第22話エンカウンター
支配をする統括軍、混沌を呼ぶゲリラ。それぞれの戦いは次第に大きくなるのは時代が与える試しなのか。そうであるならば実に残酷で無責任なことである。
レボルストと接触しようと考えたバーナードはスヴァーナに向けて湖を渡ろうとしたところでシャイダン少将の部隊と交戦する。その戦闘中、レボルストの勢介入によりディオネーは後退、アルバトロスは危機をしのいだ。だが、バーナードはゲリラからのその手出しは自分たちの立場を弱くするものだ、と確信し心中穏やかではなかった。
スヴァーナ市は人口約四万八千人とかなりの数を占める都市であり、統括軍としても重要視していたい拠点であった。そんな場所を発足したばかりのレボルストがフォース・ヘッズのゲタルト・ジャイフマン大佐率いる統括軍の基地相手に戦闘を仕掛け、大佐はそのまま行方をくらませてフォース・ヘッズは壊滅、そして勝利を収める。そしてスヴァーナ市を中心として現在彼らの勢力圏の拡大を行っている。
「…と、言うのは表向きの話です。中将。」
バーナードとマクギャバーは上等な皮で作られたソファに腰を下ろし、アルバトロスのクルーを二人、後ろに立たせる。大理石のテーブルを挟んだ向こうにいるのは先の話に上がった人物、ゲタルト・ジャイフマンが座っていた。
「久方ぶりでありますな、最後にお会いしたのは全統会議の時でしたかな?そのすぐ後に中将が亡くなられたと耳に挟んだ時は大いに驚きましたが、それ以上にこうして同じ立場として話し合いの席を設けている事の方が考えられませんな。」
バーナードはしばらく沈黙を見せる。それを横目にマクギャバーは汗を垂らす。この男にこれ以上余計なことを語ってもらいたくはないと一心に願いながら。
やっとバーナードは口を開く。
「同じ立場というのは死んだ者同士ということかもしくは、統括軍を裏切った者同士ということかな?前者はまだしも後者は少し違うな。それに我々は今同じ立場にはいない。レボルストから見て私たちが圧倒的に下にいるよ。それにもう中将ではない、元が付く。」
大佐の横に座る人物がケラケラと笑いながら横やりを入れる。
「あなた方が下とは思ってもおりませんよ、先ほどの戦闘で危機が迫っていると思ったから助けたにすぎません。そんな恩着せがましいことなど申しませんよ。」
その笑っている人物こそゲリラを組織的にまとめるリーダーのハイネス・ダットソン教授であった。革命過激派と銘打たれた彼のイメージをそのまま当てはめたかのような屈強そうな男である。逆に言変えれば、あまり教授と呼ぶには似つかわしくない風貌をしていた。
「しかしなぜまた、エイベル将軍のお膝元である大佐がレボルストと同じ席に?」
「ここは自分が説明させていただこう。」
そういってハイネスはバーナードに事のいきさつを話し出す。
「彼もまたガウダス氏、つまりあなたと同じく統括軍のやり方に疑問を持ち始めてクーデターを起こそうとしていた所だった。秘かに送り込んでいた同志がその情報を聞きつけて我々は一目散にスヴァーナに向かい、フォース・ヘッズの壊滅に見せかけてクーデターを手助けしたわけだ。最近のエイベル将軍のやり方は目に余るものが多いと統括軍に反旗を
「初耳です、まさか統括軍がそこまでとは…。」
バーナードが驚くようにしてつぶやいたのを今度は大佐が説明する。
「統括軍により情報の規制がなされていますからね、アルバトロス強奪の一件以来、統括軍内での不和をゲリラに知られたくないために内々で収めようとする動きが強まっていましてね。しかしバーナード・J・ガウダス中将の死亡によりエイベル将軍のストッパーとなる人物が誰一人といなくなり、統括政府高官もすでに将軍の傀儡となった現状、こうなることは誰の目から見ても明らかでした。」
「そして、なんとかアルバトロスをクーデターを切り開いた功労者として接触しようとルト・ローパー君に情報を流しながら追っていたらこうしてあなたの生存確認だけでなくこの場に同席することまで漕ぎつけることができたというわけだ。」
