第4話 迫る魔王軍の影

第4話 迫る魔王軍の影 part1

―隣国 王都カンデラ 防衛軍第1拠点付近―


「・・・」


魔王軍四天王、斬り込む盾のルミナスは普段通りの黒い鎧姿のまま

自身のサーキメイルの操縦席で沈黙していた。

魔王の命により、防衛軍の拠点うちの一つを襲撃に来たのだ。

その鋭い眼光は真っすぐに拠点へとむけられている。


彼女の乗るサーキメイル、スピアヘッドは

下半身が馬のようになっているケンタウロス型。

上半身は西洋甲冑型で頭部には槍の先端のような角飾りがついている。

大地から頭頂までの高さは20mほど。

その巨体は防衛軍拠点の真正面にそびえるように立っていた。


スピアヘッドを見た防衛軍の人間たちは大慌てで戦闘準備を進めていた。


「急げ!出せるやつは全部出すんだ!」

「金で雇ったサーキメイルの連中はどうした!?さっさと呼んで来い!」


警鐘が鳴り響く中、ルミナスは拠点を攻撃するでもなくただ見つめている。


「・・・さあ、早く出て来い。」


呟くルミナスに答えるように拠点内から数騎のザックォーが現れ、

拠点の壁になるように槍を構えて並ぶ。

その後ろにわらわらと大砲のような物を備えた車両が並び立つ。

回路を用いた魔法攻撃を行なうことができる魔導戦闘車両である。

さらにその後ろに巨大な人型がゆっくりと立ち上がる。

全長40mに迫る魔王軍の新型サーキメイル、バック・ダンマーだ。

その姿を見たルミナスが顔をしかめて言葉をこぼす。


「仲介人め。軍に協力するような連中に新型を引き渡すとは・・・」


しかしすぐにその顔は不敵な笑みに変わる。


「まったく・・・いい仕事をしてくれた!

 弱いものを叩き潰すだけでは不満だったところだ!」


相手側の迎撃準備が整ったことを確認し、

ルミナスはスピアヘッドに戦闘態勢を取らせた。

背中にマウントされていた武器、5角形のシールドを両腕に1枚ずつ装備し前方に構え、

前方の防衛軍に向けて叫ぶ。


「準備は済んだな?では行くぞ!我が名はルミナス!魔王軍四天王が一人!

魔王より賜ったこの盾、打ち砕く自信あらば試してみろ!」


その言葉を引き金に、拠点の方から目が眩むほどの光が発せられた。

戦闘車両や後方のバック・ダンマーが一斉に魔法で攻撃してきたのだ。


魔法はすぐさま着弾し、土煙を巻き上げる。

スピアヘッドの姿が土煙に覆い隠されて見えなくなった。

しかし防衛軍は構わず攻撃魔法を放ち続ける。

数十秒ほど爆音が鳴り響き続けた後ようやく攻撃が止み、

防衛軍の兵たちはスピアヘッドのいた位置を注意深く観察する。


土煙が少しずつ晴れ、視界が開けてきた。

その時防衛軍の兵たちの目に入った光景は、彼らを戦慄させる。


土煙が晴れた場所には、全く無傷のスピアヘッドが盾を構えた姿勢そのままで、

最初の位置から微動だにせず立っていた。


「・・・ぬるい。」


防衛軍は慌てて魔法攻撃を再開。再び辺りは爆音と閃光に包まれる。


「・・・ぬるい!」


魔法攻撃が次々とスピアヘッドに命中するが、

特別に強化された盾の表面ですべて弾けて消えていく。


「そんな攻撃ではかすり傷もつかんぞッ!」


ルミナスが叫ぶと同時にスピアヘッドがその4脚で駆け出した。

魔法攻撃をよけようともせず正面から敵陣へ突っ込んでいく。

迎撃しようと前面のザックォーが槍を構え突進してくるが、

それらはすべてスピアヘッドと接触した瞬間、衝撃でバラバラになって宙を舞う。


その光景を見た防衛軍はパニックを起こす。

戦闘車両の何倍もタフなはずのザックォーが一瞬で破壊されたのだ。


そしてあえなく戦闘車両も文字通り蹴散らされ次々と大破していく。


もはや戦いと呼べるものではなかった。


「・・・やはりまだ弱い者いじめの域を出んか。」


そう言って少し残念そうに目を伏せるルミナス。

その視線はすぐ後方に控えるバック・ダンマーに注がれる。


「お前はどうだ。来たからには破壊せねばならんが、

 せめて?」


バック・ダンマーとスピアヘッドの格闘戦が始まる。

流石にスピアヘッドの2倍近い全長のバック・ダンマー。

一瞬で破壊されることはないが、自慢の爆発魔法が通用しないため

攻めには転じられずにいる。

その光景を背に防衛軍の一人が魔力回路を使った通信機に向かって叫ぶ。


「第2拠点か!?こちら第1拠点だ!すぐに救援に来てくれ!

 魔王軍の四天王とかいうのが・・・」

『存じてござる。なにせ第2拠点は拙者に襲われたばかりでござるからなぁ。』

「なっ・・・」


通信機から聞こえてきたのは仲間の兵ではなく、妙なしゃべり方の男の声。


―第2拠点 跡地―


「ちなみに第3拠点にも拙者の仲間が向かったはずでござる。

まあ、救援は諦められよ。第2拠点の戦力は

あとザックォー一騎のみであるが故。」


拾い上げた通信機にそう告げる男、

魔王軍四天王、凍てつく日差しのニチリンは

すぐ近くにまで迫ってくる一騎のザックォーを見上げる。


ザックォーが振り下ろした槍をジャンプでかわした後、

その槍の上に飛び乗り、一気に手元まで駆け上がった。


ザックォーの肘のあたりまで登ったところで再びジャンプ。

今度はその頭上にまで飛び上がり、腰に差した刀を抜き放つ。


「セエエエエエエエエエエエエエイアアアアアアアアアア!」


次の瞬間、ニチリンの体が重力による本来の加速を無視した

すさまじい速度で地面に向かって落ちていき、

その軌跡をなぞるようにザックォーの装甲が切り裂かれた。


縦に真っ二つに割られたザックォーがその場で崩れ落ちる。


「第2拠点の拙者より第1拠点の御仁へ。

 お気の毒ながら、これにて全滅でござる。」


どれもこれもがきれいに真っ二つになった残骸の山の中で、

ニチリンは静かに通信機に告げた。


「さて、第3拠点に向かわれたシャイン殿は・・・

 心配無用でござろう。アレは反則よな。」


―第3拠点―


「ひゃはははははははははは!みーんな燃えちまいなァ!」


愉快そうな笑い声を上げながら、トカゲのような人相の男、

魔王軍四天王、燃える旋風のシャインは炎を上げる第3拠点を見下ろしていた。

拠点の敷地内を竜巻のような物が炎を上げながら飛び回っており、

戦闘車両もサーキメイルも拠点そのものも片っ端から燃やしていく。

拠点内に戦力といえるものはもう残っていなかった。

拠点内の兵は敵の位置を把握できずに右往左往するのみ。


「おっと、ひょっとして俺のこと探してる?必死で辺りをキョロキョロと・・・

 でも残念!上でした!」


彼は拠点が燃えるさまをひとしきり上空から眺めた後、

自身の飛竜型サーキメイルを操縦して飛び去る。



翌日、ブライト・シティに、隣国の王都防衛軍が壊滅したとの知らせが届いた。

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幻界英雄ブレイライト(旧版) コケシK9 @kokeshi-k9

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