桜子さんの狂気の愛は、凶器となる

桜子さんの愛は、とっても深い。そして、とっても狂っている。彼女の愛情表現が「恋人の殺害を試みる」ということなのだから、ヤバイ。

おはようからおやすみまでどころか、寝ている最中だって油断できないだろう。殺害レシピにあった「腹上死」はちょっと興味あるけれど……。

間違いなく、古武術を極めたこの主人公ではないと桜子さんとはまともに付き合えないだろう。私なら、恋人になって一分以内に殺害される自信がある。

しかし、ここまで書くと、「単なるヤンデレもの」だと勘違いされてしまうかも知れないが、この『桜子さんの殺人レシピ』という作品には他のヤンデレものとはちょっと違う味付けがあるのだ。

その味付けというのが、桜子さんがヤンデレと化したその背景がきちんと説明されていることである。
ヤンデレものの作品では、「いかにヒロインを怖ろしくみせるか」というこだわりはあっても、そのヒロインの人物背景が描かれないことが多い。
ヤンデレという記号化されたヒロインが主人公を追いつめていくだけでは、何というかヒロインに人間的な生々しさが感じられなくて味気ないのだ。

だが、『桜子さんの殺害レシピ』ではヒロインが心の闇に堕ちた過程が説明されているおかげで、桜子さんはちゃんと血の通った人間なのだと感じることができ、そんな彼女が狂気にとらわれていることに読者は恐怖を抱いたり、同情したり、感情移入できるのである。

そして、私が一番いいなと思ったのは、主人公が桜子さんの心の闇とちゃんと向き合い、ラストでは救いがあることだ。
ヤンデレものなのに後味の爽やかな読後感があり、最後にはとてもポジティブな気持ちにさせてもらえた。
「ヤンデレとか恐いヒロインは苦手だ」という人にもおすすめできる、ちょっと一味違うヤンデレ小説の良作となっているので、興味を持った方は迷わず読んでみてください。

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