第7話

カルボナーラの作り方なんて知らないが、やることとしては簡単だ。パスタを茹で、その間に牛乳、チーズ、卵黄をまぜあわせる。卵白は余ったらおやつのメレンゲにでもする。そしてフライパンでパスタと作ったソースを混ぜ合わせて胡椒ぶちまけて終わり。これが意外と旨いようで所長は昼飯となるとこれを要求する。


基本的に大皿にドンとのっければ所長が好きなだけ取り、自分は残ったのを取るという争いのない平和な食卓だったのだけれど、今回は少し違う。猛威を振るうやつがいた。


はじめにどんと大皿を置けばさすがの瞬発力で所長がフォークでパスタの大部分をぐるぐると巻き自分のさらに確保しようとする。しかし、自分の皿にドンと置こうとした時には既にフォークを持っていなかった。


アリスさんだ。


「チビてめえ……………!」


がるると唸る所長をふっとあざ笑いながらいい顔でアリスさんは告げる。


「ダメじゃない、フォークをちゃんと持たなきゃ食べれないわよ?」

「いつもより3倍は騒がしいですね……………」

「ええい、ぼっち風情が!俺の昼食を奪えると思うなよ!?」

「ぼっちじゃないわよ!?ただ孤高の道を進んだだけよ!」

「それをぼっちっていうんだよアホ!」

「違いもわからないのかしらこれだから馬鹿は!」

「あ、そうだ。あなたの名前はアリスです」

「「すごいいきなり!?」」

「いや、名前と言っても一生背負う偽名じゃありませんしテキトーに決めればいいんですよ」


まあ、これから死ぬほど働いてもらうのでその偽名が一生の名となるのと同義なような気もするが気のせいとしておこう。


結局大部分は所長の手に収まり、3割ほどをアリスがとるという形になった。勝ち誇る所長と隙あらば奪おうとするアリスさん。意地汚いので自分の皿にある分で我慢してください。しかしここで僕自身の分がないことに気づき、棚からカップラーメンを取り出す。


「ああ、そうそう。アリスさん。あなたはとりあえず二日間ほどここから出ないでください。とりあえず魔法を使おうとしたっていう前科があるんで。で、ここでいろいろ学んでもらいます」

「えー?何、ほんとにこのチビここに置くの?」


所長が怪訝な顔でアリスさんを睨みつける。その顔はクリームでベタベタに汚れていてアリスさんが引きつった顔を所長に向ける。


「魔法もらっておいて無下にはできませんよ。それに見てみたいですし。科学を学んだ魔法使いを」

「お前の行動原理ってほんとにそれだけだな」


お湯が湧いたので注いで3分待つ。この時間は結構好きだ。夢がある。ちなみに自分は少し早めに蓋を開ける。なぜって猫舌だから食べれる温度になる頃にちょうどいい固さとなるのだ。


「当分の研究としては透視眼鏡の改良とあと国から頼まれたですね。透視眼鏡の方はこの魔法ではダメだとわかったのでもう一度魔女狩りしなければですね」

「魔法の方に無理あったのかー。使えねーチビだな」

「殺すわよ?」


2分半となったのでカップラーメンの蓋を開ける。しかし、醤油味では少し物足りないのでアレンジとして牛乳を入れるべく席を立つ。低脂肪牛乳は許さん。


冷蔵庫から戻り、机に戻ると空になったカップラーメンの器が待ってくれていた。あれー?


「どっちですか?」

「「こいつです」」

「正直に言ってください。でなければ今からあなた達を被検体としてではなく実験体として扱って実験します」

「「ごめんなさい」」

「はあ……………」


しょうがないのでおやつの戸棚からグミを取り出し3個ほど口に放る。


「じゃあ所長はアレの方始めてください。アリスさんはこちらへ。白衣を着て魔法陣講座でもやりましょうか」

「あれ?カガクの方じゃなくていいの?」

「魔法陣なんて僕しか使えませんからね。僕がいない時に作業が進められるようにですよ。この週末2日間で覚えてください」


そう締めくくるとアリスさんはゴクリと生唾を飲み込む。そんなアリスさんに所長が白衣を探しながら軽い調子で言う。


「おいチビ。覚悟しておけよ?昔俺も教わったけど理解出来なかったからな。理解の一歩横を話されてるというか、よくわからないうちによくわからない理論が出来上がるんだ。それも、よくわからないことに実に合理的な流れでな」


プレッシャーでもかけようとしているのだろうか。


だいたいあんなのが科学を研ぎ究めようとしている人らに理解できる訳ないじゃないか。

自分だってという確定してることを積み重ねたら理論が出来上がるのだから。あの理論を組み上げるには日本の価値観が固すぎる。


「僕も詳しくはないのでざっとですけどね」

「ざっとって言ってレポート100枚超える資料書くんだぜこいつ。信じるなよ。いいな?」

「うわあ……………」

「そんな顔されると傷つきます」


自分も席を立ち異空間接続装置の中からその資料を出してアリスさんに放る。そろそろこの装置の別の名前考えて方がいいかもしれない。四次元ポケットでいいか。


「それを今日中に覚えて明日までに自分独自のレポートを書いてきてください」

「いやいやいやいや」

「提出するまでご飯は無しです。枚数は別に指定しないですが僕が提唱していない新たな視点から見た意見が欲しいですね」

「いやいやいやいやいやいや」

「じゃあ、よろしくお願いしますアリスさん」


ニッコリと笑って無理難題を突きつけるのは、堪らない。

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