第9話

「よお魔術師殿、チャーハンの余りはあるかい?小腹が空いて適わん」


中華鍋をガンガン振り回していたらカウンターから声がかかった。馬鹿野郎、チャーハンは火加減が大事なんだよ(適当)。話しかけんじゃねえ。級友である。たしか呼び名は『奇術師』。


「お客様、100円となっております」

「学食に喧嘩売れる値段だな」

「友情の値段と言え」


軽口を叩きながら最後の仕上げに入る。まあ胡椒をふりかけるだけなのだが。胡椒はいい。とりあえずこれかけておけば安心感が出るから好きだ。


「そこの女の子は?」

「魔女だってさ」

「魔法少女じゃなくて?」

「俺らより年上。ほら出来たぞ」

「え?年上?」

「気にしたら負けだよ。ほれ、そこの魔女の前に置いてくれ」


ぱっと作った3人前のうち2つを待たせて厨房から出る。後片付けをしておけばあとは自分で綺麗にしてくれるから最近の厨房というのは便利なものだと思う。ただ包丁は研いで欲しい。切れ味が落ちてきている。


アリスさんの隣に腰をかけ、世間話でも始める。


「しかしこんな朝に何やってたんだ?」

「朝まで開発」

「ほう。何を?」

「透視眼鏡」

「やめとけ」


燃え尽きていた上司を思い浮かべて苦笑する。まあ、あの場合は本当に透視眼鏡を作ると犯罪どころではないので無機物すべての認識を外すという大雑把な設定にしたのだ。本当に作ろうとするなら概念を好きに設定しその概念を透視できるようにするとかやり方はある。


「お、その苦笑は実際にやってみたんだな?どうだったんだ?」

「車に轢かれたそうだ」

「あれ、お前がやったんじゃないのか。まあーそうだな。それもそうだ。もっとましな研究に切り替えるかー」

「それをおすすめするよ」

「にゅ……………うう……………むにぃ……………」


およそ地球の言語ではない声が聞こえた。不思議の国でも使われないであろう。あの国のことなどハンプティ・ダンプティーが落っこちた事くらいしか知らないが。あれ?落ちたんだっけか。まあ知らん。


「アリスさん、チャーハンありますよー」

「にゅい……………にゃあ……………」

「おい、その子本当に人間なんだろうな」

「まさか」


いや自分も今疑ったところだが。実は宇宙人だったりもするのだろうか。


「詳しいことは知らないけど小さい頃に可愛いからっていじめられて学校がトラウマになってて認識を弄る魔法を使う先日僕を襲ったただの魔女だよ」

「案外知ってんな。じゃあこれは寝起きが悪いっていうだけか」

「多分ね。そうだ。今って何時くらいだろう」

「8時」

「まだ間に合うな」


アリスさんを揺すりながらチャーハンを口に運ぶ。うむ。パラパラに出来ている。


「それにしても魔術師殿は料理がうまいな。なんか秘訣でもあるのか?」

「レシピ通りに作ればいいのさ。あとは慣れ。創作にチャレンジもすれば1年後にはこのくらいは作れるようになる」

「このチャーハン美味しいわね!すっかり目が覚めたわ!」


気づけば、隣からそんな声がして。


「あれー!?いつの間にかチャーハンがなくなってるー!?」

「 あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!今このおチビが起きてチャーハンを見たと思ったら次の瞬間にはチャーハンが消えていたんだ……………!な… 何を言っているのかわからねーと思うがおれもわからなかった…」

「チビ言うなー!」

「き、ぎゃー!噛み付くな!噛み付くな!痛い痛い!俺の手がー!?」

「アリスさんステイ!ステイ!科学者の手はまずいって!?」


かるるるるー、と威嚇を級友に向けるアリスさんをどうにか止める。がるるるるるるるるるるるるー!落ち着きなさい。ほら、相手はもうダウンしてるから。手は血まみれだから。


「ちょっと!この失礼なやつ何よ!?」

「人のことを指ささないでください。失礼でしょう?彼は僕の級友です。二つ名は『奇術師』」

「あれ?なんかあんたと被ってない?」


そのいうことも最もだ。タネと仕掛けでもって摩訶不思議な出来事を起こす奇術師とは違ってタネも仕掛けもないけれど異次元めいた事象を起こすのが魔術師だ。違いとしてはタネと仕掛けがあるかないか。そこだけだ。しかし、そこが最も重要と言ってもいい。倒れていた彼も反論する。


「いや、そこの理論も過程もすっ飛ばして結果を持ってくるバカと一緒にしないでください。思いつきで一晩と半日。それだけで三種の魔神器の一つ作ってくるような化物と一緒にしないで欲しいよ」

「そもそもこんなか科学ありきの国で魔術師なんて呼ばれてる時点で異質だと言われているようなものだもんなあ」

「それもそうね」


あはははははと三人で笑う。ふと気づいたようにアリスさんがこちらを見ていう。少し冷や汗が出ているような。いや、気づいて入るのだろう。さきほど僕は級友といった。平日の朝に級友と出会う食堂など決まっているのだから。


「そういえばここどこなの?」

「高校の真っ只中、学食です」

「っああ!?倒れたぞ!?」

「俺達の教室に運んでくれ。先ほど無理したから俺は無理だ」

「……………タイミングの悪いことに昨日俺は筋トレブームに目覚めてな。筋肉痛が酷いんだ」


発生する無言のジャンケン。崩れ落ちる俺。ガッツポーズする奇術師。くそう。二つ名でいえば俺は上位互換なんだぞ!?

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