第三章

第11話 ファーストマッチ

 人が変革を求むるのか、変革が人を動かすのか。そのようなことを考えた哲学者はすでに溢れていた。だが一様に真実なる答えを出せてはいない、いや出せないのだろう。統括軍を中心としたその戦いは変革を求む人間達が行なっている。その先に真実は見つけられるのか、これも誰もが知るものではないだろう。いつになればそれを掴むことができるのだろうか。


 ダクシルースに仕掛けられた原子力爆弾をついに解除することに成功した。多少の邪魔はなんのそのとエドゥらギルガマシン部隊はそれを足払いダクシルースに平穏は戻った。そして戦いからすでに二日が経過していた。


 事後処理、と言うものは思ったよりもトントン拍子に終わっていった。

 市長によって避難させていた住民は何事もなかったかのように戻り、また普通の生活を始めた。それを見ながらアルバトロスもギルガマシン共々修理に取り掛かり、今回の功労ということで資金も人でも借り、計画よりも早い段階でそれを完了した。

 また因縁の親子は、その関係性を取り戻して、別れる最後まで共に過ごしていた。

 ルトはテンダーからダクシルースに残らないのか、と尋ねられていたが彼女もまだやるべきことがある、とアルバトロスの元にそのままいることを決意した。テンダーもそれについて何も言わず頷きながらルトを見送る。ルトも、また戻ってくる。と今生の別れではないということを父に言い残し、アルバトロスに乗り込む。

「アルバトロスにもしものことがあれば我々ダクシルース一同お助けに参ります。いつでもお呼びください。」

「すまないね市長、勝手に場をこねくり回しちゃって。」

「いえ、あなた方にはこのダクシルースを守っていただいただけでなく、私たち家族の絆も取り戻していただきました。それくらいの礼をさせてもらいませんと気がすみません。」

「お嬢さんは引き戻さなくてよろしいんですか?一応話し合うだけの時間は設けていますが…。」

「いえ、少しばかり名残惜しいですがよろしいんですよ。可愛い子には旅をさせよと申しますか、彼女がしたいことを見つけられたのですから。それにこんなところにいつまでも閉じこもっているより、外の世界で様々なものを見たり、出会いを体験したりする方が彼女の性分には合います。多分女房に似たんでしょうな。ハハハ…。」

「そうですか…。それでしたら娘さんは我々が責任をもって預からせていただきます。」

 バーナードは敬礼しアルバトロスに戻る。テンダーはそれを見守りながらも目に涙を浮かべる。親心として娘の門出を笑って祝わなければと思うがそれでも涙が出た。

 その涙が自分の親としての一面を無意識に思い出させた。

 アルバトロス出港の時、見送りは少なかれども感じるその温情はひとしおであった。ここから新たな旅立ちを迎える。


 ルト・ローパーの仕掛けた情報という名の爆弾は統括軍内部にうまく爆発した。世界中から、もそうであるが統括軍政府自身も改めて内部の不穏な動きに睨みを効かせるようになり事態は膨らむところまで膨らんでいる。

「ダクシルースの市民の中でも噂されているようだな、事の次第を。やはり軍の動きに違和感を感じたのは我々だけではなかったようだが、統括軍政府も緊急で調査委員会を設定したらしい。今回のことはさすがにあちらさんも全貌を把握しきれていなかったらしく、ダクシルースに構えていた奴らの暴走だそうだ。」

 統括軍の内部でも核兵器の実験及び使用については苦い顔をしていたようだ。バーナードの説明通り調査委員会がルトの発信した記事を読み、今回ダクシルースの一見にかかわった統括軍のスタッフにガサ入れ調査を行った。結果的には首謀者とされる士官数名が裁判にかけられることとなり、逃亡した艦隊が統括軍本部に付いた途端に一旦お縄に付いたのちに免職処分を食らうこととなるのではと噂されている。

「それと今回の一件で分かった。やはり統括軍を私は許せんということがな…。」

 もともとこのアルバトロスに参加したメンバーというのは統括軍に裏切られた、もしくはやり方についていけずに見限った連中である、そのうえでバーナードがこのような発言をしたというのはよっぽどのことであろうとわかっていた。

 数百万人もの人々をただの実験台にしか考えず、核兵器などというおよそ人が触れてはならぬ禁忌に手を出すような輩共の暴走を許そうはずがない。たとえ統括軍内において事の始末をつけ、鎮火するため世間体に贄を差し出したところで統括軍政府という大きな組織自体の怠慢を隠し通そうとしているだけにしか映らなかった。真実それは実際責任逃れの一端であろう。

