第5話

その少女が次に目覚めたのは昼頃。昨日は深夜近くに意識を失ったので半日ほど寝ていた計算になる。


キョロキョロと顔を振り、状況を確認し、窓の外を見て固まる。なにやらこの世の絶望を見たかのようなその表情はもともとの素材の良さが幸いして何かしらの美術品のようになっている。そんな少女に語りかける。寝起きドッキリ敢行だ。


「気分はどう?」


少女の上からにゅっと話しかける。具体的には彼女の視界の上から逆さまに自分の顔を出すように。すると少女はポカーンと僕を見て、一拍遅れてぎょっと目を剥き次の瞬間にはすうっと息を吸う。


「きゃあああああああああああああああああ!!!!」


幼女の悲鳴怖い。何が怖いって周波数。ベッド代わりのものから抜け出すとそれでも寝起きからかふらふらふわふわと不安定なので壁にある取っ手を薦めるとこここは素直につかんで、ぜえぜえと乱暴に息を吸う。


意識することといえば爽やかな笑顔。すれば警戒も解けるはず。


「起きがけから刺激的な叫び声ありがとう」

「なんでまたあなたなのよ!」


指を指しながらキンキンと騒ぐ少女。逆効果だったようだ。


「やっぱり日本語喋れるんだ。それもずいぶんと庶民的な言葉遣いだね」

「あっ……………」

「まあ靴が日本製でだいぶ履きなれていたっていうのでわかってたけどね。あのメーカー。走りやすいよね。僕も小さい頃は履いていたよ」

「……………!目的は何?何がしたいの!?」

「いや、目的はもう達成したからとりあえず寝かせておこうと思って自室のベッドに」


すると少女ははあ?とこちらを馬鹿にしたような表情と訝しげな表情を綯交ぜにした顔で叫ぶ。


「ベッドってあんたあれ、寝袋じゃない!」

「宇宙空間だもの。ベッドじゃあ浮かぶ」

「そもそも!なんで!宇宙なのよ!?」

「どうだ?驚いたろう?」


勘のいい人はわかっていたであろう。そうここは宇宙空間である。窓の外には青い地球。輝く太陽。無数の星屑。1等地である。窓が割れてしまうことはないのか?デブリが降ってくることは?この家をそんじょそこらの家と一緒にしてもらっちゃあ困る。設計は『やりすぎマッド』の呼び声高い所長。建設が僕だ。やばい機能はてんこ盛り。


「一応まともな理由を並べておくと最近は都心部に人口が集まり、地方では機械による大規模農業が普通となっているのでとにかく場所がない。どこもかしこも土地代が高騰中だ。なので逆転の発想。地方でも都心にすぐ行けるようにすれば良いと魔女狩りで移動に優れている魔法を使うやつを探していたら転移系の魔女に出会ったじゃないか。これはもう宇宙に行くしかないと思いたてたってわけさ」

「意味わかんない!」

「だって僕は学生のクセして魔術師なんて呼ばれてる曲者だぜ?突飛じゃないわけない」

「理由になってない!」


本当の理由としては二年前くらいに実験資料が根こそぎ奪われたからだ。その頃は賞をとって目立っていた頃だったから仕方がなかった。だからこの科学サイドにはヨダレ物であり、魔術サイドにとっては大した価値のないこの資料を魔術によって守ることにした。科学サイドには手を出せない宇宙空間に魔術によって行くこととなった。


「そういえば昨日は金曜だったけどお前学校は?土曜日に部活なりなんなりは?」

「ないわよ。そんな仲間意識を作り上げるところに入るもんですか」

「そういえば見たよ。お前のその魔法の由来」

「……………!!」


こちらを見る視線がいっとうきつくなる。


「その可愛い容姿を妬まれていじめられていたお前は自分への認識を無くすために、というか無くしたいからそんな魔法が出てきたんだろ?」

「……………」

「逃げたんだろ?。立ち向かうことを諦めて。迎撃では無く逃避を」

「……………」

「本来なら無機物すべてを盲点とすることにより道行く人がすべて裸になるなんてメガネ開発されないはずだったんだ。そんな魔法あわけないってね」

「ちょっと待って私の魔法どんなことに使ってんのよ!?」

「エロい目的のため」

「ーーーーーーー!」


またあの呪文が唱えられた。姿を消して殴ろうとでもするのだろうか。しかし、ここでは魔法は無理だ。理論上使えない。


「魔法は使えないよ」

「なんで、奪われたの?私は魔法をもう使えないの!?」


少女は自分の両の手を交互に見て吐き出すように叫ぶ。今度はそういう魔法陣も作ってみようか。


「あー。そうだな。ヒントを出すならんだよ」

「は?なにが?」

「教えない。さ、そろそろ地上に戻ろう。所長も痛い目みてるだろうし」

「あんた、意地悪ね」

「一部では道化師だなんて呼ばれてるよ。それと、さっきは茶化したけど自分の魔法の原因とちゃんと向き合えよ?」


ぷいっと外に顔を向ける少女の手をつかみ、ドアを開けて外に出る。するとそこはもといた研究所だった。

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