おまけ・その後
あの一件があってから、オレと白石の関係はほんの少しだけ変わった。
といっても、今までほぼ無関係だったのが時々白石に挨拶されるようになった程度だから、周りから見たら全く変わってないかもしれない。
だがオレは白石に挨拶される度にぞくぞくしたり蹲りたくなるのを抑えるのに必死だから、オレにとってはかなりの死活問題だ。
白石がオレのことを変に思ったりせず普通に接してくれてるのだと思えばありがたいのだが…オレはいつ白石に遭遇するのかと気が気じゃない日々を送っている。
そんなある日の放課後。
「あ、山野だ」
教室の一番近くにあるトイレが混んでたため、教室からも少し外れた場所にあるトイレへ足を運んで扉を開けた瞬間、そんな声がトイレの空間に響いて、体がビクりと跳ねる。
「え、白石…何でいるの…」
なんとトイレの鏡の前に、白石が1人で佇んでいたのだ。
白石の周りに友人らしき姿はなく、オレも今は1人できてて…あの日以来の、2人きりの状態。
ぷらっと用を足すつもりだったのに、まさかの不意打ちの白石に心臓がドクドクと大きな音をたてた。
「目にごみ入って痛くって…教室の方何でか混んでたからさー。鏡見たらやっと取れた」
「……っ」
しかもこのトイレ…なんか声が微妙に響いて、耳元で喋られた時くらいに威力がヤバイ。
思わず片耳を押さえながら一歩後ずさると、白石が軽く首を捻った。
「?何で下がんの?しに来たんじゃないの?」
「…っお前がいたら出るもんも出ねーよ!」
テンパりながらオレがそう叫ぶと、白石はふっと目を細めた。
(おい、そんな顔で笑うな…って近づくな!)
そう思ってるのに、オレは声も出せず、歩いてくる白石から目も離せず…まるで催眠術にでもかかったように扉の前から一歩も動けない。
白石はオレの真ん前まで来ると、オレの塞いでない方の耳元へ顔を寄せ
「…本当にオレの声に弱いんだ?」
と呟いた。
「~~~~~っ」
堪らず声にならない声を上げて蹲ってしまうが、せめてもの反抗にと白石をキッと睨み付ける。
すると白石はなんでか少し驚いたような表情をしていて、目をぱちくりしてから蹲ってるオレに目を合わせるようにしてその場に屈みこむと
「…今のいいね。ちょっときたかも。山野が腰に来るって言ってた気持ち、何となくわかった気がする」
そう言って妖艶に微笑んだ。
…だけど絶対白石はわかってない。
そんな顔で、そんな声で、そんな風に言われたら…
泣きそうになりながらまた白石を睨み付けると、今度は楽しそうに笑うから、まったく動き出せないオレとは反対に、心臓だけは激しく動いた。
終 2016.04.20
反則 蜜缶(みかん) @junkxjunkie
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます