第1章《魔法と科学は似て非なる》
第1話
日が沈み、少しばかり暗くなる。このご時世の日本、それも都市部であれば少し日が沈んだくらいではまだまだ明るい。今日も働く戦士達の灯があるからだ。
しかし、今だけは、今だけは違う。男の周りだけ、日が沈み、そのまま闇が色濃くなる。路地の向こうまで見えなくなる。ビルの先端さえ見えなくなる。人はいなくなり、ビルの明かりさえ消える。おそらく、人払い。それも高位のものだ。
遠くに聞こえていた人の話し声が消え、自分の音だけとなった。自分の心臓の音がやけに響く。どこからどう考えても敵襲だ。警戒しているとどこからともなく声が聞こえる。美しい声が、日本語ではない、外国語で話しかけてくる。
『ごきげんよう。東洋のおサルさん。今宵は良い月ですね』
聞きなれない言語だが、心配はない。日本の技術力があればチョーカーについたコンピュータの中にいるAIが自動でこちらの考えを認識し、返してくれる。
『今日は新月だから太陽とともに沈んだはずなんだけどなあ。』
『あら、レディーに恥をかかせますの?』
『そんなつもりは全然ないよ。どこの人?』
『言うとお思いで?』
『目的は?日本の観光?ともかく結界張るのは協定違反だって知らない?』
質問を重ねていく一方で、見えない相手に対してさらに警戒を高める。
日本は開国とともに未知の法則に則り日本人が極致に至ったとまでの科学で全く解明できない魔法を操る外国人と協定を結んだ。簡単なことだ。when in Rome,do as the Romans do。郷に入っては郷に従え。日本で魔法を使うな。外国で科学を使うな。幸いなことに外国はこちらが磨き続けた科学という刃を見切れない。結ばれるべくして結ばれたのだ。
『知ってますわよ。あえて使ってるんですの。あなたのような虫が入ってくるのを待つために、とか。ニホンにはこんなことわざがありますし。とんでもビニール夏の虫』
『一体どんな虫なんだ……………?だいたい結界で囲んだのはそっちじゃないか。』
『自分が虫であることを自覚しますのね』
『あいにくとココ最近は人間らしい暮らしをした覚えがない。なにせ忙しかったからね』
しかし、協定など表向きだった。三十年前ほどに無くなった鎖国は今や見る影もなくなり、街にも外国人がチラホラと見受けられるようになってきた。しかし、基本的に日本と外国は仲が良くない。時代でいえば江戸時代の日本がした外国との一度きりの戦争、黒船来航があった頃からだ。かろうじて日本が追い返した戦争としてはあっけない幕引きの。あの頃から仲が悪い。好きあらば刺客を送り込みテロを行おうとする。だからそれ専用の対策組織が作られる。対魔導機動部隊のような。
日本は、鎖国を解いたと同時に、世界に戦いを挑んだのだ。仕留めてみろと。
『とりあえず、しょっぴくけど文句はないよね?』
『せいぜい努力してくださいまし』
余裕そうな声が聞こえる。が、敵の姿は一向に見えない。嫌な予感はする。敵の姿が見えない戦いなんて無謀すぎるが、敵が見逃してくれるとは思えない。
『あなたは何も見えず私になぶられるしかないのです』
少し考える。かんがえて、答えを出す。想定の範囲内だ。
『まあこれはこれで好都合だしいいか』
『その状態で何ができるというのです!』
左腕に激痛。大ぶりのナイフが深々と突き刺さっている。次に右足にも激痛。こちらも同じくナイフ。それも2本。いつ刺されたのか全くわからない。足音すらも聞こえないとは少し想定外だがまだ修正は可能だ。ナイフを引き抜き、適当なところに投げつける。ナイフで栓されていた傷口から血が派手に吹き出す。
『そんなところにはいませんわ!次は心臓です!さあ、死になさい!』
『死なないよ。きっと。』
右腕を動かし腰につけたホルスターからこぶし大のものを取り出し、付けられたロックを外して上に放り投げる。
後ろの足元からパシッという血が跳ねた音を聞きつけ、思いっきり右に跳ぶ。また左腕が斬られたが浅い。僕は床を転がりながら両手で耳を塞ぎ、目を閉じる。
目を閉じていても視界が明るくなり、甲高い音が少し聞こえた。スタングレネード。高性能なのはいいが1回限りというのは惜しい。
自分がもといた場所を見ると血だまりの中に目を回した少女がいた。
「こちらホーリー。魔法使い一名確保。所長、聞こえてますかー?」
胸のバッジをいじりながらそう言うとバッジから音声が出る。どうやらそいつを連れて帰れとの旨。
「いやいやいや、こいつ服装がやばいんですって。一昔前の魔法少女ですよ。ふりっふりですよ。歳もまだ十二に行ってないくらい。僕犯罪者になっちゃいますよ」
慣れているからいいじゃないかと返事が来て、そのまま通信を切られた。野郎、後で覚えてろ。
人払いの術も解けたのだろう。人が歩いている姿がチラホラと見え始め、ビル群の明かりもついてゆく。とりあえず足元に幼女転がしておくのはまずい。とりあえず右手で俵担ぎにすると、まだ痛む左腕でポーチの中を探る。
探し当てた帰還装置のスイッチを入れる。胸につけたバッヂが光り、自分を包み込んでいく。
僕はその通りから跡形もなく消えていった。
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