第4話コードネーム:ザンダガル

 人類が戦争を戦争と感じなくなり早数十年、なぜ統括軍が地上を統治し、なぜそれに挑む人がいるのかもわからずに大義のない戦い続けているこの星で、人は生まれ、生き、老いて死ぬのである。


 アルバトロスと呼ばれるランド・クルーザーの艦長を務めていたのは失踪のち死亡とされていた統括軍元中将のバーナード・J・ガウダスであった。

 アルバトロスの正式なクルーとして認められんと出撃をするエドゥであったが、使えぬアテンブールの代わりとして人の専用マシンを勝手に使い持ち主のニールスににらまれる結果となってしまった。だがそのおかげで三機中二機のアテンブールを手に入れることに成功した。

 そして敗走したヒッツはザンダ基地へとは戻らず戦力を再びと整え、次なる戦闘に備える。


 エドゥのアテンブールの頭部が変えられていた。スタンダードタイプの頭部では替えがきかぬということなので。同じく"頭持ち"のギルガマシンから移植させた。変形機構への干渉が危惧されたが、さすがは規格品と言ったところだろう。問題なく付け替えることができた。

 しかし、回収したアテンブールはすでに使い物にならなくなっていた。無茶な着地により直接及び間接的に壊れた部分が多々あり、頭部回路も損傷また逃げ出したパイロットがコックピット周りを破壊しつくしていたために修復不可能となっていた。

 せいぜい動かせるアテンブールに使うスペアのパーツ代わりにしかならない、とまで言われたほどであった。

「冗談きついぜ、おやっさん。せっかく苦労して持って帰ってきたってのに、これじゃあ意味ないじゃないか。」

 うなだれるエドゥにおやっさんことビンセントが苦笑交じりに答える。

「まったくの無駄ってことはないさ、コイツの中にある小型AGSはまだ元気に生きてるんだからの。これを解析すればお前さんのアテンブールも簡単に整備出来るってもんだ。それよかエドゥ、今気にするべきはこっちではないようじゃな。ニールスのマシンを勝手に使ったんじゃとな。あいつは気難しい奴じゃからな、あんまり下手に接すると痛い目に合うぞ。」

「おい、おっさん。アンタが好きなマシン使えっていうから俺は良さげな奴を選んだんだぜ?そうなら先に行っておいてくれればあんなに敵対心むき出しにはならなかったんだ!」

「そうだったかな?なんにせよこれから付き合っていくためにはしっかり仲ようなっておくべきじゃな。案外こういう出会いのほうが一番の戦友になったりするもんじゃて。大体そういう風になっておる。」

 カカカとビンセントが高らかに笑うと後ろから「エドゥアルド…、ちょっと来てくれ。用事がある。」とすごんだ声が聞こえてきた。

 二人が後ろを振り向くと噂のニールスがいた。

 コエー、と口の中で呟くとギロリと目を細め睨んできた。かなりの地獄耳であるなと思っていたところ、横から親指を突き立て頑張ってこいと言わんばかりに笑顔を作るビンセントがいた。

 仕方なくニールスの方へ行くためによっと立ち上がりビンセントに別れを告げ歩いていく。


 二人で若干距離をあけながら艦内を歩いていく、方向的にはキャプテンルームかブリッジだろうと踏んでニールスに質問を投げかける。

「用事ってのはたぶん艦長からなんだろうが何についてだ?」

 その問いにニールスはチラッと一瞬エドゥの方を振り向いて答える。

「…今向かっている場所についてと…その、お前のマシンについて話があるらしい。」

 まあ、なんと簡素な答えなんでしょ。と思っていたが答えてくれるだけマシと思い、とりあえず今度のことを謝っておこうと口を開く。

「勝手にマシン使って悪かったよ。知らぬとはいえ先に聞いておくべきだった。すまない。頼むから機嫌直してくれよ。」というと、これにニールスはピクッと反応して今度は体ごとエドゥのほうに振り向く。

「いくつか言っておくべきことがある、君がボクに謝るべきことはそれだけじゃないということ。それに別にボクは怒ってなんかない。この性格は生まれつきだから知らない人からすれば怒っているように見えるだけ。君以外にだってこんな態度だから安心して。それじゃあ先にブリッジに行くから。」

