【beatmania ClubMIX、弾銃フィーバロン、ほか】
レトロフューチャー・フィーバー
JR常磐線各駅停車。
東京メトロ千代田線に直接乗り入れているので、松戸・柏方面から都内の地下鉄エリアへ出て行くには非常に便利に使える路線である。
余談だが、山手線沿線に出るのであれば、各駅停車ではなく快速を使う。
こちらのほうはもうすぐ、現在の終点である上野より先、品川までつながる上野東京ラインも開通する予定で、さらに便利になる。
そういうことで(どういうことなの!?)、とある男が各停で通勤していく。
ただ単に、とある男とか彼とか呼ぶのもつまらないので、名前で呼ぶことにしよう。
彼の名前は
木内の住む柏からならば、始発もあるので、朝のラッシュの時間帯も悠々と座って通勤できる。
しかし、木内の乗り換え駅である大手町までの所要時間は、50分近くもある。非常に暇なのである。
この暇な時間を、まあ普通ならば寝て過ごしたり、本を読んだりして過ごすのであろう。
だが木内は、生粋のゲーマーだった。この時間をムダにはしない。
普段であれば愛用のレディアントレッドのPSPを取り出してアーカイブスを楽しむ木内だが、今日はAndroidタブレットを取り出し、『艦これ』をプレイしているようだ。
(今朝はちょっと寝坊して、うちで任務こなしてこれなかったからな。とりあえず開発、建造、遠征、演習、っと進めるか……)
最近たまたま新規着任解放の時間に暇だったので着任してみた、というようなきっかけで始めただけだったのだが、案外はまっている様子だ。
(うーん、Flashが使えるAndroidユーザーの俺は勝ち組だな!)
iPadでも方法はあるのだが、無料で、とか、その端末単体で動く、となると、Androidに軍配が上がる。
(しかし、『艦これ』の轟沈時の喪失感は……尋常ではないな)
木内は黙々と日課をこなしながら、先日の自分の手落ちを思い出す。
先日、ついうっかり正規空母『赤城』を轟沈させてしまったのだ。もちろん、応急修理要員は装備していなかった。半分寝落ちしかけの状態でプレイしていたためか、大破しているのに気づかず進撃してしまったようである。
(ロストしたらもう戻らない、というのは、『ファイアーエムブレム』に通じるところはあるのだが、『ファイアーエムブレム』はとりあえずリセットして章の最初からプレイし直せば問題ないしな。しかし、『艦これ』は、一度ロストしたら、もう、どうやっても、さよならだ……。あ、またちょっと悲しくなってきた)
少し涙目になってしまっている。このように、キャラクターに本気で感情移入させられるのは、『艦これ』の成功の要因のひとつなのだろう。
(うん、まあでも、艦これは艦これで、再度建造やドロップを狙えるからな。赤城はかなり厳しいらしいが、いつか再会できることを期待して、気長に待つとしようか)
などと、いろいろと物思いながら一通りのルーチンをこなしていると、ふと隣に座るおねいさんのiPhoneに目が移る。せわしなく画面上に指を踊らせている。まるっこくデフォルメされたディズニーキャラをなぞって消してなぞって消して……。
(『ツムツム』かあ。人気だよな。ここのところ電車の中でこの画面を見かけないことがないな)
車内を見回すと、他にもスマホでゲームをプレイしていると思わしき人がちらほらと。横画面にして一生懸命タップしている人なんかはまさにそれだ。
(しかし最近、ほんとにみんなスマホゲーばかりだな。『ぷよクエ』なんか確かに面白いし、俺もやってるけど、なんかこう継続してできないんだよな。性格の問題か?
そういえば、ついこないだ、『ドン★パッチン』がサービス終了してしまったな。イベントもマンネリ化してきていたし、あの辺が潮時ではあったんだろう。でも、ケイブのシューティングがまたひとつ消えたとなると、とたんに寂しくなってしまうな……)
確かに、ケイブはもうアーケードからもコンシューマーゲーム機からも撤退を表明しており、そこでスマホゲーのサービスが終了となると、ケイブの新作シューティングはもう出てこないのか、と思えてしまう。
木内はおもむろにブラウザの新規タブを開き、ケイブのオフィシャルホームページを閲覧し始める。
(ん? なんだ? 新しいスマホアプリ?)
