第3話 激闘の海底都市
第3話 激闘の海底都市 part1
―ブライト・シティ 郊外 地下研究所―
自称、世紀の天才錬金術師、アイザックは自身の研究室で
低いうなり声を上げていた。その様子を部下たちが心配そうに眺めている。
「ぐぬぬぬぬぬう・・・ブレイライトめ・・・わしの最高傑作、
ロードクラッシャーをよくも・・・しかしそれ以上に興味深い・・・
一体どうやってあんな性能を・・・ぐぬぬぬぬぬう・・・」
「アイザック様、ああしてずっとうなってるのか?」
「ああ、もう3日も寝てないらしい。」
「あれじゃ今以上に老けて死んじまうよ。」
「縁起でもないこと言うなよ・・・」
「性能・・・やはりアレが必要・・・場所・・・邪魔されずに・・・」
アイザックはいくらかつぶやいた後、おもむろにハッとして振り返った。
のぞき見していたような気分の部下たちはビクリと体を震わせる。
「あ、アイザック様。その・・・ロードクラッシャ―の件は、
お気の毒と言いますか、えっと・・・」
慌てて部下の一人が声をかける。アイザックはそれを受けて軽く息を吐き、
「慰めなんぞ要らんわい。気遣ってくれるのはうれしいがな。」
「アイザック様・・・」
力なく笑う老人の顔に、部下たちの心配顔も一層深くなる。
しかし次の瞬間、アイザックの顔に活気が戻る。
「そんなことよりもじゃ。」
「は、はい、なんでしょう?」
突然いつもの調子に戻ったアイザックに少々戸惑う部下たちへ、
目付きの悪い老人は得意げな顔で告げる。
「海底探査に行くぞ!」
「「「「・・・はい?」」」」
まったく脈絡のない老人の話に、ついにイカれたかと、
先程までとは別の心配をする部下たち。
そんな部下の様子には気づかずアイザックは喜々として準備に取り掛かかった。
―数日後 ブライト・シティ―
「最近は平和だね。」
ブライト・シティの町中をルーメが運転する魔力自動車で移動するライト。
本人が言うように、ここ最近は出撃するようなこともなく平和に過ごしていた。
今日は「ジン工房」資材流通部門からの納品手続きのため、
町近くの港に向かっている。
「本当に平和ですね。このままずっと何も起こらなければ良いのですが。」
「ま、そうもいかないんだろうけどね。
俺たちが倒してきたサーキメイルなんてほんの一部だろうし。」
これまでライトたちは何騎ものサーキメイルを撃破してきた。
だがそれは魔王軍がばらまいた物をならず者たちが乗り回していたに過ぎず、
それらをいくら倒しても魔王軍そのものの姿はちっとも見えてこない。
ライトが正体を隠しているのと同様に、
魔王軍の中心人物もまた、正体不明であった。
それを思うとライトの表情が若干曇る。
「魔王軍・・・ならず者たちに世界を荒らさせて・・・
いったい何をするつもりだ?」
その声に応えてくれるものはおらず、
ライトを乗せた魔力自動車はまっすぐに港へ向かって進んで行く。
―ブライト・シティ 近海 港―
「船旅、お疲れ様です。サプライ船長。」
「ん?もしかして、ライト君か?大きくなったなぁ!」
ライトの肩にポンと手を置き豪快に笑う初老の男。彼の名はサプライ。
ジン工房ができたころからのミツヒロの友人であり、最も信頼のおける船乗りだ。
今は資材流通部門の所有する貨物船を任されている。
「お久しぶりです。」
「ああ、・・・今日はもしかして、仕事かい?」
「はい。少しづつですけど、仕事に関わらせてもらってます。」
「そうかそうか!立派になったもんだ!」
ライトが最後に彼と会ったのはまだ小さい頃だったので、今のライトを見てその成長に目を見張り、我が子の事のように喜んでくれていた。
「・・・おっと、納品だったな。今準備するよ。」
「お願いします。」
仕事のことを思いだし、サプライ船長がいったん船の方へ戻っていったところで、船員と思しき男の一人が近くで声を上げた。
「本当に見たんだって!その辺にとまってる中型船くらいデカい化け物だ!」
「・・・化け物?」
日常ではあまり聞かない単語にライトが反応し、船員達に話しかける。
「あの、化け物って言うのは・・・」
「ああ、本社の・・・いえ、こいつが言うには航海中に妙なもんが泳いでたってんですがね?どうせ見間違いでしょうよ。」
「本当だっての!ありゃどう見ても魚とかじゃなかった!」
思わず声を張り上げる男の顔はやや青ざめており、
冗談を言っている風ではなかった。
「魚じゃない、中型船くらいの巨大な何かか。気になるな・・・まさか・・・」
