これは「勇者」を語る物語だ。

 これは、ある勇者によって、一人称で語られる、魔が去り平和が訪れた世界の物語である。勇者の役割が終わりを告げた世界が如何に続いているのかが、登場人物達の生き方によって自然と描かれている。
 語り手である勇者の言葉は時々崩れ、笑いを誘う。登場人物達の軽妙なテンポの会話は、読んでいて飽きることがない。スラスラと読むことができる文章でありつつも、その背景の世界観はしっかりと、しかも説明臭くなく語られる。
 勇者たちが世界を救った後、彼らはどうなるのか――その答えの一つが、世界観的な説得力を以て語られている作品である。

 この作品は、魔と戦い、血風が舞い散る時代を経て、かつて戦場に在った人々が今をどう生きているのか――に焦点を当てている。そうすることによって、かつて戦いに明け暮れた存在がどういうものであったかが、あぶり出しのようにして浮き彫りにしようとしているのだと、私は思った。
 ファンタジーには「勇者」が世界を救うという定型とも言える展開があり、私もそういった物語はとても好みだが、この作品では「勇者」たちが世界を救った後が語られている。
 作中の「勇者」や「騎士」たちの現状は、とても世知辛いものだ。だが、かと言って世間に対して強い恨みや復讐心を抱いているわけでもない。悩みを抱えつつも、彼らは平和に至った世界を生きている。不要な存在とされ、かつての生き方を変えなくてはならなかったとしても。
 そんな世界で、「勇者」や「騎士」という存在がどういうものであるのかが登場人物の言葉や行動で明らかになっていく。「勇者」や「騎士」もその役目を終えた時代の話ではあるけれども、この作品は「勇者」や「騎士」を語ることを目的としているのではないか、と読み進めているうちに思った。

 それを強く感じたのは、『勇者なんてその程度でいい』を読んだときである。
 この世界で、ある種類の「勇者」となるためには「あるもの」を差し出さなければならない。「勇者」となるということはそういうことなのだ――と、人を救うという存在になるとはそういうことなのだと。それが語られる場面で、思わず引き込まれてしまった。私が考えていた「勇者」像と合致することもあり、大いに頷いた。
 語り手である勇者の言葉は、平和な時代を舞台にしているからこそ、強く印象に残った。「勇者」たちは現在の境遇について、思うところはそれぞれあるに違いない。読者によっても、彼らの現在をどう感じるかは異なるだろう。だが、主人公の勇者の口から語られる、現在に対する言葉は、まさしく「勇者」のものであったと私は感じた。
 「勇者」とはどういう存在であるかという答えの一つが、ここで語られたのだと思う。

 長々とまとまらないまま書いてしまったが、結論を言えば「勇者」という存在について思うところがある方々には、ぜひオススメできる作品であるということである。私もその一人である。人それぞれに「勇者」像は異なるに違いないけれども、自分の中の「勇者」を見つめ直す切欠をくれる作品であったと強く私は思う。
 今後の展開の中で、作者なりの「勇者」論が見られるのだとしたら、とても嬉しく思う。

 上手く言葉に出来ずもどかしいのですが、自分の中の「勇者」を改めて考える切欠をこの作品は与えてくれました。
 応援しています。次の話も楽しみにしています。