぞ!作業開始じゃ!」


その指示を受けた部下たちはそう離れていない位置で

戦いが起こっているとは知らず、

シーベッドマイナーを操縦してのんきに採掘を始めた。


―海底 魔王軍サーキメイル生産工場付近―


「くっ! こいつ、この巨体でなんてスピードだ!」

『パワーも相当なものだ!気を付けろ!』


無数のヒレのようなもので素早く移動して体当たりを仕掛けて来る巨体。

それを間一髪でかわすブレイライト・ダイバー。

ライトは初めて経験する水中戦、

海底の施設から現れた、人型の上半身に巨大なムカデのような胴を持つサーキメイルを相手に苦戦を強いられていた。


そうしている間に海底の施設からは別のサーキメイルが何騎もコンテナのような物を運び出しどこかへ泳ぎ去っていく。

ブレイライトに居場所が知られたことで施設を放棄し脱出し始めたのだ。


「せっかく魔王軍の手がかりを見つけたのに、このままじゃ振りだしだ・・・!」

『さっさとこいつを片付けて追うぞ!』


ヘルプダイバーが叫ぶと同時にブレイライト・ダイバーの足の追加パーツから

多数の水中用ドリルミサイルが発射され、

いくつかがサーキメイルに着弾し胴やヒレに穴をあける。

しかし撃破には至らなかった。

サーキメイルはバラバラにするか、

各部を動かすための「回路」を傷つけなければ倒せない。


「これじゃダメか!」


歯噛みするライト。

サーキメイルは時間稼ぎに徹するつもりのようで、積極的には仕掛けてこない。


『水中では幻界剣での拘束も効果はほとんどない・・・!

