第2話

転移時特有の内蔵がすべてひっくり返るかのような感覚を感じて、3秒ほど待つ。すると安っぽいチーンというベルの音。目を開けるといつとの風景が戻ってくる。


足の踏み場のないほどの床。天井近くまでものが積み上げられたデスク、一度出したら2度と収めることが出来ないであろう奇跡の収納を見せている棚。ゴウンゴウンと謎の響きをいつも出している所長お手製の実験箱。異質な雰囲気を醸し出す冷蔵庫のようなもの。これでも表に出ているのは全体の一割にも満たず、ほかは全て四次元という名の異空間に放り込まれている。


間違いようのないくらいに自分達の研究室である。


「しょちょーう。持って帰ってきましたー」

「持って帰ってきたって言い方変だろ誘拐犯」

「あんたが指示したことだろーが」

「まあそこらに寝かせておけよ」

「寝かすも何も足の置き場もないんですけど。片付けろと何回言えば片付きますか」

「なんとかしろよ『魔術師』」


魔術師。僕の二つ名であり、僕がこのようなところに放り込まれている原因でもある。何でも、君の発想から創り出されるものはすべてが異次元めいていて、現代の科学で証明できないものまである。そう、まるで魔法のようだ。とのこと。


そんなこんなで僕は魔術師と呼ばれ、誰にも解明できない三つの発明品、三種の魔神器と呼ばれるくらいの発明品を持っている。異空間接続装置(四次元ポケット)なとがそれだ。


「異空間接続装置にいれてくださいよ。わざわざめんどくさがり屋のためにリストアップ機能まで付けてるんですから」


全ての物に電子タグを付け、中に入れたものをリスト上に並べる。ホログラム式のタッチパネルを操作し、入口に手を突っ込めばすぐにそのものが出てくる。異空間接続の時に大きさを無視するように細工したので入口より大きくとも収納できるのは強みだ。この仕組みを考えたのは所長であるというのに全く活用する気はないらしい。ちなみに機能のスイッチをオフにすると冷蔵庫となり、キンキンに冷えたビールが出てくる。


少女を荷物が乗っていない椅子に乗せる。


「派手にやられたなあ」


そう笑ってくる所長を横目で見て、自分は患部周りの布を割いてそこらの机に置かれたスプレーを吹きかける。応急処置終わり。


「やだよめんどくさい。この配置がいいんだよ。わからないかなー。ぐちゃぐちゃに見えて整頓されてあるという美が」

「わかりたくないんですけどねー。ア、ソウイエバソロソロ透視眼鏡ノオ披露目カナー被験者ヲ見ツケナイトナー」

「俺が立候補しよう。いくら魔術師作とはいえ試作品。危険だろう?俺が試してやるよ」

「じゃあさっさと鼻血を吹いてこの部屋を片付けろ」

「イエッサー」


所長は、体勢を低くし素早い動作で部屋中を駆け回り、目に入るものすべてを冷蔵庫のような異空間接続装置に投げ込んでいく。まるでゴキブリだ。誇りも尊厳も欠片の一つも見えない。


三分したら綺麗な研究室となった。ヤッタネ。


「さあ早く透視メガネを出せ」

「まだ出来てないですよ。この子に聞くんです」


僕が魔術師と呼ばれる所以はもうひとつある。まあ知っているのはここの研究所のメンバーだけだが。


僕の科学は、科学ではないのだ。


「自分の開発物に未知の技術を使うなんざ科学者の名折れだろ」

「使えるものは使うのが一番ですよ。だいたいこの子犯罪者ですよ?日本で一級魔法をを行使。重罪です。日本がこのこの祖国を攻撃する理由付けにもなります。所長もわかってるでしょう?」

「……………まあ好きにしろ。俺は透視眼鏡さえありゃあ見なかったことにするからよ」

「クズなのか優しいのかわからないですね。とりあえず鼻血をふいてどうぞ」


ワタワタしている所長を尻目に椅子に女の子を座らせる。そして何回かゆすってみる。するとパチッと目を開け、キョロキョロと部屋を見回し、すうっと空気を吸う。うまくない。というかまずい。


「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


いまさらだがこの研究所の説明をしよう。

変人の巣窟。第四国立科学研究所。通称デスラボ。国家最先端の技術力と日本一の開発者が押し込められる体のいい牢獄。ここのメンバーが本気を出せば日本が沈没するなんて噂もたっている。


本当のところその噂は間違いだ。この日本なんて僕の発明品一つで沈むし、この研究所が本気を出せば、明日には戦争が終わるのだ。という形で。


もう一つ、ここは変人の巣窟なので国から直々にマークされている。つまりこの研究所から幼女の悲鳴が聞こえたら、警察が飛んでくるのだ。


「びゃああああああああああああああああああああ!!!」


泣きも混じってきた。これはまずい。


「所長!後でちゃんと引き上げてくださいね!」

「ああ、もうこの手口何度目だよ!さっさとこの研究所に防音つけろ!」

「今度考えときます!」


外からドタドタと足音が聞こえる。時間が無い。椅子に座らせた彼女を抱き、冷蔵庫へと飛び込む。胃がひっくり返る感覚。そして、何も見えなくなった。

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