 と言い放ち、エドゥを残して速足で消えていった。

「なんでぇ、可愛くねー奴だ。」とボソリと言うが、これもまた聞こえているんじゃないかと思い慌てて口をふさぐ。


 ブリッジにつくとすでに数名のパイロットが待っていた、その中にニールスを見つけたが普通に談笑していた。何が生まれつきの性格だ。と今度は声に出さずにぼやく。もちろんエドゥが来た途端にその笑顔はフッと消えたが。

「来たかエドゥ。」と、バーナードは続けざまに喋る。

「それじゃあいくつか話をするからよく頭に叩き込んでおいてくれ。今度の戦いで分かったように奴らはこのエドゥアルド・タルコットを狙ってきている。これを好機ととらえザンダ駐屯基地に殴り込みをかける。もともとその背後にある山を越えてダクシルース方面へと向かうつもりでいたがあの基地が邪魔でね。しかしまっすぐ行ってしまえば例の駆逐艦共の退却ルートの鉢合わせるかもしれない。…そこでだ。」

 と一つ呼吸を挟みまた話し出す。

「回り込んでいく必要があるのは分かるだろうが、ここからが問題になってくる。西は完全に統括軍の勢力圏内でこんなところに突っ込んでいくのはまぁ、簡単に言えばバカでもしないな。そうなれば東から回り込むわけだが、そこには独立ザンダ自治区が存在する。たいそうな名前だが言うなれば昔ながらの民族集落がある。古臭い文化がいまだ健在しててね、その中でも知っているのは"ルサム"と呼ばれる戦いの神を祀っているってとこらへんかな。で、その習慣のせいで我々でここを突破できるか、ってのが問題だ。と、頭をうんうん悩ませているとね、いい情報を手に入れたんだよ。」

 まるで無邪気な子供のように身を乗り出して皆に期待を煽らせる。

 周りはそんな彼に慣れているのか「お、おぉ~。」なんて合いの手を送っている。

「統括軍と自治体がいい感じに火花を散らしあっていてね。…統括軍はそこで何かを発掘しようと目を血走らせているらしいね。ここに付け込んで自治体に協力すれば道が拓けるんじゃないかと考えたわけだ。」

 そう言ってから、さて意見は?と聞いてくる。おおよそ彼の中では決定時事項なのだろうが…。

 何度かザンダ自治区の連中と戦ったがそんな理由があるとは知らなかったが、それは置いておくとしてニールスが挙手するのが見えた。

「その作戦自体はいいとは思うのですが自治区がそもそも我々の手伝いを受け入れるでしょうか。それにそこで戦ってしまっては例の駆逐艦と鉢合わせて戦闘になった時と変わらないんじゃないですか?」

 確かにそうだ、とエドゥも思う。手伝いなんて必要ないと一蹴されてしまいそうだ。仮に共闘することになったとしても戦闘を行ってしまえばは回り込みをする意味がない。むしろ正面切って戦う方が利口なのでは、と誰もが思う。

 だがバーナードには考えがあるらしい。

「まず二つ目から答えよう。エドゥ、ザンダ基地にあるアテンブールはいくつだっけ?」

「三機ですね、とは言っても俺たちが奪ったやつと鹵獲したのを除けばもう一機しかないですが。」

 それを聞くと満足げに答える。

「そう、それに残る一機が確かに手ごわい。が、この戦闘に参加しないだろう。前回の戦闘で相当消耗しているからね。態勢を整えなければどうしようもない。つまりアテンブール同士の戦いは避けられる。それともう一つの方だが、ここで突破できれば彼らにちょっかいを出すザンダ基地をたたくという条件を提示するよ。ま、そこらへんについてはおいおいうまくやっていくしかないが、今のところアテンブールなんかが凶悪そうな頭部を変えてなかなかハンサムな出で立ちになったし、神聖な空気を漂わせてそうだね。ハハハ。」と笑う。