 誰だって自分に降りかかる火の粉は払いのけたいはずだ。それは分からなくもないがこればかりはどれだけ払いのけようとしても払いきれない。多分統括軍がつぶれるのはゲリラの頑張りではなく自滅なのかもしれない、とまで思わせるようなものだった。

 ただ、そのような茶番を繰り広げたところでひっくり返らないというのはやはり今日までこの地球において政治の中心を担ってきただけはあろう。

「まぁまぁ、キャップ!そんな陰気くさいこと言ってないでいっちょパァーッとやりましょうや!せっかくアルバトロスの修理もメドが立ったんですから!今は気にしない気にしない!」

 既に出来上がっているルトがバーナードの背をバシバシと叩きながらもう片方の腕には酒瓶を担いでいる。

「うわ!酒臭いなぁもぉ…。せっかく真面目な話をしているってのにまったく…。」

「どうせまたこのアルバトロスを狙ってやってくる奴らはすぐにでも来ますよ。ここはルトの言葉に乗ってやりましょう!」

 また誰かがバーナードにそう言う。その流れがじわじわと感染していきついには周りまで巻き込むどんちゃん騒ぎとなった。

「…つい先日までシリアスだったのに締まらないやつらだよ…。一体、誰に似たんだかな。」

 そうは言いつつも彼の性分としてそれに参加しなければならないという気持ちが強くあった。

 今日にはここを発つかもしれないんだからほどほどにしておけよ!特にパイロット諸君!」

 自分の判断がぐちゃぐちゃになってしまう前に言っておく。

「「「はぁぁい!」」」

 なんてのんきな返答が帰ってきたことにバーナードとついでにニールスも頭を抱える。


 エドゥの肩にトンと叩かれる感触があった。振り向くとニールスが顎で「ちょっと表出ろよ。」と言いそうな雰囲気を漂わせながら騒ぎの輪から出て行く。

(やだなぁ…。)と思いながらもエドゥも同じようにその場から去りニールスを追う。

「…どうした、わざわざ自分から話しかけるって事は何かありそうだが…。」

「…別にそこまで警戒心を持たなくたっていいじゃないか…。ただ…その、ありがとうって言おうと思って…。」

 ニールスから出た言葉がエドゥには思っても見ない言葉だったのでキョトンとする。てっきり絶対に彼女が女性である事を公言するなよ、と脅されるものかと思っていたがまさか出る言葉が感謝とは考えもしなかった。

 そのため少しばかり狼狽える。

「あ、いや、そのこちらこそ?ではないが、またどうして…。」

「一応約束は守ってくれていたみたいだし、ボクも別に信じていないわけでもなかったんだけれど…それでもボクの事を誰にも明かさなかったから…。」

 理由を聞いてエドゥはなんだそんなことか、と思う。

「ま、なんだ。あのあとすぐにダクシルースでのゴタゴタに巻き込まれたしな、忙しすぎて忘れてさえいたよ。それにポロっと言っちまったらお前に何されるかわかったもんじゃないし。平気でドタマをカチ割られそうで…。」

「いくらボクでもそんな事しないよ!人をなんだと思ってるんだ!」

「俺もまたそうだ、そんな事しない。」

 ニールスはハッと気がつく。エドゥに行った事をそっくりそのまま返されたことで自分が人を信用していないということに。

「そうか、ボクは…人を信用していなかったんだ。」

「ニールス、確かにお前の複雑な立場というものは俺にだって理解できないほど深いところにある。誰も信用できなくなるってのもうなづける。だがなせめて俺たちだけは、このアルバトロスのメンバーだけはせめて信用してくれよ。こんなの照れ臭くて普段なら言わないが、俺たちは仲間だ。互いが同じような思いを抱いてここにいる。それに俺はあんたの兄、ニールスと同じ統括軍に欺かれた人間だ、それを拾ってくれたここの連中を俺は信じる。それが俺にとっての礼だと思っている。」

「礼?」

「そう、礼だ。」

 ニールスは壁にもたれかかるように立ち少し考える。

「その礼とやらはボクに対してもあるのかい?」

「当たり前だ、ザンダガルの名をつけることを決めてくれたのはニールス、お前だ。それを含めても感謝している。」

「人を信じる、か。ずっと独りよがりで忘れていたのかもしれないな。エドゥ、ボクこそ君に背中を預けるなんて言っておきながらボクは心のどこかで壁をしていたのかもしれない。」

