風ひそひそ柿の葉落としゆく月夜
風ひそひそ柿の葉落としゆく月夜
――
*
囁き声で、僕らは話し合う。
「ねえ、次はどこへ行こうか」
「北がいいかな、南がいいかな」
「もう秋も終わる。暖かい南へ行こう」
誰かの提案で、行先はそう決まった。僕らは北風になる。
僕らは散り散りになったり、また寄せ集まったりを繰り返して、旅を続ける。世界中を旅している。
「この辺りは人が多くていいね」
「そうかしら。私は誰もいないひろーい海原が大好きだけど」
「僕は山越えだなあ。ぽかぽかして気持ちいいもの」
僕らはおしゃべりだ。気の向くままに喋って、気の向くままに行先を決める。
「私たちはあっちへ行ってみるよ」
「そ、じゃあまたね」
僕らは僕らで一つの存在で、無限の存在だ。僕らの中に僕はいない。
「風が気持ちいいね」
「ひどい自画自賛だ。でも同意」
「この街を越えたら、一休みする?」
「雲を吹き飛ばさなきゃ。明日運動会だって」
「そんなの知らないよ。僕らは好きなようにするさ」
そうして僕らはまた別れを繰り返す。出会いを繰り返す。
「や、ご一緒していいかい」
「もちろん。断ってもついて来るでしょ」
「もう夜だし、海の方へ行かない?」
「俺はパスー、たまには上の方に行ってみるよ」
僕らはてんで勝手な集団だ。僕らは好き勝手に旅をする。けれど、僕らは全体として一つの生き物で、同じ方向を向いている。
僕らは世界を巡り回る。決まった道を通っているし、通っていない。考えなしにしては、上手くやっている。
「おや、お月様が真ん丸だ」
「お月様の魅力に引っ張られたりする?」
「それは僕らの友人の話だろう」
「そうかな」
「たまにはいいかもね」
他愛のないひそひそ話。誰かが口笛を吹いた。
「柿の葉だ。どっかで引っかけたかな」
「折角だ、持っていこう」
「そうだ聞いてよ、今日はすごくいいものを見れたんだ」
僕らはうわさ好きだ。特に恋の話。
「どんなどんな?」
「相合傘だって」
「雲を運んだ甲斐があったよ」
気ままな僕らは気ままに仕事をする。これは遊びだ。
「この辺の葉っぱはあらかた散らかしたかな」
「あの
「自分はここ、初めてなんだよなあ」
「あ、ということはもしかして、まだ桜を散らしたことがないのかい?」
「桜、いいよねえ。桜吹雪を作るのが一番好き」
春は遠い。僕らにとってはすぐそこだけれど。
「よしよし。春になったら桜を散らそう。夏になったら入道雲を作ろう。きっと面白いことになるに違いない」
僕らはうわさ好きで悪戯好きだ。今日もどこかで風が吹く。
僕らは眠りを知らず、どこかで起きた物語を肴に、世界を駆けていく。
どこまでもどこまでも。終わることのない物語。
自由律短編集 鹿江路傍 @kanoe_robo
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