あらすじはSFらしいタイムスリップものです。無駄の少ない読みやすい文章で、背景を描いているのでSFが苦手な方でも気軽に読めると思います。
台詞まわしからも状況をわかり易く、且つ自然に表現しているし、余計な情報を限りなく入れないようにしている構成に美しさを感じます。
したがって、物語のテーマも明確に伝える事が可能になり非常に高い完成度となっていると思いました。
大人が子供にするべき事をはっきりと訴えた作品のように感じました。もう存在しない人達、またはこれから生まれてくる命。そんな全ての事象へ宛てた短編集でした。
簡単な言葉で感想言いますと。
重厚な物語をこんな短い文章で書き上げる作者様に脱帽でございます。
太平洋戦争。イジメ。家族愛。生きることとは。
1万字に満たない短編で重厚なテーマがいくつも積み重なり、けれどもとても自然に語られます。
大人にも下は小学生の皆さんにも読んでほしい作品です。学校関係者の皆さん、うってつけの副教材ですよ。
短編ですので、読む時間は10〜15分程度でしょう。
しかし、読後、その数倍の時間、いいえ、いつまでもこの御作品のこと、作者さまの想いに考えを馳せることになるでしょう。
戦争のことを振り返る機会の多い夏、ぜひお目通しになって、このテーマについて考えてみてください。
これだけのテーマを盛り込んでいても無理矢理感は全くなく、しかもラストにはほろりと感動までさせてくれる作者さまのストーリー構成、すんなり入り込める筆力には感嘆の溜息です。
作者さまの他の作品とのギャップにも驚きです。
これも多彩なつばきワールドを形成している作品。
素晴らしいです。
ぜひひとりでも多くの人に読んでもらえますように。
高尾ワールドは猟奇シリーズのつばめ嬢の世界しか経験していなかったので、この作品を読んで逆に驚きました。
シットリとして落ち着いたタイムリープ物語です。勝手な妄想ですが、作者の極めて初期の純真な気持ちを持った時期の作品ではないかと思いました。別に、今の作者が汚れていると言うつもりは毛頭有りませんが、猟奇シリーズを読むと何か強烈な出来事を体験されたのだろうと、そう思うわけです。
閲覧者の方には、是非、両作品を読み比べて頂きたい。とても同一人物の手になるものとは思えませんから。本当に奥深く多面性を持った人物です。
星の数は、短編にはMAX2つが信条だからです。
人生に絶望した少年が過去へ飛び、戦時中の日本兵と交流して命の大切さを学ぶ…。
筋書きだけを見たら、よくあるタイムスリップものかーと思われがちですが、後編の終盤に、さらなる追加エピソードがあって驚きました。
(以下、内容の詳細に触れています。未読の方はご注意下さい)
未来からの恩恵で過去が成り立つ世界観。
少年が過去へ飛んだことで未来に影響を与えるのですが、そもそも少年が過去へ飛べたのは、その未来からの技術だったという…。
まるで卵が先か鶏が先か、というタイムパラドクスに陥りそうですが(笑)、主題はそこではなく、連綿と受け継がれる、少年の意思と志。
日本兵の思い、少年の思い、それを確かに継承した、未来の科学者。
代々、草笛が得意という共通点が、その「継承する意思」を端的に比喩しており、うっすらと涙を浮かべてしまいました。