なにやらインフォメーションに新しい情報が載っていたようだ。
(とはいっても、どうせシューティングじゃあないんだろう? なになに、『ゴシックは魔法乙女』。ふーん。雰囲気としては『デススマイルズ』的な感じのようだが……)
木内はあまり期待もせずにページをスクロールする。が、みるみるうちに毛が逆立っていく。
(……え、いやいやまて。「正統派! ドS!? 乙女系(ハート)」まではいいとして、「ドシューティング」だとう!?)
己が目を疑う木内。だが間違いなく、このタイトルはシューティングだとこのページは語っている。
期待が高まる指でページをスクロールしていく。
(制作総指揮IKD? まじか! なんだよこの肖像画。悪ノリ、悪くない。
おおう、スタッフのコメントなげー。愛を感じるな。なんか一昔前の雰囲気を感じる。まあシューティングっておっさんホイホイだものな。こんなのがお似合いなんですよ、俺には。
そうそう、ゲーム画面、スクリーンショットはどこだ?
おおこれか、うわ、本格的に縦シューじゃないか!)
食い入るように画面をのぞき込んだかと思うと、ページを急いでスクロールさせ、事前登録ボタンをタップ。
(ほい、事前登録完了。
よかったー、ケイブがシューティングを捨てた訳じゃなくて。
『ドン★パッチン』終了の時は、もうケイブからシューティングは出ないんだろうな、って思ったもの。
安心したら、無性に、ゲーセンに、行きたい)
ゲーム熱が一瞬にして高まり、ゲーセン欲を押さえられない木内。
(よし、今は……北松戸か。次の松戸で降りてゲーセンを探そう。行ったことはないけど、確か駅前にいくつかあったはずだ。
とにかく、アーケードゲーム、ビデオゲームだ。
今日俺が欲しているのは……やはりケイブ、弾幕シューティングなのか?)
今は通勤中だったはずだが、そんなことはもうどうでもいいようであった。
会社へは体調が悪いことにし休暇の連絡を入れ、松戸駅で降車する。
どうも調べてみると、松戸駅東口には少なくとも二軒のゲーセンがあるようだ。
駅のすぐそばに一軒と、少し離れたところに一軒。
(やはりセオリーとしては、駅すぐそばのゲーセンよりも、離れた方がよりマニアックな傾向があるんじゃないか。勝手な経験則だが)
まずは駅から少しだけ離れた場所にあるゲーセンへ向かう。離れていると言っても、せいぜい歩いて2、3分の位置ではあるが。
店の入口前にはプライズ系マシーンが立ち並ぶ。この風景はどのゲーセンでも90年代からずっと変わらない。
(『艦これ』グッズも充実していそうだが、北上さまがいないな。じゃあいいや)
お気に入りの艦娘グッズがないので、店内に入ろうとする。自動ドアに貼られている、営業時間を掲示した紙にふと目が止まる。
(ん? 7時から営業している、だって!?
そういえば、船橋にもそういうゲーセンがあったな。ふむ、関連でもあるのかな。
早朝営業といえば……、学生時代は朝からゲーセンで遊びたくてたまらなくて、9時から営業しているゲーセンを見つけて、開店と同時に駆け込んだなあ。車で30分もかかるところだったのに。懐かしいなあ。今度7時開店に合わせて来てみようかな、なんて)
ちゃんと仕事には行きましょうね、提督。
さて、店内に足を踏み入れる木内。
入口から続くプライズエリアを物色しながら通り過ぎると、フロア半ばから奥まで埋め尽くすはメダルゲームコーナー。
(メダルゲーム。やはりこんな時間でも誰かしら客はいるもんなんだよな。たまにはいいけど、今日はまったくそんな気分ではないな)
それはそうだろう。ケイブの新作情報に心躍りゲーセンにきてしまったのだから。メダルゲーのシューティングなんてのがあれば話は別だろうが。
(ビデオゲーム系は二階だろうな……)
一階フロアは遠目に見回しただけで、すぐさま階段を上っていく。その途中、ふと、木内が気付く。
(お? 木? いや、本物じゃなさそうだけど、これは珍しい……かな?)
そう、この階段、木目調のシートが貼られているのだ。階段のみならず、フロアも全体的にそれだ。
普通は薄く固いタイルのようなものとか、カーペットが敷かれていたりするものだろう。
(うむ、こんなのも悪くないな)
ゲームとは全然関係ないのだが、いいタイトルが設置されているのではと期待度の高まる木内であった。
(おお、これは!)