「ルトを…。」
黙って聞いていたマクギャバーがハイネスの口から出て来たルトの名前を聞いてピクッと反応を示す。
バーナードは腹が立った。ルトの立場を逆に利用してまでアルバトロスとコンタクトをとろうとするその意地汚さに。だが彼らのフィールド上にいながら彼らからの要求を拒めば何をされるか分かったものじゃないと考える。
これこそがバーナードが自らの立場を下だといった
マクギャバーの方をちらりと見るが、彼は静かに首を振るだけに過ぎない。正直、このまだ口に出されてもいない取引はスヴァーナに近づくよりもずっと前に成立していた。レボルストからの援護が誓約書のサインと同義だということに気が付くまでに時間がかかりすぎていた。
そして決定時事項を復唱するかのようにハイネスは要求を持ち込んでくる。
「現在では我々も小型AGS搭載型ギルガマシンの量産を成功させております…。ナーハ商会のエレクトロニクス事業部門によって開発された『ビルガーⅡタイプG』が。いつだって統括軍に一泡吹かせることは容易です。ミスターガウダス…。我々とともに協力しあって統括軍を、グリーチ・エイベルを討ちませんか…?」と…。
「まさか本当に俺と…。てっきりルトやサミエルと一緒にショッピングでも楽しむのかと…。」
バーナードたちがハイネスらとを会っている間に停泊したアルバトロスを離れてエドゥはニールスとスヴァーナの街を歩いていた。本当はルトやサミエル、ゴーヴを誘ったのだがルトはするべきことがあると艦に残り、サミエルとゴーヴは用事を済ませてから合流すると言い残してどこかへ向かってしまった。
「一応表向きは男だぞボクは!女の子とのショッピングなんて楽しんでいたら怪しまれるじゃないか!それに冷静に考えればルトはともかくサミエルはあまりそういったことに興味はなさそうだし…。…それよりも君となら…、その、なんだかんだと付き合いも多いから別段怪しまれないと思っただけで…。」
慌てた様子で一生懸命弁明するニールスの話をエドゥは「ふぅん…」と聞き流しながら店のショウウィンドウをじーっと見ながら立ち止まる。
「ちゃんと聞いているのか!」ニールスは右を振り向いた時にエドゥの姿が消えていることに気がつく。後方を振り向くとエドゥはニールスを洋服店の前で手招きしていた。
「なんだよ…。」
「いや、お前はこういうものを欲しがらないのかなって聞きたくて。」
エドゥが指さしたものはマネキンに着せられている白くかわいらしいワンピースだった。ニールスはそれを見るとすぐに「うへぇ…」と顔をゆがめる。
「なんともありきたりな…。っていうかさっきの話をやっぱり聞いてなかったな!男だってことで通しているんだ、こんなもの着てたらおかしいだろ!」
「いやぁ、やっぱりいくら男だって偽ってても少しぐらいはお洒落に気を使いたいんじゃないかなぁ、と思ってよ。
エドゥの言葉でフッとニールスは顔をうつむかせる。
「そりゃ…ボクだって年頃の女の子みたいなことしたいさ…。でもそれをしてしまったら誰かに正体をバレることが怖いってだけじゃない何かを失ってしまいそうなんだ…。元のリリィ・ファラシーに戻ってしまったらニールス・ファラシーは本当の意味で死んでしまう…。弱虫のリリィでなくて勇敢なニールスとして出ないと仇は討てないさ…。彼が死ぬのは全てが終わってからじゃないと…。」
この瞬間だけニールスはニールスではない、リリィとしての本当の姿だった。あの時アルバトロスの風呂場で見た彼女とは違う、もっと根底から亡き兄を思う妹としての姿が見えたような気がした。
ニールスは洋服店の前から逃げるように離れる。エドゥは何も声をかけることができずにその後ろを追っていくように彼もまた洋服店の前から離れる。だがエドゥはハッとしたようなそぶりを見せてニールスに一言告げる。
「少し用事を思い出したからさ、待っててくれよ。すぐ戻ってくる。」
「え?あ、あぁ。分かった。」
(サミエル達もそうだけれど知らない土地で用事ってなんなんだろう…?)
