願わくば、お前の表現が読みたい、と言わせたい

 久々に物語の世界に戻ってきた私だが、少しばかり感想を述べたいと思う。
 物語るための方法について、プロ・アマチュア問わずに様々な方が語っている。かく言う私もかつては自分の信じる創作論について語ったものである。
 本書において特徴的なのは面白い小説を書くことを主眼にしていない点だ。もし、面白い小説を書くことを指向していたら、その時点で読むのをやめて無関心となっていただろう。
 うまい小説を書くには、を念頭に問いと回答・解説を繰り返す本書。ものを書いたことがある人なら(無意識であっても)必ず立ち止まった問いかけが並んでいる。一般的な問いかけである性質上、解説された技巧の解説に物足りなさを感じてしまうことがあったが、基礎を思い返すという点においては十分だった。
 面白い小説を書く作家には、作品にファンがつく。ウマイ小説を書く作家には、作家にファンがつく。久々にストーリーテリングに戻ってきた身としては、お前の文章が読みたい、お前の表現が読みたい、と言わしめたいものだ。
 著者に対してもだが、本書を読んでうまく書く技術に興味があるならば、ある書籍を勧めたい。デイビット・ロッジの「小説の技巧」である。海外の小説の一説を取り上げ用いられている技を解説している。

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