第2話 颯爽登場!ヘルパーズ! part4(final)
―犯罪結社魔王軍アジト 会議室―
世界に悪意と恐怖をまき散らす犯罪結社、魔王軍。
そのアジトの廊下を進み、何故このアジトはどこも、こう薄暗いのか。
と疑問に思いながら、
中央に大きなテーブルの設置された薄暗い会議室の扉を開く者が一人。
長い銀の髪を三つ編みに束ねて右肩の前に下げた赤い瞳の女性。
その体の首から下は重厚な黒い鎧に包まれている。
かなりの長身で、重い鎧を着こなして悠々と歩く姿は
彼女の体が相当に鍛えぬかれていることを示す。
体のラインは鎧に隠されてよくわからないが、
鎧の胸部はその存在を主張するように前方に丸く張り出している。
その姿は所謂、女騎士である。
彼女の名はルミナス。魔王軍の中でも
自分専用のサーキメイルを与えられた精鋭、
魔王軍四天王の一角、“斬り込む盾のルミナス”。
ルミナスはガチャガチャという鎧の音を部屋に響かせながら
会議室のテーブルまで足を運び、
ゆっくりと椅子に腰かけた。
その表情は研ぎ澄まされた刃のように鋭い眼光をたたえ――――
「やっと来たか偽乳。」
「誰 が 偽 乳 だ !」
先ほどまで静かに、威厳たっぷりに歩いていたルミナスは座るなり
先客からかけられた一言で目を見開き激しく取り乱した。
声をかけた人物、深緑色の短い髪と瞳孔の開いた黄色い瞳の、
ルミナスとは真逆の細く不気味な、
ボロボロの服をまとった爬虫類のような印象を受ける男は続ける。
「や、だからお前な。ルミナス。
その自己主張激しい胸部装甲の下が絶壁だって
みんな知ってっから。」
「な、何だと・・・!?」
女性ながら精悍だった顔を絶望にゆがめ、
泣き出す前の少女のような表情になるルミナス。
「ニチリン殿も知っていたのか!?」
ルミナスはもう一人の先客に話を振る。
視線の先には布の軽装に身を包み長い黒髪を頭の後ろで結わえた
武者を思わせる黒目の男、“凍てつく日差しのニチリン”。
彼は顎髭を蓄えた、武人然とした顔に冷や汗を浮かべながら静かに答える。
「いや、初耳でござる。」
「へっ?」
キョトンとするルミナスの方へ顔を向けながらニチリンが続ける。
「今のはシャイン殿のカマかけだったのでは?
しかしショックでござるなぁ。ルミナス殿が実は絶壁・・・」
顎に手を当てて考えるようにしながら残念そうに目を閉じるニチリン。
彼はルミナスが巨乳だと信じていたらしい。
「おいシャイン。決闘なら受けようじゃないか。」
殺意のにじんだ顔で爬虫類のような男、
“燃える旋風のシャイン”の方へ向き直るルミナス。
シャインは腹を押さえてゲラゲラ笑っている。
「ぶはははははは!怪しいとは思ってたけど!
マジで偽乳だった!ははははははは!」
「貴様ァア!」
「待たれよルミナス殿!