 あ、それと。と付け加え、

「アテンブールの名前を変えようと思うんだけれどどうかな、トレーグスやほかのマシンはそれで定着してるから仕方ないけれども、せっかくの新型機なんだし奴らが持っているのとこっちのとで分けた方がいいんじゃないかと。なにかいい名前があれば各々エドゥに考えてやれ。それをほかのみんなにも伝えておいてほしい。では解散!」

 唐突なのはこの人の専売特許なのであろうか、と思ってあたりを見回したところ誰もがまたか、と言わんばかりに愛想笑いをしていたのでとりあえずその場の空気に流されるままにしておいた。


 サミエルとゴーヴ、そしてルトに作戦とアテンブールの名前の変更についてブリッジでの話をそのまま話した。

「いいねぇ、かなりぶっ飛んだ人だとは思ってたけれどやっぱりどこかおかしい人間だね。アタシはその作戦面白いと思うけれどね!でも表立って戦うのはマシンのパイロットだからね、アタシがどうこう言う問題じゃないかな。」

 サミエルがいとも簡単に言ってのけるがここまでの付き合いだ、ゴーヴもまた同意見なんだろう。

「しかしあのキャプテン。あんまり侮らないほうがいいな。」

 どうしてだ?と尋ねると

「いやだって、わざわざアテンブールの名前変更なんてしなくてもいいのにエドゥとほかのクルーとが喋る口実を作ってくれるなんてさ。やっぱりこの艦に結成されたメンバーって軍に対する反逆者だろ?いつ命が狙われてもおかしくない状況で俺たちが来たんだ。その苦労を知るから労わってくれるものもいるが全員がそうじゃない。中には疑る輩もいる。あのニールスってのはよくわかんないが敵対心むき出しな事だけわかるな。」

「いや、たぶんノリで言ってるんだと思うが…。でもなんだかんだとあの組織のお偉いさんだったからな、意外とその腹の内が読めないのが怖い。そしてニールス…奴もまた考えが読めない。」

 ため息交じりにそういうと今度はルトが口を挟んできた。

「まぁ、彼はまだ十代で多感な時期だからね。気に食わないことがあれば衝突することもしばしばあるでしょ。私たち"大人"がしっかり見守らないと。」

「見た目は大人じゃないのになかなかにまともなことを言う。もっと見た目と相応にガキっぽいことを言うような奴だと思ってた。」

「…アンタのそういうところが原因なんじゃないかって思い始めたわ、エドゥ。」

 呆れ口調のルトにエドゥは舌をペロッと出しておどけて見せた。

「あんな態度取ってても戦場では鬼に変わるからねぇ。」

「うむ、確かに。」

 とうしろで声が何か聞こえたが聞き流しておいた。


 何人かがエドゥに対してアテンブールの新しい名前候補を上げてきていた。バーナードの話を真に受けたのか、それともやはり彼と話す機会を伺っているのかは分かりっこないが、それでもきちんと意思疎通を図れる人が増えることは大変にありがたいと思いそれを受け取っていた。…まぁ、たいして良いと思える名前が出てこなかったので受け流してはいたが。

 アルバトロスがその動きを止め、それを合図に各マシン乗りは出撃の準備をする。

 各機が砂漠を渡り先頭に行くマシンは白旗を掲げ、後方には我らの大将であるバーナードを乗せたニールス機、さらにそれを守るべく周りを固め、エドゥはアテンブールで索敵を行う。すると前方には町が見え、それこそ件のザンダ自治区である。

 予想はしていたことだが銃口を向けられる。そんなちんけな武器でギルガマシンが負けるはずはないとは思っているが、一応ここは交渉のために素直に下に降り立つ。

 扱いは若干雑ではあるが、話し合いに来ているということは伝わっているようで会合の席を設けていた。

 ルトも取材のためだとついて来ており彼らの事を見ながらつぶやく。

「古い民族っていうからみんな葉っぱ一枚を身にまとって槍とか弓矢とか掲げているのかと思ったけれども案外近代化が進んでるのね。」と。

「いつの時代を一体想像してんだよ…。人が平気で宇宙に出るような時代でサ。一般的にみて古いだけだからね。ま、こんな科学な時代に神様を信じるってのは、いつだって変わんないのかもね。」エドゥは、後ろに見える神殿か寺院のような建物を見ながら言う。