ニールスは建物の壁にもたれかかりながら街の様子を観察する。つい数日前に戦闘が起こったとは思えないほどに一見して平和そうに見える。だがここは見てくれの雰囲気からしても大通りではない。大通りの方に向けて目を凝らすと、奥の方では煙の立ち込めているところがある。それに路地には『キープアウト』と書かれたテープがされている。おそらくあの裏には死体が転がっているのだろうと想像すると途端に死臭が漂ってくるように感じて気分が悪くなってくる。
その路地を何気なく見ていると一人の男が出てくる。まるで何でもないという風にそんなところから出てくることに驚いたがその場違いのように小奇麗な男の容姿がニールスには一番驚かせた。
「に、兄さん…?」
ニールスの、いやリリィの亡き兄にまったくそっくりな男を無意識に追っていく。
「兄さん!ニールス兄さん!」
そう叫んでいれば振り向いてくれるだろうと必死に兄を呼ぶが振り返るそぶりを見せることなく男はすたすたと歩いていく。男に追いついて彼の服の裾を掴んだ時、彼はやっと自分の事を呼ばれているということに気が付いた。
「き、君は…?」
「すまんなぁ、ニールス。…ってあれ?」
エドゥはニールスを待たせていたことに詫びを入れながら戻ってきたがそこに彼女がいなかったためにキョトンとしながら立ち尽くす。
「サミエル。本当にいいのか?エドゥたちと一緒じゃなくてよ。」
ゴーヴが心配そうに聞くが、サミエルは少しつっけんどんな答え方をする。
「いいんだよ。エドゥたちがいるところであいつらに会ってみろ、考えただけでも恐ろしい…。アタシだって本当は会いたくはないけれどさ…。」
「ならばアルバトロスを出なきゃいいわけじゃないか…。」
ゴーヴの言い様に対して何もわかっていないと言わんばかりにサミエルはため息をつく。
「いいや、会いたくはないと言ったけれども会わなきゃだめなのよ…。アレが何を考えているのか聞き出さなきゃ、統括軍だけじゃなくてアルバトロスにまで多大な影響を及ぼすかもしれないじゃない。それが未然に分かるのならばいくらでも打つ手はあるわ。」
「そりゃそうだ、俺たちが世話になってるアルバトロスに迷惑はかけられねぇや。しっかし、本当にこのスヴァーナにいるなんて確証は取れてないんだろ?もしいなかった時、その時はどうするんだよ?」
「その時はその時よ、だからルトの掴んだレボルストの会合にナーハ商会が出席するっていう情報を信じる他ないってこったね。」
あっけらかんとしたサミエルの態度に呆れ半分感心半分なゴーヴであったが、片足をすでに突っ込んでいる状況で抜け出す気もなかったので彼女のやりたいがままに付き合うことを決めた。
「とは言ったものの、見つけ出すのはたやすいと思うが俺たちだけで同接触するんだよ。ガードは堅そうだぜ…。」
「そこなのよね、問題は…。会合を覗きたいなんて言ったって突っぱね返されるだけだろうし…。」
解決策を見いだせないまま無意識に歩いていた二人はいつしか立派な建物の前にまで足を運んでいた。その建物はついこの間までスヴァーナ市政府の議事堂であり、現在はレボルストが占領しその本拠地として旗を掲げている場所であった。
「ありゃこの国の旗でも統括軍政府の旗でもねぇな…。そうかここがレボルストの基地だってことだな?みろよ、イカしたギルガマシンが置いてあるぜ。」
「見たことないマシンだね…。レボルストが独自に作らせたマシンかしらね?」
「多分な。野郎、統括軍と全面戦争でも始めようってのか?しかしあれだけ厳重な警備をされているのならタダでは中の様子を探るのは不可能だな、何かきっかけでも作れれば…。」