二階に上がりまず木内を出迎えてくれたのは、『beatmania Club MIX』。
(五鍵、ひさびさ。まあプレイするしかないよな)
年季の入った音ゲー筐体がネオンを光らせて手招きしている。誘われるがままに、DJブースを模したコンパネの中央部にインサートコイン。
(『Club MIX』は、レトロフューチャーでポップなデザインが、他のバージョンのアンダーグラウンド的な雰囲気とは一線を画しているんだよな)
ふと、画面の横に貼られているポップに目が止まる。
(お、全曲セレクトコマンドか。それがいいな。なになに、『エフェクトボタンを押す前に1P側の2と4を押しながら、2P側の4を2回押し、1P側の3を1回押す』? っと、色が変わった。これでいいのかな)
スタートボタンを叩く。画面が暗転し、モード選択に移る。
(ノーマル、マニアック、エキスパート。エキスパートは確か曲固定のコースだったかな。やはりここはマニアックだな)
DJ PIROS、迷いなくマニアックを選択。
(さてさて、どこから攻めますかねえ)
くるくるとターンテーブルを回して、ミュージックリストをなめる。
(昭和の曲のカバー、結構多いな。いやーでもここはやはりオリジナルかな……よし、まあ久しぶりだし、この辺から)
パチン! とキーを勢いよく叩き選曲。
《DJ SIMON/DISCO DANCING》
画面左、上から下に譜面が流れ、曲が始まる。
(いたって王道のディスコナンバー。ミラーボール、スローテンポ、譜面もそこそこ。これが心地良い)
難なくプレイを終え、クリア。
(よし、じゃあ次は少しテンポを上げていってみるか。……これなんかどうだ?)
《Delaware/ZANZIBAR》
リズミカルな譜面や階段のような譜面を、軽々と演奏するDJ PIROS。
(うんうん、いいぞいいぞ。踊れ踊れ、おやじも踊れ)
画面センターのムービーでは、おやじがノリノリでダンシング。
(いい感じで指の運動にもなったな。もっと、もっとあげてこう)
《Delaware feat. Jeff Coote/Turning the motor over》
ビーーーッ!
(クラクションから始まる。このクラクションがいい味出してるんだよな。さらにはラテン系の陽気さとスカの裏拍がグッとくる。さすがgood-cool)
ちょっと裏拍のタイミングがたどたどしい場面はあったものの、グルーブゲージはMAXだ。
そして四曲目。これが最後の選曲になる。
(FINAL STAGEか。『Club MIX』のシメといったら、やっぱこれでしょ、これ)
《DJ SIMON /321 STARS》
(はい、ワン、トゥー、スリートゥーワン。
ポップなんだけど、本気で殺しにかかってくるにくい奴。クセになる感じだよなあ。
ワントゥーワントゥー……うわっ、最後ミスった!)
いい感じで保っていたゲージが、最後の最後の連続ミスで落下。
DJ PIROSに飛ぶブーイングの嵐。
にもかかわらず、本人はいたって満足そうだ。
(いやー……、いいね、『Club MIX』。レトロフューチャー、最高。買い直そうかな、PS版)
まだ少し心残りな感じで、台を離れる。
(そうそう、これもなかなかの収穫だが、俺の求めているメインはこれじゃない、はずだ。シューティングなのだろう? やはり)
左奥に進んでみると、ずらりと並ぶ新旧格ゲー。
(ミディ筐体の群れに一瞬ドキッとしたが……格ゲーじゃない、これじゃない)
方向転換し、逆方向の奥へ向かう。こちらもまたミディ筐体が列を成している。
(麻雀島、パズルゲーム島か……麻雀、品揃えいいな。『ホットギミック』シリーズ、全部あるのかな? って、おお!?)
麻雀列の端に、魚型戦艦が泳ぐ横シューと、割と古めの縦シューの存在。
(『ダライアス外伝』、まあ、割と見かける方だが、もう一つは……『BATSUGUN』、か?)