ライトの中でひとつの可能性が浮上する。
「・・・ライトさん?」
「ルゥ。このあとの今日の予定は?」
―ブライト・シティ近辺 港から離れた海辺―
『それで、俺にお呼びがかかったと言うわけか。』
「ああ。「海に出現した謎の巨大生物」。
俺と父さんはこれがサーキメイルじゃないかって踏んでる。
もし魔王軍なら、いつか貨物船を襲うかもしれない。
正体を確かめておきたいんだ。」
海岸にはすでに合体したブレイライトと、その隣にヘルプダイバーが立っていた。
『貨物船に被害が出てからでは遅いな。いいだろう。水中なら俺の出番だ!』
「頼りにしてるよ。それじゃあ行くぞ!」
『承知!』
「ヘルパー・ライトアップ!」
『応ッ!!』
ライトの号令とともに飛び上がったブレイライトの両腕に、
ヘルプダイバーの背中から分離した水中用スラスターが装着され、
ヘルプダイバー自身も首周りを残して分離し、さらにそれが二つに分かれ、
大型のキャタピラになってブレイライトの両足に合体。
残った首周りとドリルが合体し武器として右手に装着される。
『『「現界、ブレイライト・ダイバー!」』』
水中用に変化したブレイライトはそのまま海に飛び込む。
最初は水深が浅く上半身が水面から出ていたが進むにつれてどんどん深くなり、
やがて完全にブレイライトの全身が沈んだ。
―海中―
陽の光も少し届きにくくなってくる水深に到達。ブレイライト・ダイバーは
頭部から明かりを照らし、両腕のスラスターで海中を進んでいく。
周囲には多種多様な海洋生物が泳いでいるが、
巨大なうえ発光するブレイライトを警戒してか、あまり近くには寄ってこない。
「海って本当に深いんだな・・・ブレイライトが小さく思える。」
『ああ、それに、これほどまでにたくさんの生物が住んでいるとは・・・
これなら我々より大きいものも居るかもしれんな。』
『海に感動するのは構わんが、警戒は怠るなよ。
敵が潜んでいるかも知れんのだ。』
ライトとブレイが周囲の光景に見とれていると、生真面目なヘルプダイバーが注意した。
「ああ、分かってるよ。・・・今のところ、レーダ―にも大きな反応はないな。
この小さいのは魚とかだろう?」
『少なくとも船乗りが驚くような巨大生物ではないだろうな。』
『・・・
ヘルプダイバーがレーダーのとらえた影に気付く。
ライトもレーダーの画面を注視する。
確かに魚たちと思われる小さな反応の集まりに隠れるようにして、
一つだけ大きな反応があった。
『魔力反応検知!やはりサーキメイルだ!』
「!」
ブレイの言葉にライトの顔が一気に険しくなる。
『・・・海底に向かっているようだな。追うか?』
「ああ。目的を問いたださないと。」
ブレイライトも反応を追ってスラスターを全開にし、海底へ向かっていった。
―ブレイライトが追っている反応の発信源―
「ぬははははははははは!今日こそは見つけてみせるぞ!グリッター鉱石!
あれさえ手に入れれば今度こそブレイライトにも負けない、いやそれ以上の力を持つ最強のサーキメイルが作れるはず!海底へ急ぐのじゃ、シーベッドマイナー!」
特徴的な笑い方で愉快そうにしている、白衣を着た人相の悪い老人、アイザック。
かつて採掘所から探して奪おうとしてブレイライトに邪魔された
「グリッター鉱石」が海底に眠っている可能性が高いと判明し、
かねてから研究していた海底探査、採掘用の
巨大なザリガニのような形のサーキメイル、シーベッドマイナーを完成させ
こうして何度も海に潜っているのだ。
たまたま水面近くにいたところを貨物船の乗組員に発見されたというのが巨大生物騒ぎの真相であった。
肝心の鉱石はと言うとまだ見つかっておらず、これが何度目かの調査となる。
部下たちには少々の疲労が見て取れた。
そんな中、レーダーで周囲を確認していた部下の一人が声を上げる。
「あ、アイザック様!なんだかデカい反応が!
ものすごい速度で追いかけてきます!」
「なんじゃと?どれ、目視を・・・げぇっ!ブレイライト!」
「「「「ええっ!?」」」」
部下たちに動揺が広がる。
そしてシーベッドマイナーの頭部につけられた目に当たる魔道具で、
迫ってくるブレイライト・ダイバーを目視したアイザックはまたしても
技術者としての敗北感を味わうこととなった。
「おのれぇ!なんであんな追加パーツ程度で
水中用にチェンジできるんじゃあいつはァ!
どんな「回路」構造しとるんじゃ!
各部の防水とか、耐水圧とか・・・なめとんのかあいつゥ!