二人が議事堂をあとにしようとしたその時、後ろから呼び止められるように声をかけられる。
「お姉様!?サミエル姉様じゃありませんか!?」
サミエルとゴーヴはハッとして後ろを振り向く。するとその少女は格子状のフェンス越しに二人の姿を見て安堵したようにホッと一息つく。
「やはりお姉様でしたか、それにゴーヴも一緒でしたのね…。」
だが、その反面サミエルは彼女をキッと睨みつける。その目つきは血のつながった姉妹に対して向けるようなやわなものではなかった。
「エイミー…。アンタ、どうしてこんなところに…?」
その横でゴーヴも驚いてはいたのだが、彼はチラッとサミエルの方を振り向いて小さな声でこう言う。
「きっかけが出来た…!」
サミエルは一瞬彼が何を言っているのかよく分からなかったがエイミーの方を一瞥してから納得する。
「なるほどね、利用価値はあるわね…。」
「兄さん…?いや、すまないが君は人違いをしているんじゃないかい?」
ニールスが話しかけた青年は確かに彼女の兄にそっくりだった、しかし声も違えば彼から漂う雰囲気は全くもっての別人だった。
「あ、いえ…。すいません、人違いでした…。」
とニールスは一歩、二歩と後ずさりする。
エドゥはニールスを見つけて、彼女の元へと駆け寄る。その時フラッと立ちくらみを起こし倒れかけたニールスの身体を支えて、指の先から伝わる彼女の体の震えと青ざめた様な顔色を異常と感じ取って青年に食ってかかる。
「てめぇ!ニールスになにしたんだ!」
初対面でありながら乱暴な口の聞き方をするエドゥを野蛮だとみなして冷たい眼差しを向けながら順を追って説明する。
「失礼だな君は、私はなにもしちゃいないさ。その方がこの私を兄だと勘違いしていた様なのでそれを否定したまでだよ。」
「兄だとぉ…?」
エドゥの頭の中にはニールスが話す彼女の兄の像がよぎったが、そのイメージと目の前の青年にはそれが一切当てはまらなかった。
「分かったろう?私は彼に一切手をかけてはいないさ、しかしなぜそこまで血相変えるのか分からないな…。では、私は先を急ぐので。」
エドゥは早とちりによる己の失態だとこうもハッキリと突きつけられぐうの音も出ずに固まる。
青年が立ち去ろうとする時、エドゥは少し違和感を抱いた。その違和感がなにであるかはすぐに分かった。彼が正装をしているからだった。
青年の様相はこの薄汚れた街にはあまり似つかわしくないものだった為に少し目を惹かれた。絶対に何かあると思い謝罪を述べるついでに自然に彼の名を尋ねておく。
「…すまなかった、飛んだ早とちりでよ…。俺はエドゥアルド、エドゥアルド・タルコットだ…!きちんと詫びを入れたい、あんたの名を教えてくれ。」
それなりの地位に立つ人間ならばキチンとした礼儀にはしっかりと答えるだろうと踏んでみる。だが、それも五分五分と言ったところだろうとも考えてはいたが。
青年はエドゥの方を振り向いて「ふむ…。」と少し考え込む。
が、すぐに爽やかな笑顔を作って名を名乗る。
「自分はロナウド・マクダナゥJr.だ。正直少し言いすぎたとこちらも反省している。そこまで素直に謝られるとは思いもしなかったから謝罪の言葉はもういらないよ。エドゥアルド・タルコット。」
ロナウドは彼らの元へと戻り、差し出した両手をエドゥに支えられたままのニールスの手に重ねて頭を下げる。
「何があったかは分からないが…すまないね、君の兄ではなくて…。何かの縁だ、これを渡しておこう。」
ロナウドは懐から紙片を出してそれをニールスに握らせる。そこには彼の名前と連絡先が書かれていた。
「私のプライベートナンバーだ。困ったことがあればこのナンバーに連絡を入れて欲しい。直接私に繋がる。」