顔を真っ赤にして腰の剣に手をかけるルミナスを
顔を真っ青にしてなだめるニチリン。
そんな二人を指さしてゲラゲラ笑うシャイン。
これが世界を恐怖に陥れている魔王軍の幹部たちの姿である。
しかし・・・
「今日はずいぶん賑やかだな・・・」
その声が室内に届いた瞬間、3人の顔に緊張が走り、
ルミナスとニチリンはすぐに姿勢を正す。
シャインはそのままの姿勢でだらしなく座っている。
ルミナスに睨まれるがお構いなしだ。
やがてルミナスが入ってきたのとは別の方向の扉が開き、
黒いスーツを着た一人の男が入ってくる。
「回路」を利用してサーキメイルを作り上げ、魔王軍を組織した男。
その名は魔王。
魔王と言っても角が生えていると言うようなこともなく、見た目は普通の人間。
だが不思議と相対するものに緊張を与える、
どこか深く恐ろしい雰囲気をまとっていた。
魔王がテーブル前の椅子に腰かける。
これで4人。
椅子は5つあるためもう一人分席が空いている。
四天王に魔王は数えられていない。
「あー、そういやあのコ今日は仕事だっけ?」
沈黙の中、シャインが口を開いた。
ニチリンがそれに応える
「公衆の面前で歌う仕事でござったな。民衆からはなかなか人気があるとか。」
それに頷いて魔王が口を開く。
「その仕事中にサーキメイルの破壊活動に巻き込まれたそうだ。
今回は来られないと連絡があった。」
それを聞いたルミナスが渋い顔をする。
「例の新型・・・バック・ダンマーですか。
仲介人も少しは引き渡すタイミングを考えてくれないものか・・・」
「しゃあねえって。あいつらなんも考えてねえから。」
シャインがまた愉快そうに笑う。
その様子をしばらく眺めてから魔王が再び口を開く。
「そういうわけで、まずは君達3人に話しておく。
・・・そのバック・ダンマーだが、先ほど撃破された。
搭乗者も衛兵に捕まったそうだ。」
「なんと!?」
魔王の言葉にニチリンが声を上げる。
今まで国の軍がザックォー一騎に散々手こずるザマだった中で
攻撃力も装甲の厚さも大きさも段違いなバック・ダンマーが
破壊されたと聞けば、無理もない。
他の2人も同様に驚いた顔をしていたが、
すぐにシャインが一つの可能性に思い当たって魔王に質問する。
「・・・噂のブレイライトってやつですかい?」
「そうだ。」
魔王は答えてモニターになっているテーブルの中央に
先のブレイライトの戦闘映像を映し出した。
映像は人型に変形したブレイが
バック・ダンマーの前に降り立った場面だ。
その姿を見た3人がざわつく。
「これは・・・!ダーク殿だと!?」
「いや、色がちげえしパーツも少ねえ。
でも頭部とかそのまんまだな・・・」
「・・・ダーク殿と同型の、地球と言う世界の“ろぼっと”でござるか。」
「ああ。独自の支援機を用意しているようだが。」
魔王がモニターを操作すると画面が切り替わり、
ランドブレイブやヘルパーズを順に映していき、
画面はブレイライト・フライヤーに合体したところで止まる。
「むう、ここまで来るとダーク殿達とは別物でござるな。」
「それはいいんですがね、魔王の旦那、こいつどうするんですかい?
計画には邪魔っしょ?」
シャインの問いに魔王は答える。
「ああ。これ以上街を救ってしまうようなら、倒さなければならない。
英雄は不要だ。」
「ではその役目、私が!」
ルミナスが立候補するが魔王は首を横に振った。
「君達には他にやってもらいたいことがある。」
「ほかに?」
「ああ、こちらが本題なのだが、
隣国が回路を使った戦闘車両を軍に配備したらしい。
それと、仲介人からサーキメイルを受け取った犯罪者を金で雇ったようだ。」
「オーケー。そこを襲撃して来いってわけですね?旦那。」
シャインがさらに愉快そうな顔になる。
「そうだ。・・・各国もようやく我々の対策に本腰を入れ始めたな。
その一角を叩き潰すことで、魔王軍の脅威を改めて
世界中に知らしめて欲しい。」
「御意。」
ニチリンが静かにつぶやき立ち上がって魔王の方へ礼をする。
「では、彼奴の・・・ブレイライトの相手は・・・」
ルミナスの問いに魔王はフッと笑って答えた。
「ああ、奴の相手は彼女に・・・“輝く闇のグリッタ”にやってもらう。」
―???―
「くしゅんっ!・・・誰かが私の噂を・・・いやいやそんなベタな。」
某所、ある一室で一人つぶやく少女、
グリッタは今日出会った少年のことを思い出していた。
会場が崩れそうになった時、一歩間違えれば自分が危なかっただろうに、
迷わず飛び込んできて助けてくれたあの少年。
その後の優しい笑顔が頭から離れない。
「名前、なんて言うんだろう・・・
聞こうとしたら走って行っちゃったし。
・・・また会えたらいいな。ちゃんとお礼言わなきゃ。」
少女はその少年が敵だなどとは知らず、
またその優しい笑顔を思い出して微笑んだ。
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