暗殺者としての選択を迫られたある男の決断。

 二極化が進む中世の時代、貧困層として身を窶す青年に貴族の少女が小さな慈悲を賜れた。当て所なく盗人や殺人者に身を落としながら日々を過ごしていた青年にとある暗殺者が彼を見込んで技を教え込む。その師に恩義を感じつつも迎えた暗殺者としての岐路に彼は決断を迫られる。暗殺者の末路は大抵薄暗いものとなりますが、本作の主人公が向かえる結末は仄明るく、読後の鬱屈としたものを感じさせません。青年と少女が闇の中でお互いに見出した一筋の光明。それがやがて歴史を変えて行く。それぞれの立ち位置から鑑みられる感情の機微が上手に表現され、それぞれの苦悩と共に生きている人間を短い文章の中できっちりと匂わせてくれる良作だと感じました。

 「パンが世界を変える。」←重厚な世界観を台無しにしてしまうフレーズはさすがにタイトルに持って来れませんでしたので、文末にそっと差し込ませて頂きました。




 

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