第6話

研究所に戻ると所長が燃え尽きていた。それはもう真っ白に。精魂尽き果てたかのように。よく見れば左腕に包帯を巻いている。右足にもだ。その手にはメガネが握られており、少し煙を上げている。


「……………やっぱり」

「なんであの人あんなにぼろぼろなわけ……………?」

「さっき無機物を認識しない、つまり透明にとなるように魔法陣を組み込んで透視眼鏡を作ったって言ってたろ?」

「え、ええ」


だいぶ屁理屈に近いが本当にこれだけしか設定していない。これで機能を発揮するのだから魔法というのは本当に不思議だ。本来なら無機物をまとっている人の認識ごと消えそうなものだが、どうなんだろうか。


「そこで一つ問題が。現代社会には無機物であり高速で動くものがあるだろ?」

「あっ……………」


要は車をよけれない。他にも無機物すべてなので電柱にぶつかったりとか道の段差につまづいたりするわけで、助けに来た救急車にもやられた可能性がある。


真っ白な所長の腕からメガネを奪い取ると、レンズのフレーム部分に刻んだ魔法陣が焼ききれている。屁理屈に無理がありすぎて負荷になったのだろう。


「……………要改良、か……………」

「失敗したの?ざまあないわね」

「てめえを実験台にするぞ糞ガキ」

「私あなたより歳上なんだけど!?」

「「なん……………だと……………?」」


あ、所長も食いついた。しかし、身長が130の大学生とは。人間の神秘とはここまで来ているのか。ん?まてよ?合法ロリじゃんやったね!


「さっき部活がどうこうって言ってたのは?」

「小中高と全部帰宅部ですが。むしろ高校にいたっては不登校ですが?」

「俺でもそんな青春過ごしてねえぞ!?」

「外国人でこれって一体どういうことなんだよ……………!世の中美形だったらイージーモードじゃねえのかよ……………!」

「あんた達私の魔術の根源見たんでしょ?」

「「あっ……………」」


すっかり忘れていた。可愛すぎて欲望の目と嫉妬の目しか向けられなかった少女がまともな学校生活を送れるわけがない。少し話題を変えるように切り出す。


「それで、お前これからどうする?まあただでは返さないけど一応選択権はあるよ。だいたい今思いつく限りでは三つくらいかな」

「意外と優しいわね」


失礼な。意外とではない。この体から滲み出る優しさを感じ取れないとは貴様こそ非道な人間ではないのか?


「まず一つ目が記憶をすべて抹消してそのまま外に放り出す」

「おかしい。扱いが圧倒的におかしいわ。人権というものがないのかしら」

「いきなり夜中襲ってきて左腕、右足。メチャクチャ刺しておいて言う?そのセリフ。お前今絶賛犯罪者だからね。街でも話題になってるよ。謎の血痕。」

「……………」

「黙るなよ」


まあしないということなら良かった。勝手に過去を覗いた挙句記憶を消してはいさよならなんて事になると良心も痛むし費用もかさむし。あれだ。win-winの関係ってやつだ。記憶を消すなんて楽だが如何せん特殊な薬品が高い。人権とかの問題については一つ、こいつ自分が殺人未遂だってことを知らないのだろうか。


「二つ目。警察に突き出す」

「冷や飯は嫌いよ」


まあこれも妥当な判断だろう。なんといったって殺人未遂。確実に何年かは留置所の中で寂しく暮らすこととなるだろう。となるとあとは一つだけだ。


「じゃあ三つ目だね。ここで働く。」

「チェエエエエエエエエンジッッ!!」

「はい、じゃあ決定。」

「ちょっと待って!?待ってよ!?」

「住み込みになるから着替えも必要ですね。でもスリーサイズは既に把握してますから白衣とか衣服はこっちで用意しておきますよ?」

「ツッコませて!?いろいろおかしいから!?」

「下着についてはブラジャーはいらないですよね。パンツは……………動物柄が好きみたいだから今度買ってきます」

「ぎゃあああああああああああ!!!」


いい加減真っ白な状態から色を取り戻した所長が伸びをしながらいう。


「あいつ、人をいじる時に一番輝くんだよなあ……………。おーこわ」

「聞こえてますよ所長。否定はしないですけど。さ、とりあえず昼ごはんにしましょう」

「人の話を聞けー!」

「ああ、名前を考えなくてはですね。魔術師にとってのはまずいだろうし」

「チビでいいだろ」

「アンタ外出なさいよ。ぶっ殺してやる」

「俺はお前の上司だぞ?逆らおうって言うのか?」

「ぐぬぬ……………!」


拳を握ってぴょんぴょんはねて憤っているが正直怖いどころか可愛い。よっこらせと立ち上がった所長が一言。


「おいチビ。どうせ腹減ってるんだろ?魔術師特製のカルボナーラはすげーうまいんだぞ」

「はあ……………。じゃあ私もそれ一つ」

「適応早いですよ。どういうことですか。」


しょうがないのでキッチンに向かう。そんな時に、背中側から声が聞こえた。


「あたしにも『カガク』。教えなさいよ」

「仰せのままに」


ふと名前が浮かんだ。アリス。ベタでいいじゃないか。

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