 なんとか直接攻撃を当てて回路を破壊しなければ・・・!』

「よし、ならこれだ!一気に行くぞ!」


ブレイライトの両腕のスラスターが出力を最大にする。

それと同時に右手のドリルが前面に突き出され回転を始めた。


「『『ブレイブ・スパイラル!』』」


ブレイライトの突撃に合わせるように、発生した泡が渦を巻く。


サーキメイルは攻撃をかわそうと身をよじるが、突撃と同時に放たれた

さらなるミサイルが多方向から襲い掛かりその動きを制限する。


「そこだあああああ!」


ライトの叫びとともにドリルの先端がサーキメイルの人型部分を貫く。

次の瞬間、サーキメイルの人型部分とムカデのような胴の中間部分から

脱出用の小型艇が飛び出し、

本体は暴走した魔力により爆散する。


決着がつくのとほぼ同時に、工場から離脱するサーキメイルが途絶えた。

全騎が脱出を完了したようだ。

小型艇も最後の一騎の後ろにつこうと同じ方向へ進む。


「逃がすかっ!」

『ああ、追うぞ!重要なものは持ち出しているはずだ!』


ブレイがそう言うと同時に、

突然海底の施設が強い光を放った。

そしてその直後に大量の水流が押し寄せ、機体が大きく揺れる。

ライトは操縦桿を握りしめ、何とか姿勢を保つ。


「くっ・・・施設を爆破したのか。調べようと近づいていたら危なかった・・・」

『これで用があるのは奴らだけになったな。

 行くぞ!あの速度ならすぐに追いつける!』



ブレイライトは前方のサーキメイル群を補足しなおし、

再びスラスターを全開にした。


―某所 魔王軍秘密格納庫―


ブライト・シティの近辺に厳重に隠された小規模な格納庫。

ザックォーをはじめとする数騎のサーキメイルに混ざり、

大型の人型兵器が一機、出撃準備に入っていた。

曲面で構成された黒と銀の装甲、背には羽のような形のブースター。


その操縦席に座るのは歴戦の闘士・・・ではなく、一人の少女。

普段はストレートにしている長い金の髪を頭の後ろで一つに束ね、

機動兵器と同じ黒に銀色の装飾の衣装を身に着けている。


機体の起動準備が終わり、少女が操縦桿に手を伸ばす。

それとほぼ同時に少女の目の前のモニターに男の顔が映し出される。

魔王と呼ばれている人物であった。

機体を発進口に向かわせる少女に魔王が語り掛ける。


『すでに伝わっていると思うが、ブレイライトが現れたのは海底の工場だ。

 工場は破棄。脱出した人員が奴に追われている。・・・頼めるね?』

「うん。あいつをやっちゃえばいいんでしょ?」


穏やかな調子で話す魔王に対し少女はどこか冷たい目で淡々と答える。

魔王は満足げに頷き、


『もちろん、ブレイライトを倒してくれればそれが一番いいが、

 最大の目的は脱出した者を逃がすことだ。

 では武運を祈っているよ。』


と言って通信を切った。

少女は消えたモニターを数秒だけ見つめた後、

前に向き直って発進口が開くのを待つ。

発進口が開いたところで少女はつぶやくように言う。


「・・・行こう。マギアブレイブ。」


少女、魔王軍四天王“輝く闇のグリッタ”がつぶやくと同時に人型兵器、

マギアブレイブの背中の羽のようなブースターから

輝く黒い粒子が吹き出る。ブースターは魔力を利用した推進装置であった。

マギアブレイブは一瞬ゆっくりと浮き上がったかと思うと、

目にもとまらぬような猛スピードで宙を舞う。向かう先は海。

まるで黒い矢のように、おのれの敵のもとへ真っすぐに飛んで行った。


―海中―


『見えたぞ!奴らだ!』


ヘルプダイバーが言うようにレーダーが複数の反応を前方にとらえていた。

ライトは操縦桿を握り直す。


「一騎でいい。このまま捕まえるぞ!」

『了解!』


ブレイライトが最後尾のサーキメイルに迫る。


『待て、上から何か来るぞ!』

「上だって?潜ってきてるのか!?」


レーダーが、ものすごい速度で接近してくる何かをとらえ警告を発する。

反応はまっすぐブレイライトの方を目指していた。


『速い!あと10秒で接触する!』


反応の主は曲面で構成された黒と銀の装甲を持つ人型兵器、マギアブレイブ。


「・・・見つけた。ブレイライト!」


マギアブレイブはそのままの速度でブレイライトに突撃し、

サーキメイル達から引き離す。


『ぐうっ!』

「・・・新手か!」


押されながらスラスターで逆噴射をかけ抵抗するが一度押された勢いはなかなか殺せず、工場から脱出したサーキメイルの一団は再び遠ざかってしまう。


「あと少しのところで・・・っ!」

『こいつ、何者だ!?最大出力でも押し返せないだと!?』


押されるがままになるブレイライト。


『ぐっ・・・ダメだ!振り切れない!』


そうしている間にサーキメイルの一団は完全にレーダーの外に出てしまった。

こうなってはもう目の前の相手を振り切って追跡することなどできないだろう。


『おのれ、せっかくの手がかりを!』


悪態をつくヘルプダイバー。

そんなことは関係ないとばかりにマギアブレイブはさらに速度を上げた。


―海底 魔王軍サーキメイル工場 爆破跡―


ライトたちは爆破された工場の場所までマギアブレイブに押されて戻ってきた。

そこで放り出すように解放される。


「・・・これでもう追いかけられないかな?

 ・・・いや、ここでやっちゃえば関係ないか。」


グリッタはそう言ってマギアブレイブに戦闘態勢を取らせる。


『構えたか。やる気のようだな。』

「仕方がない。まずは目の前の相手を何とかするぞ!」

おう。返り討ちにしてくれる!』


ブレイライトもドリルを突き出せるように

右腕を後ろに引いて戦闘態勢を取る。


「ブレイ。注意深く相手のデータを取ってくれ。今までの敵とは何かが違う。」

『ああ。』


ライトの指示通りブレイがセンサーを働かせ目の前で己とにらみ合う相手の情報を探る。そうして初めてあることに気付き、驚愕する。


『馬鹿な・・・!』

「どうした、ブレイ!?」


動揺するブレイにライトが声をかけ、その声で我に返ったブレイが報告する。


『・・・奴は只のサーキメイルではない。』

「何?」

『微弱だが我々と同じ動力反応がある。

 奴は・・・だ!』


ライトたちのやり取りが聞こえているはずはないが

その時マギアブレイブの目が、ブレイの言葉を肯定するかのように妖しく光った。

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