溢れ返る無職の勇者——それは太平の世がもたらした大きな代償。

これは、平和な国で暮らす勇者(無職)と、その友人であるクレーマー気質の黒騎士(無職)、そして性別不詳のエルフの盗賊(無職)が、糊口を凌ぐためにあれやこれやと日雇いの仕事を渡りながら、己の生き様に思いを巡らせ、自らの存在意義を追求する物語である。

タイトルやあらすじからコメディかと思って読み始めたら、世界が平和になって一変してしまった社会体制の切実な問題点が綴られており、思わず唸ってしまった。
戦乱の世であれば活躍できたであろう主人公たちは、今や社会の厄介者。(いや……彼らの性格にも問題あるかな……?)
かつて勇猛さを誇った騎士団も、アイドル白騎士のショーや握手会の興行で収入を得る日々。
この辺りの世の仕組みが何ともリアルで、非常に読み応えがある。

硬質で整然とした勇者の一人称で語られる文章には、時おり素のツッコミが混じる。それが絶妙に笑いを誘う。
どの登場人物も個性豊かでめちゃくちゃ面白いんだけど、個人的には傍若無人な黒騎士ヴェイロンが好きです。空気読まなさすぎて勇者まじ不憫。

改めてタイトルを見ると、経済書か何かのようにも思えてくるから不思議。

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