 そんな会話をしていると先ほど眺めていた建物から長い白髪白髭を蓄えた老人が出てきてこちらへと向かってくる。まさに村の長、長老といった感じだ。そこばかりは時代錯誤を感じさせた。

「…おぬしら、わざわざこんなところへいったい何の用じゃ…。」

 どっこいしょと椅子に腰かけながら長老は唐突に話を切り出す。

「まず先に名乗っておきましょう。私の名はバーナード・J・ガウダス。元統括軍の中将を務めており、現在重巡洋陸艇艦長を務めております。あなた方にお願いいたしたことがあり、そのためここまで参りました。」

 その言葉に長老はピクリと反応する。

「何?アルバトロスとな…。面白い少し興味が沸いた。さ、話してみなされ。っと、こちらも名乗らねば無礼に当たる。ワシの名はズストゥル・ベーハー。この独立ザンダ自治区で長を務めておる。」

 まずは第一段階クリア。やはり相手にもアルバトロスの情報はいきわたっている様子だ。このことで興味を抱き、また共通の敵がいることを理解してくれればグンッと話は早くなる。

「私たちはあなた方にお力添えをしてこの辺りを牛耳る統括軍を共に討ちたい、といった内容です。」

 本題を直球で投げかける。これにはさすがに怪訝な様子を見せるがここも予想の範疇。

「力添え…しかしワシらはこれまでも自分たちの手でやってきた。言い伝えでな、己の財は己で守れと。今更よそ者が介入することを認めてしまってはご先祖に顔向けできぬし、なによりこれから若者に対しての示しもつかなくなる。伝統に泥を塗ってしまうのは好まぬ。」

 さすが伝統を重んじるだけはある、その言葉を待っていた、まさに模範解答のような流れだ、とバーナードは舌で乾いた唇を濡らすためにぺろりと舐め口を開く。

「それでもずっと攻め続けられてはいつかはここも陥落してしまいます。現に奴らは空を飛ぶこれまでとは全くコンセプトの変わったギルガマシンを所持しています。うちの者がそのうち二機を手に入れましたがどうせまた量産体制に入るでしょう。これではイタチごっこだ、キリがない。陸と空、両方同時に失ってしまえばこれまで気づきあげた伝統も水の泡、示しがつかぬどころの話ではありません。それを踏まえたうえでお考えください。」

 ううむ、とうなりをあげるズストゥル。ここで最後に一つ尋ねられるだろうとまた身構える。

 後ろに立つ若い衆も「長、どういたします…。」「示しは十分についております。それを後世にも残さねばなりません…。」と様々に耳うつ。

 すると再び悩み、そして口を開く

「見返りは?ワシらにどうしてほしい?」

 来た!と心の中で叫んで、バーナードは静かに答える。

「ここの村を安全に横切らせていただきたい。それと水を少々。」

 この返しに村の人間は驚き、どよめく。

「本当にそれだけでよいのか!?まさかワシらをお騙そうというのではなかろうな!」

「ええ、我々はこの先にある峠を越えダクシルースの方へと向かいたいのですが自治区の外側を我々だけで突破するのには至難の業。一番安全な方法がここを素通りすることに他ありません。かといって無条件ではあまりにもあなた方に利益がなさ過ぎて…こう言っては何だがたぶんタダでは通してはくれないでしょう。それだけとはおっしゃいましたが十分におつりが出てきますよ。」

 それに、と付け加える。

「言ったはずです。この辺りの統括軍を討つ、と。我々が共に戦えばこの先に見えるザンダ基地を落とすことができます。されば私たちは安全に山を越えられますしあなた方は奴らの脅威から逃れられる。結局果たすべき目的は同じ、ならば私たちやあなた方がまとまるほうがよいではないですか。」