それだけ言うとロナウドはまた背中を向けて去って行った。
ニールスは落ち着きを取り戻して自分の足で立ち、エドゥに一言「ありがとう。」と添える。エドゥは手をそっと話して、ニールスと対面する様に立つ。
「育ちは良さそうな感じだな…。ところでニールス、あいつは本当に兄ではなかったんだな…?」
まずいとは思いつつも一応本人に確かめておかなければならない重要なことだ、ニールス本人もそれを分かった上で答える。
「あの人は顔はそっくりだけれどもボクの兄さんではなかったよ…。雰囲気も違ったし、何よりボクのことを『彼』と言ったんだ。『彼女』ではなく『彼』とね。それに兄さんは死んでいるんだから、本当にいたとしてもそれは所詮幽霊に過ぎないよ…。」
「…そうか…。こんなことを言うのは実に酷だとは思うが、おかげで奴の素性を探る上で一番欲しかったものは手に入れることができた。」
「別に気にしちゃいないけれども、素性なんて…。そんなの探ってどうするんだよ。」
エドゥの言ったことにイマイチ合点がいかなかったニールスが尋ねる。それに対してエドゥはニールスが握る紙片を受け取ってチラリと見る。
「奴の格好に違和感を感じなかったか?ここら辺を見渡してみろよ。」
そう促されて、ニールスはグルッと全体を見回す様に首を動かす。
「あれほど身なりがきちんとした人間なんてここにはそうそういないんだ…。」
大きな街とは言えつい数日前に戦闘が起こったこの場所において誰もがくたびれた様子を見せていた。そうでない人がいたとしてもロナウドほどの立派なスーツ姿の人間など誰もいない。
「それにありゃ安物じゃなくて相当値の張るものを身にまとってたぜ。あいつからすれば、俺たちが何か因縁をつけてゆすりたかりをやるような奴らに見えてもおかしくなかったってわけだ。」
「でもそれだけじゃ素性を探るまではいかないじゃないか?」
「考えてもみろ、この時期にこんな所をうろつくボンボンと言えば。
「そうかっ!レボルストに関わる人間しかいない…!」
そこでニールスも納得がいった。とどのつまりどう言う関係性であったとしてもレボルストと通じる人間ならば今現在においては間接的にアルバトロスと関わる人間であるかもしれない。
「今の俺たちが奴らと対等に渡り合うためには何かしらの切り札が必要なわけだからな。とは言え空振りの可能性だって大いにある。まさかプライベートナンバーまで教えてくれるほどのお人よしだとは思わなかったが、名前さえ知ってしまえばルトにでも調べてもらうことは可能だ。」
「本当に君はちゃっかりしているな…。」
「誉め言葉として受け取っておくさ。」
「そうだ…」とニールスは話を変える。
「エドゥがさっき言ってた用事って?」
一連の出来事ですっかり忘れていたが唐突に思いだしたのか、エドゥの行動について彼女はそれなりに気にかかっていた。
「サミエルやゴーヴもそうだけれど、なんで知らない街で用事ができるのさ。」
エドゥは詰め寄ってくるニールスに対してひとしきり悩むと、「それについてはまた教えてやるよ。」とだけ言って大通りに向けて走っていく。
「なんだよそれ…。」
ニールスは少しふてくされたように口を尖らせる。
バーナードの手元にある灰皿にはすでに十本もの吸い殻が溜まっていた。
ハイネスやゲタルトらの誘いに対して「少し相談させてくれ」と言い残してから一時的に離席してマクギャバーたちと顔を合わせて話し合う。
「やはり手を組んだ方が良いのでは?見たでしょうあのビルガーとかいう新型ギルガマシン。奴ら本気で統括軍と戦おうってハラですよ…。」