 エドゥはニールスの肩をポンポンと叩きこう言う。

「今からでも遅くはない。人生にやり直しが効かなくても途中で修正は効く。」

「ふふん、そうかもしれないね。そして相変わらずキザなセリフをよくもそこまでペラペラと言える。」

 ただ笑った、別にお互いに対して面白いことを言ったわけでもないのだが何故か自然と笑いがこみあげてきていた。

 エドゥもニールスも所詮は同族、それも出家して俗世から離れざるをえなくなったような人物だ。望んでもいないのに叩き込まれたこの世界は確かに厳しいものがある。だが、それでもなお得る物はこれまで以上に大きい。はたから見れば、それは弱者の傷の舐めあい程度にしか見られないのであろう。でもそれでいい。本当にその通りなのだからと、そう言い合って笑う。

 身の程を知っている、むしろ身の程をわきまえていないのは高いところでふんぞり返っている人間の方だ。

 正義とはなんだ、なんて語る事はしない。それを決めるのは自分たちでもほかの誰でもない、時代が決めることだ。ならば今は統括軍が正義となるだろう。だが時代はいずれ変わる。次なる正義を求めだす。その時自分たちが前に出られるようにすればいいだけだ。

 だから足踏みはしない。くだらないことで立ち止まっているようじゃいつまでたっても何も始まらない。

 今はそう信じている。信じるのだけはタダなのだから。


 宴もたけなわなところですぐに来訪者はやって来た。へべれけで使えない数名を蹴り倒し追い出して、まだ頭も冴えている人間だけで状況確認を行う。

 前方を光るものが何かを確認したとき、すでに

 相手からはこちらの存在に気づかれていた。

 シャイダン・サルバーカイン少将の乗るランド・バトルシップ「ディオネー」が迫ってきていた。シャイダンの耳にも原子力爆弾の事について入っていたが、しかし彼にとってはそれはついで、アルバトロスの事の方が重大であった。その中でも特にバーナードが生きていること、および統括軍を裏切ったということが事実であるか、だ。

「ついに見つけたアルバトロスめ…。ギルガマシン各機発進準備に取りかかれ!私もローディッシュ・パンターで出る!」

 ディオネーの巨大な船体から次々とマシンが出撃する。それをバーナードらも目視確認する。

「多分敵の艦だ。識別信号を確認いそげ!前方モニタには最大望遠で映し出した映像出してくれ!」

「多少ぼやけますが出ます!」

「構わん!」

 パッと映し出されたモニタは画質が荒く、ブロック状のモザイクのような乱れたものだった。だがバーナードにはそれは見覚えがあった。

「識別出ました!統括軍のランド・バトルシップのアポローン級かと思われます。映し出されたモニタから機体横のトレードマークを照合にかけた結果、四番艦『ディオネー』だと思われます。」

「艦長!ディオネーと言ったら…!」

「分かっている、多分奴だ…!」

 まだ定かではないが思い当たる節はいくらでもあった。

(ディオネー…、シャイダン・サルバーカイン少将が乗っているのであろうな…。)

「出ました!ギルガマシンの反応です!その数ザッと十機程度かと…。ただ一つだけ反応が大きいんです!」

 マクギャバーの言葉に思考を巡らせる。

「大きいと言うのはガルージアか?」

 その問いに否定で返される。

「いえ、そこまで大きなものではなくて、多脚型にしては小さすぎますし、バイペッドタイプにしては大きいんです…。」

 考えの行き着く先はシャイダンの乗る重ギルガマシン「ローディッシュ・パンター」であった。

 ザンダガルのようにほぼ完成された人型のマシンであるが装甲の分厚さが段違いである。空を飛ぶように必要最低限の重量しかないザンダガルに対して(とはいってもリスタやレスロッドに比べればその装甲は厚いが)、地上における白兵戦を重視したローディッシュは固く、またその安定性もバツグンの機体であった。

 が故に、火器もそんじょそこらのギルガマシンが使用するキャノンやランチャーとは比べものにならないものを装備している。また腰に装備されたミサイルポッドは追尾型の厄介な奴だ。