 そこまで言ってからふぅ、と一息つく。

 エドゥもルトもそして周りにいる誰もがバーナードの方を関心のまなざしでじっと見る。その視線に気づき彼はいやはや、と少し照れくさそうに笑う。

 すると若い衆の一人が「私は賛成です。」と、声をあげる。

「長、恐れながら申し上げます。このザンダの地は確かに我々が守るべき故郷であり、そうすべきと教わりました。ですが彼らの提案はその考えをないがしろにしているようには思えません、むしろ尊重しています。一切を彼らに任せるのではなくあくまで助けを借りるのみ。手を貸してもらってはならないという教えは残されていません。今は最も大事な時。ここが残るかはたまた地図の上から消え去るか、はこの選択によって決まります。どうか、ここは彼らを信じ力を貸していただきましょう。」

 その言葉に賛同する者たちが大勢いた。ズストゥルもまた彼の言葉によって決心したのかバーナードに皺くちゃの手を差し出す。

「この通りじゃ、若者の言葉にはパワーがあるからの。どうしてもNOとは言えんわい。ザンダルサムの加護のもとに。」

「立派な若者たちではないですか。ザンダの地は安泰ですね。彼らとその先の代のためにも我々が頑張らねばなりませんな。…っと、ザンダルサムの加護のもとに。」

 バーナードも手を差し出し、これにて二つの組織の間に合意が結ばれた。

「こちらもいろいろと調べさせていただいておりましてね。定期部隊が来るはずでしょうな。となれば、早速迎撃態勢を取りましょう、奴らの度肝を抜いてやりますよ。」

「そこまで確認済みとは、侮りがたしバーナード・ガウダス。貴公らの実力を見せてもらおう。」


「敵機は大体西門を目指してやってくる。ここは崖に挟まれ道も細く攻めにくい場所ではあると同時に手薄である。そこに数機のマシンを配置しておいてほしい。どちらかというと固定砲台として遠距離武装を持つようなモノが望ましい。そこさえ固めれば陸は問題ない。」

 一通り教えられた敵侵入ルートをまとめアルバトロス内でも作戦概要が練られ伝えられる。アルバトロスはあまりにも目立ちすぎるので前半は後方待機、作戦が佳境に入れば逃げ帰る残存兵を殲滅、という流れが組まれた。

「ただ最近パターンを変えたらしく十字砲火の激しい広く開けた場所からわざわざ侵入を試みようとするのが増えたそうだ、かなりの広範囲を守らねばならない。そこでエドゥ、君のアテンブールで爆撃して敵の進行を食い止めておいてほしい。ついでに上空からヘリも来るだろうからそいつらも防いでくれ。かなり負担はかかるが存分に暴れてザンダの人間にアピールしてくれ、いい宣伝になる。以上だ、解散!」


「とりあえず積めるだけの爆弾は積んでおいた、大事に使うんじゃぞ。」

「すまんねおやっさん、頑張ってくるよ。」

「その意気じゃ。…時にエドゥ、ローバッハという名前はどうかのぉ。結構かっこよさげじゃとは思うんじゃが。」

「…考えておくよ。」

 アテンブールは思いっきり排ガスをブワッとはいて出撃、変形へと移り空高く飛んでゆく。

「さて、ニールス。奴をサポートしてやってくれ。ワシの見込みじゃとお前さんらはなかなか息があっとるように見えるからの。」

 ニールスは少し驚いた表情をビンセントに向けて、すました顔に戻す。

「…冗談は休み休み言ってください。別にボクには彼の事なんてどうでもいいですし。何より仲良くするいわれなんてありませんよ。…なんか癪に障りますし…。じゃあ行ってきます。」

 シューターもモーター駆動音をドルン…ドルン…とならしながらアルバトロスを離れる。

「素直じゃないねぇ…。」ビンセントのその言葉はいくら地獄耳なニールスにさえも届かなかった。


「来たな、クソったれ共。やっぱり大部隊をこっちの西側に回してきたか。アルバトロスの皆さん、準備はよろしいですね?」

「いつだったかまわん、このランチャーでぶち抜いてやるぜ。さぁ来な!」

 トレーグスが揃えて行軍してくるその姿はまるでゾンビ映画のように恐怖を感じさせるものであったがビビっていては仕方ない。レッドゾーンを超える前に何とか倒さねば命はない。

