第3話

勢いよく異空間に飛び込んだのはいいが、少しだけ問題がある。


まず中からは出られない。まあこれに関しては外に所長がいるので問題は無い。主に使う人の遺伝子情報も電子タグとしているため簡単に引っ張り出せる。それにいざとなったら術式を内部からぶち壊して中の物もろとも出れる。


次にそこまで長居ができない。他にも理由はあるが大きい点としては異空間は別の空間に慣れ親しんだ僕達には合わないということだ。無機物や、命を持っていないものであればまあ問題は無いが。この空間は存在しない空間をあるものとして無理やり接続させているため、元に戻った時に違和感が半端なくなる。


この点に関しても特殊な陣を主に使う人の手の甲に小さく書き込んでいるためそれを発動すると近くのメンバーに知らせることが出来る。まあ研究所に人がいないのにここには入らないで欲しい。


それと自分の位置を固定できない。重力というものがないのでふわふわと浮いている。そもそも地面なんてない。


最後に、物を風化させることなく保存するために特殊なガスを使用している。触れている分には問題ないが多量に吸い込むとやばい。体が物と化していく。ざっくりいうと生きた彫刻コースまっしぐらだ。


一緒に飛び込んだ少女の口と鼻を右手で塞ぐ。呼吸はできないがそれよりも彫刻になるよりはましだろう。その間に左手を噛み血を垂らす。そこから空に描いていく。今回描くのはリストアップの陣。少女がヒッと息を吸うが自分の手に阻まれる。


魔法というのは日本人には使えない。大半が仏教というのも大きいが科学が進歩しすぎてお化けや幽霊、精霊に神様。そんなものを信じられないのだ。もちろん、お盆や初詣などのイベントはまだあるがそれも「ここまで大きく広まったイベントなんだからご利益はなくても残しておこう」みたいな惰性で続けられているだけだ。


しかし、陣は違う。六芒星、五芒星、乃至八芒星。そこに言葉を描き、祝詞を込め、世界の理を覆す。つまるところ、それそのものと見て、そこに願いを込めるという作業だ。


リストアップの陣が書き上がり、あるものを取り寄せる。


酸素カプセル。紙。ペン。


酸素カプセルは一旦ポケットに入れ、膝を使って上にペンでメッセージを書く。


『呼吸をするな。死ぬぞ』

『これを飲め』


少女から手を離し、ボケットに入れた錠剤を少女に差し出す。しかし、少女は口を開かない。左手で鼻はつまんでいるようだし呼吸はしていないらしいが錠剤は受け取らない。無理やり押し込んでやろうかとも思ったが右手でガードしてくる。そもそも取っ組み合いなんてことになったら作用反作用の法則で少女がどこか遠くへ行ってしまって引き出すのが困難になる。


もうそろそろ3分ほどたつ。所長も撒くのに10分は必要だろう。この酸素カプセルがなければ死んでしまうだろう。


仕方がない速やかにねじ込もう。


酸素カプセルを口に含み、少女の後頭部に右手を添えその唇に自分の唇を添える。そして舌を使い無理やりにカプセルを少女の口の中にねじ込む。


これで安心だ。あたふたしている少女は放っておいて自分は紙にメッセージを書く。


『それは酸素カプセルだ。口に含んでいれば十分程はもつ。おとなしく舐めてろ』


そう言って自分も酸素カプセルを噛み砕く。救命行為はセクハラには入りません。


しばらくして自分の近くに穴というか嫌な気配がする。そろそろだと悟り、少女の手をつかむ。すると自分の後ろ襟をひょろい所長の手がつかむ。


晴れて自分たちは異空間より出てこれたわけだ。異空間にいたのは十分ほど。このくらいだと元の空間に戻った時の違和感はで済む。


「「おええええええええええええええええ」」


ゲロまみれになった。

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