「だが釈然としないんだよなぁ…。あのハイネス・ダットソンって男はまだしも、元フォース・ヘッズの隊長まで務めていたゲタルト・ジャイフマン大佐だぞ?なんでまたゲリラのトップと手を結ぶんだ…。何か裏がありそうじゃないか…。」
「そうだなぁ、あまりにも出来すぎている気がする…。スヴァーナは確かにそこまで大きな街ではないにしろ統括軍としてはここは破られたくはないだろ?それをいとも簡単に取られて、あげくは取り返そうともしない…。それにルトが言ってたろ?フォース・ヘッズの総入れ替えは既に完了しているって…。あんまりにも早すぎやしないか?」
「それにナーハ商会だって異常だぜ、奴らを支援している政治家はこぞって統括政府側の人間だっていうじゃないか。いくら戦争特需のためとはいえ待遇の良い飼い主の手を噛み千切るなんてマネすると思うか?」
十一本目の煙草を吸い終えたとき、バーナードが口を挟む。
「多分グリーチ・エイベルは仕組んだのさ。脅威であるはずのゲリラの内部に自分の信頼に足る部隊を忍ばせておいてな。いくら頑丈な装甲を持つ戦闘車両だって中に手榴弾投げ込まれちゃオシマイさ。それと一緒だよ。」
「じゃあ、艦長。あのハイネスって男は…!」
「騙されていると思った方が良いだろうな。となれば我々と同じ、こっち側の人間だということだ。操り人形さ。多分あの様子だとアルバトロスを引き入れようと提案したのもゲタルトだと思う。エイベルはアルバトロスをも見事に釣り上げた上に私が生きていることも確認できたってわけだ。」
バーナード以外の三人はサーッと血の気が引くような音が聞こえるのではと思うほどに困惑していた。統括軍にはめられたということもそうだが、何よりそれを平然と話すバーナードが恐ろしかった。
「そこまでわかっておきながら、なんで艦長はそんな涼しい顔をしていられるんですか!」
マクギャバーが珍しくバーナードに声を荒げる。
しかしバーナードは彼を沈めさせる。
「静かにしろって、あんまり隙を見せたらそれこそ奴らに弱みを握らせる結果になってしまう。それに私だってここに来るまでこうなるなんて思ってもいなかったさ。だがこうなってしまった以上打つ手は一つしかない。」
バーナードは人差し指を三人の目の前に突き付け、サングラスを光らせる。
「黙って奴らの言いなりになっていればいい。」
「「「…っ!」」」
むちゃくちゃな、あまりにもむちゃくちゃな話だとは思った。しかしながら、たかだか数機のギルガマシンと一隻の巡洋艦しか持っていない彼らが軍隊レベルの組織と渡り合おうとする今、それ以上に生き残るすべを持ち合わせてはいなかった。
それと同時に奇妙にもその困難な状況をもかいくぐろうとする考えに愉快さを感じた。
扉がガチャリと開かれてハイネスとゲタルトか部屋から顔を覗かせる。
「そろそろご決断いたしましたかな、ミスター。」
ニヤついたハイネスに負けずバーナードもまた不敵な笑みを浮かべる。ただその顔はハイネスにではなくゲタルトに向けるのだった。
灰皿に積もった煙草のうちの一本は完全に消火されておらず、チリチリと音を立て、微弱ながら周りまで引火させていく。
「しかしゲタルトをレボルストに忍ばせ、敵の内情を探る作戦…うまくいくのでしょうか…閣下。」
グリーチ・エイベル統括軍総司令官の横に立つファースト・ヘッズを率いる男、キストロール・スキャッチャオは実質統括軍のナンバー2である。それまではバーナードがその立ち位置にいたのだが、彼の失踪以来はキストロールが代わりとなっている。
「ジャイフマン大佐もああ見えて器用な男だ。そう下手を打ちはしない。」
「しかし、今やレボルストも組織として動き出したゲリラの言わば軍隊ですよ。敵もまた同じように統括軍の内部に諜報員を潜入させている危険性があります。」