「いつもより数が多い。徹底的にやろうってのか。」

「火炎放射器を持っている奴がちらほら見える、村ごと燃やすつもりだったようだな。が、俺たちがいるとも知らずに運の悪い。構えろ!撃て!」

 バシュッと放たれるロケットが煙を吐きながら先頭集団めがけて飛んで行き爆発する。すると後方も誘爆し、黙々と爆炎が上がる。

 ザンダ自治区がこんな戦い方をすると予知していなかった統括軍勢は混乱する。

「な、なんだ今の攻撃は、どれほど残っている!?」

「爆発の仕方から考えて対ギルガマシン用ロケットランチャーかと思われます!」

「いつの間にそんなものを用意していた!クソ、小癪なぁ!」

 煙を払って前に進むがだんだんとマシンの足音が少なくなって行く。なんだ、と後ろを見るとマシン頭部がえぐれるように撃ち抜かれている様子が広がっていた。崖の上にも数機のマシンが配置されており俯瞰視点で狙い定められていた。

「あれはトレーグスにレスロッド…!?何故だ、何故こんな急にギルガマシンが揃えられているんだ!」

 その叫びむなしく西門進行部隊はほとんどが壊滅。残ったマシンが煙を利用して反撃をしてきたが相手は闇雲に射撃してくるために被害は少なく収まった。ひとまず主戦力は叩くことに成功し。残りの処理を施す。


「おーおー、案外こっちにもやってくるもんだ。結構ちゃん結構ちゃん、お仕事なければタダ飯ぐらいになるところだったぜ。いい感じに集まってきたな。覚悟しな、この俺を欺いてまで手に入れられるものは自分たちの破滅だってことを教えてやる!んなろッ!」

 アテンブールからいくつか爆弾を投下し、地上の敵を一掃する。

「な!?ア、アテンブールだと!?なんでこんなところに!みんな散れ、あれはエドゥアルドのアテンブールだ!上空からの攻撃を避けろ!固まっていてはやられてしまう!クソ、なんでなんだ!?」

「逃げられるとでも思っているのか馬鹿め、地上部隊!敵が散り散りになった、逃げる奴らを頼む。こっちはまだ残ってる爆弾を落として逃げ場をなくす!」

『『『了解』』』な掛け声とともに岩陰に潜んでいた彼らは一斉に飛び出し個々に始末していく。

 エドゥも地上へと降り立ち加勢する。その時無線に通信が入る。

『エドゥ、ニールスだ。ヘリが見えてきた。肉眼での確認だから確証はとれないがおそらく奴らの上空支援部隊だろう。まだミサイルなんかが残っているのならそいつらの相手を頼む。』

 思いもよらぬ相手からの通信にびっくりしたが「了解した。任せておいてくれ。」と返事してミサイル発射のための安全装置を解除する。

「かかってこいってんだ、こっちはまだ恨みつらみを全部果たせられてないんだ。全員まとめてド突き回してやる!」

 照準器の中にヘリ部隊を捕らえ、引き金を引く。シュバッと火を噴くミサイルがヘリをかすめ、そのショックで爆発を起こす。

 撃ち漏らしも少々あったせいかあまりいい命中率とは言い難い。だが、これでも相手にとっては大きなダメージになる。ざっとするべきことは終った、と一息つこうとしたところで、

『しまった!だれか、村の方にいくつかとりついたマシンがいる!誰か行ってくれ!』

 不穏な通信が入る。アテンブールでなければ空を行く敵は相手にしにくい。だがしかし、ほかのマシンでは鈍足である。そうでないマシンもいるが距離があるために間に合わない。考えている時間などないと、アテンブールはその場を離れ村の方へと向かう。

「申し訳ないがここを離れる。」一言添えて向かう。間に合わなくとも間に合わせなければ、と。

 激戦をくぐり何とか正門を越え村に侵入してきたマシンがあたりを見回し、マシンガンを構える。

「何を後生大事に守っているのかは知らねぇがこんなものブチ壊しゃそこらの瓦礫と変わらんよ!くたばれ!」銃口を向ける先は村のシンボルであろう寺院であった。

「長!ここから離れましょう、このままでは我々までもがやられてしまいます!」

「ならん!ルサムはこの地を守りし神。それを見放せばここにおる誰もを見放すに等しい行い!」

若い衆と長老がその下で退く退かぬを繰り広げていた。アテンブールはそれを守るような形で寺院の前をふさぐ。撃たれはしたがたかだかトレーグスのマシンガン程度に貫かれるほどヤワにできちゃいない。