「ヤな相手が来たが、こちらも仕掛ける!ギルガマシン出撃準備!奴らをアルバトロスには近づけるな!」


「まさかダクシルースから出た直後にこんな戦闘が始まるなんてね、余韻に浸る余裕すら与えられないとは。ザンダガル、出すぞ!」

 後部格納庫のハッチが開けられ、ザンダガルのエンジンがキィィィイ…と音を立て始める。

 シグナルグリーンが表示されブレーキを外してザンダガルをスタートさせる。

「む、アテンブールが出たか…。やはりエドゥアルド・タルコットとやらがいるのだな!ならばこいつでも食らわせてやる!」

 シャイダンのパンターがランチャーをザンダガルに狙い定めて撃つ。空高く飛び上がっているエドゥはかろうじでそれに気づき避けることができたがシャイダンの腕の良さに気がつかないからではなかった。

「この私の砲を避けるか……!奴め、ただのマシン乗りではないようだな。」

「な、なんだあいつ!空を飛ぶザンダガルを一発目で落とそうとしてきやがった!」

 愕然としている中、無線が入ってきたのでスイッチを入れる。

『エドゥ!あのローディッシュ・パンターには気をつけろ!奴はそんじょそこらのマシン乗りではないぞ!』

「アレがローディッシュ・パンター…。よくもあんな重いマシンを使える!パイロットのことを知っているのか?」

『あぁ、恐らくではあるがシャイダン・サルバーカイン少将。パイロットからのたたき上げで将官まで上り詰めた男だ!』

「なるほど、となるとつまらない小細工で勝てる相手ではないと言うことだ…。そうなりゃ、これはどうだ!」

 エドゥはザンダガルを空で機体を大きく回転させローディッシュ・パンターに向けてミサイルを数発撃ち込みながら太陽を背に突進する。

「なめるな!」

 シャイダンはそれを着弾前に撃ち落とし、煙に紛れるザンダガルの影を追う。

 が、太陽の光がシャイダンのバイザー越しにチラつき、一瞬だけ目を伏せた時にはその姿を見失う。

(しまった!)

 そう思った時には変形済みのザンダガルがローディッシュの後方に立ちバルカン・ポッドを突きつける。

「喰らえ!」

 エドゥが引き金を引いたものの、コンマ数秒シャイダンの判断力がローディッシュの機体をそらさせた。

「この私のローディッシュ・パンターに近づき、またその程度のか細い機体で恐れを為さずに接近戦を挑もうとした事をあっぱれと言わせていただこう!だがそれまでだよ、エドゥアルド・タルコット!」

 ローディッシュから聞こえて来たその声にエドゥは反応を見せる。

「ほぉ…俺の名前、サルバーカイン少将にまで届いているとは有名になったもんだ。」

 力強い拳がザンダガルに振りかぶるがすんでのところでそれを避ける。

 名前について否定しないところから多分間違っていなかったのだろうと確信する。

「有名になったのは何も君だけではない。バーナード・J・ガウダスという名の者はそちらの船にいるな?」

 売り言葉に買い言葉、もちろんバーナードならいるさ、それがどうした!と行きたいところだがわざわざ自分に聞くのならただならない事情があってのことだろう。先ほどのバーナードの話を聞くに多分見知った奴には違いないと踏む。

「さぁね、俺はこう見えてまだ新参者でね、アルバトロスの全員の名をソラで覚えちゃあいないんだ、そんな名前があったかどうか。」

さかしいな、エドゥアルド!」

「お互い様だ、シャイダン!」

 ローディッシュの振りかぶる腕がついにザンダガルの機体を掴む。それを根性で押し返せるほど良くできちゃいない事ぐらいは分かる。

 力では押し負かすことが出来ないとなれば、エドゥはAGSの出力を上げ、ザンダガルを浮かせる。

「押してダメなら引いてみろ!こいつで上まで持ち上げて腕をへし折ってでも叩き落としてやる!」

 いくら重ギルガマシンといえども重力に逆らうその力にともに飲み込まれる。

「これが小型AGS!この程度のマシンに持ち上げられるとは!一体統括軍はなんてものを作り出したんだ!」

 エドゥの手にのってたまるかとザンダガルを握るそのマニュピレーターをパッと離す。

「いまだニールス!奴を貫いてしまえ!」

『任せろ!』

 シューターのフックショットがローディッシュに向けて射出される。

(まずい!)と、体にひねりを加えて避けようとするが若干間に合わずにローディッシュの足をかすめる。

 バチッと火花が上がるが致命傷ではない。

 ニールスもすぐにフックショットを巻き上げるが二発目はもう無理だと悟る。

 エドゥも次に近づいて攻撃を加えようとしても多分回り込まれてベアハッグの一つでも加えられて機体が潰されるだろう、と一定の距離を保つ。厄介なのは格闘戦においても火力的にもローディッシュ・パンターが相手であるといまひとつ性能が劣るというところだ。