その二人のやり取りを傍目で見る女性、フィフス・ヘッズを率いるリーダー、ミラージ・ミラージュが「フッ」と嘲笑してから、
「ファイブ・ヘッズのトップに君臨する男だからどれほどの人物かと思えば、心配事の多い神経質な人間だったとはね。それじゃあ、いつ部下に寝首をかかれないか心配でしっかりとお休みになれないのではないのですか?私の知るとある少将の方がファースト・ヘッズを名乗るにふさわしいと思いますが。」
無表情のまま小ばかにしたような口ぶりでキストロールを挑発する。
キストロールはその生意気な物言いに対して「なんだと?」とすごんでミラージの方を見る。
「…貴様、言うに事欠いて今この俺をサルバーカインなんかと比べ、あまつさえ奴より劣るなどと抜かしたか…。」
「よくお分かりではないですか、見えない敵におびえている様が滑稽だと申しているのですよ。」
これ以上味方同士で火花を散らしあうことを避けたいグリーチはその言い争いをやめさせる。
「やめろ二人とも。我々の敵はあくまでレボルストだ。ミラージュ中佐、君はサルバーカイン少将を特別高く買っているようだが私から言わせれば彼は適任だとは思えない。彼は組織に縛られずに単独行動をとってこそ輝くと確信している。スキャッチャオ中将をファースト・ヘッズに任命したのは、彼のこの慎重な性格が我々を、君を助けることもある。それにスキャッチャオ中将、君が心配することもまた理解はできるが、あまり行き過ぎた心配は有史において逆に己の身の破滅を招いた指導者をも作っている。」
グリーチの仲介により二人は納得はしていないものの引き下がる。これ以上将軍の前で醜態をさらすこともないだろうと。
「ただ、私が恐れているとするならばアルバトロスのバーナード・J・ガウダスの存在だ。大佐とハイネスの説得でバーナードはレボルストに嫌でも力を貸すだろうが、本当にそんな単純な手でいいのか。もっと複雑な手を使うべきではなかったのか…。そこが私にとっての悩みの種だ…。」
ゲリラや多くの統括軍将校までを恐怖させるグリーチが、それ以上に恐れる男がこのよに存在することが彼らには信じられない。そして、その男の相手をさせられているゲタルトがあまりにも不憫に思えてならなかった。
同時にミラージはそんなバーナードに仕えていた元恋人であるシャイダンの事をやはり偉大な存在だと思った。
「まさかこんなところでサミエルお姉様に会えるなんて思ってもいませんでしたわ。もちろんゴーヴ、あなたにも。」
エイミーはさぞ嬉しそうにカラカラと笑う。
ゴーヴは彼女にそれとなく愛想よくするがサミエルの方は依然として喋ろうとはしない。そんなサミエルの様子をみてエイミーは若干言葉に詰まるがそれでもなお話を途切れさせまいとする。
「…それにしてもお父様もお母様もスターシャもビックリしていましたよ。統括軍にいたはずの二人が突然失踪したと言う話を耳にした時は。お母様なんて全身の力が抜けて当分立てなかったのですから。ボーグ家の方々も一見気丈には振舞っていらっしゃいましたがそれでも動揺を隠しきれない様子でしたし…。」
「あの父がアタシのことを心配なんてするはずないさ。自分の言いなりにならない
ようやく姉妹の間に会話が生まれた。サミエルの言い方は酷くともエイミーにとって久方ぶりに会えた姉と言葉を交わせるということの方が重大であった。
「…積もる話もありますからそちらの門から入ってきてください。きちんと話はつけておきますのでご安心を。」
彼女の指さす方に二人は向かう。大きな門がゆっくりと開けられ、そこへ踏み入ってしまっては二度とは戻れないのでは錯覚してしまうほどに重々しい力を感じた。