「やつら、あの寺院を狙って…。ここならまだ仕留められる…、行けるか!?」

 アテンブールの腕部バルカンが火を噴く、相手のトレーグスの脚に当たりそのままバランスを崩し倒れる。

「大丈夫ですか長老?ここは俺が何とかいたします。あなた方は下がって!」

 ズストゥルのもとへ駆けつけるアテンブールの背後にミサイルが飛んでくる。これを察知し再びバルカンで着弾前に破壊する。

 その様子を見たザンダの青年が、

「…"ガル"だ…。あの姿はまさしくルサムを守りしガーディアン"ガル"だ…!」と叫ぶ。

 その言葉をズストゥルも聞き、同じように感嘆しながらつぶやく。

「"ガル"…確かに、アレは"ガル"じゃ!」

 アテンブールのどのマシンよりも人に近い姿、寺院を守るその姿が彼らにとっては神話の中に出てくるザンダの神"ルサム"を守る戦士"ガル"であるように思えた。


「とりついたやつも中でやられた。航空支援部隊も下がらせろ、アテンブール相手には分が悪い!」

「ダメだ!予想以上に被害が大きい!兵を下がらせろ!」

「アテンブールがいるなんて聞いてないぞ!どうなってるんだ!?おいどこへ逃げればいい!」

「知るか、テメェの判断で下がれ!」

 怒声飛び交うカオスな戦場はだんだんと元の静かさを取り戻していった。


 エドゥがアテンブールから降り先ほどの場所まで駆けつける。

「お怪我はありませんか?」

 長老は少しやけどを負っていたが特に大きな怪我はなかったようでスッと立ち上がりエドゥの手を握る。

「先ほどは助かった。ワシらにとってあの寺院はルーツそのもの、アレがこのザンダにとっての故郷なんじゃ。わしが代表して例を申すとともにこのザンダの地を、"ルサム"を守る戦士"ガル"の称号を受け取っていただきたい。」

 そこまで大げさな…。と思ってどうしようかと悩んでいたところ、後ろから「もらえばいいじゃないか、新しいアテンブールの名前としてさ。」と、声が聞こえた。

 そりゃいいや、と思い後方を向くとニールスしかいなかった。

 彼はまた口を開き、

「せっかくだからザンダのガルってことでザンダガルってのはどう?ボクとしてはなかなかイかしていると思うんだけれども。」と、口角をあげながら言う。

 まさかの人物にキョトンとしていると横からルトやバーナードもやってきて口々にありがたく受け取けとっておけ、と促してくる。エドゥもまた前に向きなおして言う。

「分かりました。エドゥアルド・タルコット、この称号に恥じぬよう精進いたします。」

 エドゥのマシンははアテンブールからザンダガルに改名し、これにより重巡洋陸艇アルバトロス所属ギルガマシン、コードネーム"ザンダガル"がここに誕生した。


「さぁ、これからだが。ザンダ自治区の人の協力を得て統括軍基地を叩く、一応こちらの拠点として使ってもよいという許しをいただいた。これで存分に戦える。だが我々の当面の目標はその先のダクシルースへと行くことだ。全力で戦ってもらいたいが誰一人欠けてはならない。頼むぞみんな!」

「「「おーッ!!」」」

 アルバトロス艦内に響き渡るようなその雄たけびが明日の結果を物語っているようであった。この短い間にいろいろなものがガラッと変わってしまった、エドゥの周りの人間関係や立ち位置のような小さなことから、それこそ組織全体を変える大きなことまで。戦いに暮れ停滞していた状況から一転、変わりつつあるこの地球上に新たな歴史の歯車が噛み合わさり、動き始める。

 明日はどんな変化を見せるのだろうか、沈み行く太陽までもがまるで別物のように見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る