「スライムを召喚する」ことと「クッキーを焼く」ことは似ている。
スライムを召喚することで、スライムを召喚する間隔は短縮され、「主人公がスライムを召喚する間隔の短縮」により、展開が加速する。
加速する中で繰り返されるのは、スライムしか引けない地獄だ。
確率が収束するには、人生は短い。試行回数もまた絶対ではない。
情熱で確率は越えられないし、奇跡は起きない。繰り返すほどに心は毒に侵され、硬化する。
そんなスライムを召喚し続けることで摩耗する精神を支え、一片の人間性を残し、主人公を最後まで人たらしめた愛、それが、再読の度にその重みを増す良書。
ガチャを回しても回しても、出るのはハズレばかり。
回転率が足りない!とか、物欲センサーが!とか、運営の確率操作だ!とか、色々言われますが、結局ガチャは楽しいので課金してでも回す人も多いのではないでしょうか。
この物語の主人公もそんな人間ですが、本当に何回召喚をしても出るのはスライムばかり。
さらに、そのスライムを利用したり合成したりしながら、何度も召喚を繰り返します。
それでもやはり現れるのはスライムだけ。
運が極端に悪い人。
なのですが……ただそれだけの設定で、こんなにも壮大な物語ができるなんて思いませんでした。
軽快なテンポと読みやすい文体に引き込まれたが最後。
切れ味の鋭いオチまで一気読みしてしまうこと間違いなしの傑作です。