「さすがにこれ以上こちらの手の内を見せられないからな…。」

 負け惜しみの一つでも言ってやらないと気が済まぬ性格がその言葉を口から出させた。

「いい判断だエドゥアルド、なにも拾った命を無駄に投げ捨てることもない。」

 シャイダンがほぉ。と感心したように言う。アルバトロスとディオネーも各々の射程圏外ギリギリのところでにらみ合いをきかせていた。アルバトロスも新造艦とはいえ戦艦には主砲の射程も威力も戦艦のディオネー勝ち目がない。しかし小回りが利き、船速もディオネーに勝るアルバトロスに距離を詰められれば勝機はある。

 互いにそれをわかっているからこそ、じりじりと手を出せずにいる。

 しかしながら、ギルガマシン同士の戦いではアルバトロスの方がよっぽど不利であった。さすがシャイダン少将直属のパイロットなだけあって、操縦技術はこれまで戦ってきた連中よりはるかに連度が高い。

(どうしようもないな、この状況は……。たたき上げの実力は何とも恐ろしい…!)

 頭でそう考えて、自分があたかも余裕であるかのように振舞ってみせるがいっぱいいっぱいである。

 ミサイルの残弾を確認して一か八かでかける事にする。ローディッシュが避けるであろう位置をコンピュータで数パターン読み込ませて最も確率の高いところに仕掛けるにはどうしたら良いかを考える。その上ニールスの攻撃がスカッたとはいえ脚部へのダメージも加わっていることを考慮してもなんとかその場しのぎ程度には使えそうだ、と頭の中を巡らせる。

「こいつでもお見舞いしてやる!」

 ミサイルを時間差で射出し予知した場所にローディッシュが立つことを願う。一発目をさっと横移動でよけるも、二発目は着弾点に近い位置で機体が若干よろける。

「まだやるか!エドゥアルド!」

 ローディッシュののバランスを元に戻そうと操縦桿を握るが三発目が後方に落ち、爆発を起こす。

「なにぃッ!?」

 シャイダンは損傷個所をすぐさま調べ上げた結果、足回りのアクチュエーターが爆発の影響でひん曲がっていることが分かった。そうなるとマシンを自立させるのがやっとであり、また砲を撃てば反動を吸収できずに後ろに倒れこむ。エドゥもそれを察したのかローディッシュに向けてザンダガルを走らせる。

 エドゥがにやりと笑うのに対して、シャイダンは少しばかりの焦った表情を浮かべる。

「汚い手を使う、貴様!」

 まるで悪者だと言わんようなシャイダンの言い方にエドゥはカチンとする。

「それをお前たちに言われたくはない。今度のダクシルースの件を知らないとは言わせねぇぞ!」

 グッと言葉に詰まるがシャイダンは言う、

「ダクシルースにおける核実験に関しては我々の管轄外で起こったことだ!もう少し早くに事態を知っていたら我々で止めていた!」

「な、なんだと…!そんなのが今更ここにやってきて、すべて事後だぞ!お前たち組織がそんなずさんな管理をしているからこそ俺たちはお前たちに対して銃口を向けるんだろうが!」

「減らず口を!たかだか元一般将校風情が何を知った風に!」

「なにを!多少の腕が認められたからって調子こきやがって、挙句自分の慕っていた上司には逃げられて寂しいからって追っかけに来たのか!」

「「「「あ。」」」」

 そこまで言ってほぼ全員が気づく。

『おいおい、エドゥ勘弁してくれよ…。』

『バカ野郎!さっき必死で隠そうとした意味がないだろそれじゃあ!』

「やっべぇ…。」

「やはりか、まさか本当に中将であったとは…。バーナード中将はそこにいるみたいだなエドゥアルド。ミハイル、アルバトロスとコンタクトとれるようチャンネル開放してくれ。そしてそれを私の方に中継してほしい。」

