フラスコで飼う星の話。

作者 五水井ラグ

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★★★ Excellent!!!

 教育実習を終えて、教員採用試験に落ちた女性主人公は、隣のカフェへ通っていた。そのカフェに、美しいけれど毒舌な絵描きが引っ越してくる。カフェなのに、いつも絵を描くその人物のせいで、コーヒーの香りに絵の具の香りが混ざっていた。
 同じゼミの皆が教員試験を通ったことで、主人公は一人で悩んでいた。文章を書くことについて。就職活動をしなければならないことについて。ゼミの先生は気にかけてくれるが、他の人から取り残された感覚はなくならない。卒業論文だって、言い訳をしたまま、書こうとしていなかった。
 
 無意味さに意味を足していくだけの文章。
 乾かすために描かれる絵。
 幻想的な雰囲気の中で、コーヒーと絵の具の匂いが交じり合う。

 美しい作品でした。
 是非、御一読下さい。

★★★ Excellent!!!

創作はどうしてこんなにも美しいのでしょうか。
創作は、なぜにこれほどまで、苦しいものなのでしょうか。

書かなくてもふつうに暮らしていけることに気がついてしまったら、ひどく辛い。書かずには息もできないのに、書けないことに気がついてしまったら、とても苦しい。

どちらも比べ難いほどに悲しい。
けれど、その悲しみから産まれる創作物はきっと、美しい。

この小説の文章が、世界観が、ひどくひどく美しいものであるように。

★★★ Excellent!!!

おしゃれ刺繍の見本帳みたいな一筆断片集(←造語)『宇宙で死んだら腐らないね、私たち。』を少し読み、「これを散りばめたら小説になりそう」と思ったら次に選んだ『フラスコで飼う星の話。』がそうだった。

おしゃれ刺繍は突飛でなく、生地になじんでいる。強い不安や壊れそうな自問が語られても、小説世界は揺るがない感じ。適度に細密さの抜けた水彩画のように、主人公の姿が足元から描き上げられていく。「お話書く人のお話」という円環を楽しみ、主人公の呼吸に同期する読後感。読書するとき頭は他人の思想の運動場にすぎないそうだけど、本作を読む私の頭の運動場はフルオープンでありました。