格子状の鉄柵越しに話していた三人がやっと隔てる物のない場所に立つ。
エイミーは建物へ向かって歩きだし、二人についてくるような所作をする。
黙って歩きだしてから数歩、エイミーはそれまでの経緯を乱雑に紡がれた糸を丁寧にほどいていくように話し始める。
「お姉様が結婚を拒み、軍に入るとおっしゃってからゴーヴとともにシプレー家を出ていったその後、私がお姉様の許嫁の方と婚約をいたしたのです。」
「そっか、それについては悪いと思っているわ。あんたにそんなこと押しつけちゃってさ。」
サミエルがエイミーの揺れる髪を眺めながら軽い口調で謝る。それに対しエイミーはまったく気にしていないと言わんばかりにつづける。
「そんなことはありません。お姉様が昔から天真爛漫で堅苦しい我が家の雰囲気を嫌っていらっしゃったことはよぅく存じておりましたからそれは仕方のないことだと思っています。許嫁の方は実に良い方ですし、何よりその結婚はお父様の仰せられたことですもの。私にはお断りすることは出来ません。」
断ることができない、それがサミエルには気に食わないことだった。親から言いつけられたことを「はい。」と素直に受け入れるということが子供心にもあまりにも違和感を抱かせた。勉学やマナーなどの一般教養についてはそれでいいとは思っていた。だが、自身の将来にかかわることを、未来の先の先まで親の支配によってガチガチに決めつけられていることがサミエルには気持ちが悪かった。
「あんたやスターシャは昔からそうね、まさに親の操り人形でしかない…。」
そんな感情が言葉になってつい漏れ出てしまう。それによってエイミーの動きがほんの一瞬ピタッと止まるがまた何事もなかったように歩き出す。
「…お父様はナーハ商会がこの先生き残るためにはどんな手段だって
そんなことを言われたからといって別に二人は今更驚きはしなかった。けなげだと思う感情もどこかへ去ってしまったかのように抱くことができない。中途半端な名家に生まれたが故の苦労を知り、それを捨てたサミエルやゴーヴからすればなぜ彼女がそれを甘んじて受けているかが理解できないからだ。
「そう思っているのになんであの男の言いなりであり続けるのよ。そんな人生アタシならごめんこうむるわね。」
「エイミーには悪いが、俺だってそうだ。ボーグ家の誰が決めたことかも分からないのに、たいして年だって変わらないような君らに永く、末代まで仕えるなんて俺から言わせれば異常だ。そんな義理、俺には無いな。」
サミエルはゴーヴの言葉にうなづきながら彼女が言いたいことを続ける。
「そもそもあんたの結婚のことはどうでもいい。それよりも今まで統括軍にまで媚びておきながら急に立場を変えてレボルストにまですり寄って、あまつさえあんなにマシンを提供するっていうあの父親のその腐った根性が気に入らない。エイミー、どうせアレのところまでアタシたちを連れて行く気でいるんでしょ?だったらさっさと会わせな。」
心底、家族の事はどうでもよかった。だが軽率な考えだけで自分たちがまきこまれることには腹が立った。
気迫を見せるサミエルの方を振り向き、ついにその場に足を止めてしまったエイミーを押しのけて、サミエルとゴーヴの二人は議事堂内に向けてどしどしと足を運んでいく。警備員がこれを止めに入ろうとするがそれをエイミーが辞めさせる。そして今度は彼女が姉の後を追っていくようについて行く。
その刹那、サミエルの怒りに満ちた雰囲気をピリッと感じ取ったエイミーの心の中では何かが揺れ動くように思えた。
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