『りょ、了解!』

 ディオネー艦内で交信のチャンネルをフリーに合わせる。周波数は微弱ではあるが、アルバトロスとのこの距離ならば十分につながる。

 多少ザ…ザ…とノイズが混じっているがはっきりとシャイダンの声がバーナードのもとに届いた。

『お久しぶりですね、バーナード中将、そこにいらっしゃるのでしょう?こちらではすでに葬儀が執り行われましたので死人と話すようで少しばかり不思議な感覚がいたします。』

 そんな枕詞を言われバーナードもついにマイクを握りスイッチを入れる。

「ウチの奴らも十分に減らず口の多い連中だが、それでもシャイダン、お前もなかなかに負けちゃいないな。」

『ハハハ、おっしゃる…。さて、』

 そこでシャイダンの声色が変わる。その声を聴くアルバトロスの全員が固唾をのむ。それでもエドゥは最後まで追撃できまいか、とソレを狙い撃とうとするがシャイダンのギルガマシン隊が遮る。それどころか後退指示までを早急に出し、動けなくなったシャイダンのローディッシュ・パンターを運び、二人の話し合いの場にアルバトロスのマシン部隊の介入をさせないようにする。

『あなたほどの方がなぜこんな反逆者共といらっしゃるのです?』

「言ってくれるねぇ、そちらさんも優秀そうだがウチも粒ぞろいでね。正直なところ統括軍には面白みもない。」

 シャイダンの口角がピクッとする。少しばかりバーナードの言い方に苛つくが、無論それは分かってしていること、さらに追い打ちをかけるかの如くバーナードは続ける。

「それに一つだけ言っておこう。エイベル将軍のやり方が気にくわない。私には私なりのやり方がある。それを何も知ろうとしないお前たちに横槍入れられる筋合いなんざ無い!シャイダン・サルバーカイン!貴様はもう少し利口な男だと思っていたがそれは当て外れも良いところだったようだな。結局奴らと同じ穴のムジナだ!」

『しかしあなたみたいに責任逃れはしていないつもりです。お戻りください、今ならまだ間に合います。私からもなんとか言っておきます。私はあなたと戦いたくはない!』

「下がれシャイダン、貴様が本当に今相手をすべきが我々でないことを考えろ。ダクシルースで起こったことに目を伏せていてはいつまでたってもあの組織のように没落していく一方だということを!各地から反感を抱かれている統括軍で誰か声の大きな者が目を覚まさなければいけない、そうでないと今後も私のような逃げることしかできない人物が出てくる。だから今は引け!今は互いに冷静ではいられない!」

 その言葉に一瞬反応をみせるがそんなシャイダンの様子を誰も知る由はない。

『……分かりました、またお会いできる事をお待ちしております。エドゥアルド、決着はまたの時につけよう、今日は引き分けということにしておこう。全機ディオネーに帰艦!そのままアルバトロスをスルーしダクシルースへと前進をかける!』

 統括軍のギルガマシンは戦艦へと戻っていく。

 そのままディオネーはアルバトロスの横を通り過ぎてダクシルースの方へと向かう。

「なぁにが引き分けにしておこうだッバーロめ…、格好つけやがって。」

 ザンダガルやほかのマシンはそれをただ見守るだけしかできずにいた。無言の圧力というものだろうか、ただそれに手出しをするのはあまりにも滑稽だと感じ取る。


「一難去ってまた一難ですか…、どうなんです艦長?」

「あいつはなかなかしつこい奴だからなぁ…。まぁ悪いやつではないんだけどもねぇ、いかんせん頭が固い。」

「そんなのばっかじゃないですか、艦長の周りは…。この先どうするんです?あなたが生きているということが分かってしまったんですから、誰かさんのせいで。」

「悪かったよ、…だがアレにずっと狙われ続けるのかと思うとゾッとするな…。ローディッシュ・パンター、シャイダン・サルバーカイン…。ここにきてザンダガルにとっての強敵が現れるとはな…。」

 自分の力不足さをシャイダンとの戦いでエドゥは思い知る。というよりもここまでなんだかんだと負けなしできたアルバトロスのメンバーにとっては目に見てわかる初めての敗北であった。

 だが過去を振り返らないあっけらかん軍団とは彼らにふさわしい言葉だろう、シャイダンとの戦いは彼が言ったように引き分けだ、そう考えるのもまた一つの手であろう。

 ただそう意識的に思うのとは裏腹に、無意識的に闘志を抱くのも事実。

 この思いがどのように彼らに作用するのか、それは明日へと続く!続くったら続く!

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