息がつまりそうに混み合って、しかし読むことで呼吸がすうっと通る文章

おしゃれ刺繍の見本帳みたいな一筆断片集(←造語)『宇宙で死んだら腐らないね、私たち。』を少し読み、「これを散りばめたら小説になりそう」と思ったら次に選んだ『フラスコで飼う星の話。』がそうだった。

おしゃれ刺繍は突飛でなく、生地になじんでいる。強い不安や壊れそうな自問が語られても、小説世界は揺るがない感じ。適度に細密さの抜けた水彩画のように、主人公の姿が足元から描き上げられていく。「お話書く人のお話」という円環を楽しみ、主人公の呼吸に同期する読後感。読書するとき頭は他人の思想の運動場にすぎないそうだけど、本作を読む私の頭の運動場はフルオープンでありました。

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