こ れ だ か ら ス ー パ ー 系 は !」
「意味不明です!落ち着いてくださいアイザック様!
それより今どうするかを・・・ひィ!もう追いつかれた!」
シーベッドマイナーの装甲にブレイライトが接触した。
『目撃された巨大生物と言うのはお前だな?目的はなんだ!?』
「また邪魔しにきおったかブレイライト!
今回はだれにも迷惑かけとらんじゃろうが!
海底にグリッター鉱石を探しに来ただけじゃわい!」
「その声・・・以前採掘場を襲った奴らか。
・・・うーん、海底採掘か。
誰かの土地ってわけでもないし、この星の法律にも引っかからない・・・
確かに誰にも迷惑は掛かってない・・・かなぁ?」
『むぅ・・・』
惑星Fでは船こそあるものの海に関しての開発はほぼ全く手つかずの状態で、
海底資源などと言う概念すら知らない者の方が圧倒的に多い。
このように勝手に潜って採掘したところで咎める者は居ないし、
そもそも誰も気づかない。
ほとんどの人にとって世界とは陸の上にしかないのである。
「わかったらとっとと放さんか!採掘の邪魔じゃ!」
「何に使うつもりなのかがちょっと不安だけど・・・
様子を見ることにしようか。」
『・・・まあ、いいだろう。だが妙な動きを見せたら・・・
このドリルで穴をあけてやる!』
「「「「ひイィ!溺れちゃう!」」」」
「安心せい。何もせんわい。」
ヘルプダイバーの脅しに震え上がる部下たち。
アイザックは喚いてすっきりしたのか、逆に落ち着きを取り戻していた。
ブレイライトがシーベッドマイナーを解放する。
「よーし、すぐに調査に取り掛かるぞ!今日こそ見つけるのじゃ!」
「「「「了解です!」」」」
海底にたどり着き、あたりを調べ始めるシーベッドマイナー。
その様子を少し上から眺めるブレイライト。
『・・・本当に鉱石を探してるだけみたいだな。』
「そうだな・・・さて、真相は分かったし、帰ろうかな?」
『・・・
「何か?・・・海底で?」
『ああ・・・』
ヘルプダイバーが感じた通り、レーダーにひどく弱い反応があった。
「まだ酸素も余裕はあるし、行ってみよう。
・・・もし奴ら以外に何か居るなら・・・」
採掘を始めたシーベッドマイナーを横目に、ブレイライトは気配の方へと進む。
海底は真っ暗で、あらゆるセンサーを総動員して周囲を警戒する。
しばらく進むと、ヘルプダイバーが声を上げた。
『見ろ!光だ!』
「・・・アレは!?」
光の方へ進むと、そこには海底に立ち並ぶ複数の建物が見えた。
海底に小さな町のようなものが存在していたのだ。
しかも建物には明かりがついている。
「なんだ、コレ・・・海底に町が?」
ライトが驚きに目を見張る。
そこへブレイが声をかけた。
『・・・どうやら、我々の探し物が、図らずも見つかったらしいな。』
「え?」
『気を付けろ!来るぞ!』
ヘルプダイバーが叫ぶと同時に町の方から巨大な何かが飛び出す。
それは人型の上半身を持ち、
ムカデのように長い胴にたくさんのヒレがついた巨大サーキメイルだった。
その長い胴のため、全長はブレイライトの数倍もある。
「サーキメイル!?まさかここは・・・!」
『ああ・・・ようやく見つけた!ここは魔王軍の施設だッ!』
―犯罪結社魔王軍アジト 魔王の部屋―
薄暗い一室、黒いスーツの男、魔王の元に、
ブレイライトが海底の工場施設に侵入したとの知らせが届いた。
「・・・そうか。どこで嗅ぎ付けたのやら・・・
あそこにあるサーキメイルでやつを倒せるかどうか・・・
なんにせよ、早急に重要なものだけ運び出せ。
邪魔者に居所が知られた以上、工場は破棄する。」
部下に指示を飛ばし、魔王はため息をつく。
「売った後のサーキメイルだけならともかく、
工場までつぶされては流石に目障りだな。やはりここは・・・」
魔王は通信機を取り出し、部下に連絡を取る。
「私だ。・・・グリッタを向かわせろ。」
「・・・了解しました。」
事務的な部下の声が返ってくる。
通信を切り
魔王はモニターを操作し、格納庫を映し出す。
「さて・・・もしかしたら、早々にお前の出番が来るかもしれんな。ダーク。」
その魔王のつぶやきが聞こえているのか否か、
ダークと呼ばれた、ブレイにそっくりな黒いロボットは
何も言わず格納庫で静かに佇んでいる。
魔王は目を閉じ、椅子の背もたれに体を預けた。
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