大したメタフィクションだ

メタフィクションはうまく使わないと、普通の創作よりも盛大に滑って爆死する。使いこなすのが難しいジャンルである。しかもwebでのメタフィクションは十年以上前のテキストサイトブームでさんざやりつくされている。
パロディもまたしかり。下手な真似をするとやれ原作へのリスペクトがどうの権利がどうのとうるさい虫がわく。不思議とその手の虫は皆揃って自分では何も書かない。

そんななか、まあうまい塩梅でメタとパロを飼いならしたものだ。うまい塩梅、まさに塩と梅のバランスが適度である。

作者は筒井が好きなんじゃないかと感じた。清水義範も。文字との距離感がこの二人を彷彿とさせる。もちろん太宰も嫌いではないだろうが。
空から覗き込み、ペンで命令を出し、腕を突っ込みペンで穴を掘り、とどんどんエスカレートする悪ノリも小気味好い。悪ノリが一歩ずつ階段を上るように進むのもこれまたいい塩梅。

太宰と、そして作者とともに一緒に悪ふざけに参加しているような、そんな共犯感覚さえ楽しめた。おそらくはそこも計算通りだったのだろう。

惜しむらくはこれが縦書きで読めなかったこと。できれば縦書きで、もっと言えば活字で、いやもっと贅沢を言えば作文用紙に万年筆で書かれた「走らされるメロス」を読みたかった。もちろんこの作者なら、手書きで書くとなったら手書きならではの仕掛けを仕込んできたであろう。

愉快であった。「読む」という遊びを満喫させてもらった。ありがとう。

その他のおすすめレビュー

中野さんの他のおすすめレビュー6