正解。ケイブの前身ともいえる、東亜プラン末期の作品、『BATSUGUN』。
(よしよし、やったことはないが、ケイブのご先祖様だ、やっておこう)
イスに座り、インサートコイン……の前に、木内はハッとなる。
(50円だって!? 安い。今どき珍しい。……よし、50円玉もあった。あとで両替しておこう)
財布から50円玉を取り出し、やっとインサートコイン。
(まあ、まずはクセの強そうなショットよりも基本っぽいショットにしておこう……A-Typeだな)
暑苦しそうなキャラを選択し、木内、初出撃。
水中基地? から射出され、そのまま水中を突き進む自機。
(ほう、水中からって結構めずらしいな。水上とかはよく見るんだけど。
……うんうん、なんかすごくオーソドックスなシューティングって感じ。シューティングシューティングしてる)
あっという間にボス到達、撃破。
(今のところ難易度もマイルドだなあ。しかしこのキャラ、ムダにテンション高いなあ)
クリア時のセリフもなんだか暑苦しい。
ステージは進み、二面道中。
敵の攻撃も多少強まってきている。
中盤にさしかかったあたりで、木内の自機が突然雷撃に包まれたかと思うと、ショットが大きくなり、大幅に強化される。
(お、レベルアップ? しかし派手だな。敵も全消しになるとは。
威力も……随分強くなるな。3になると相当強いんじゃないか?
よしよし、まあこのままいい調子で進んでいこう!)
そして三面。
木内、なかなか苦戦しているようだ。
(おおっと、さすがに難しくはなってくるか。
……あ、やられた。初見だとやはり突発死が怖いなー)
その後、ボスまで到達するも、ちょっとしたミスであえなくゲームオーバー。
ネームエントリー画面。シューティングではおなじみ、三文字のアレだ。
(初プレイにしてはまあまあか……P、R、S、っと、ん? 背景、蜂!?)
そう、ネームエントリーの背景には、見慣れた金の蜂の姿が。
(東亜プランがケイブの前身なのは知っていたが、まさかこんなところに『首領蜂』シリーズとのつながりがあったなんて……!)
台を立ち、周りを見渡す木内。
(……うーん、さすがにないか。『首領蜂』)
ここにある二台で、このゲーセンのシューティングはすべてのようだ。
(そうなると、行くしかないな、もう一軒!)
取るものも取り敢えず、駅至近のゲーセンへ向かう木内であった。
駅歩30秒、みたいな位置に立つビルに到着。先ほどのゲーセンから、わずか2分ほど。
(ゲーセンは地下一階から二階までか。まあ、ビデオゲームは地下だよな、常識的に考えて。
一般的にだとこれは常識なのかどうかと疑問に思うが、ビデオゲームコーナーは地下、という意識は、少なからずあるのではなかろうか。
そして、一階はプライズ、体感。二階があるならそっちにメダル。
地元でそういうゲーセンを根城にしていたからだろうな、たぶん)
フロア案内を見る。木内の予想は当たったようだ。そして……
(地下にビデオゲームあるというのは……わかってるゲーセン、ってことだ! よし!!)
意気揚々と階段を薄暗いほうへ下りていく。
フロアへ下りると、思ったよりも広くスペースが取られ、まずは、『Project DIVA』、『クイズマジックアカデミー』、『戦国大戦』等が並ぶ。
(あれ……もしや、期待外れなのか?)
不安に苛まれながら、奥へと進む。
やがて見えてくるのは、右手にネシカ等のネット配信系や格ゲー、左手には……
(……おお、シューティング列! 待っていたコレを!! というか、右手の格ゲー、10円!?)
並ぶタイトルは『リアルバウト餓狼伝説2』や『ストリートファイターZERO』、『ザ・キング・オブ・ファイターズ'98』など、古いことは古いが、『イベント中 1プレイ10円』との貼り紙がされている。
(……いやいや、『RB餓狼2』とか気になるけど、それより何より、今日はシューティングだ。というか、蜂、初代蜂は)
シューティング列をなめる。そこに整列するは錚々たるメンバー。
(ほおお……これはなかなかの……)
『R-TYPE』、『ガンバード2』、『グラディウスII』、『ダライアス外伝』、『デススマイルズ』、『虫姫さまふたりブラックレーベル』、そして……
(きた! 『首領蜂』!! と、えーと、すごいぞ、『弾銃フィーバロン』まで)
シューティングの島の最後には、望んでいた『首領蜂』が鎮座しており、それのみならず、ケイブ異色シューティング『弾銃フィーバロン』までもが設置されている。
(おおお……思ってもないところで出会うもんだなあ。『Club MIX』でダンスエナジーがマックスに達したからか?
まあ、まずは『首領蜂』からいきましょうかね!)
ゲーセンによくある、赤いふわふわしたイスに腰かけ、深呼吸。
(よしよし、ここの店も50円か。松戸はアーケードゲーマーに優しいな)
木内にコインをインサートされると、叫ぶ筐体。
「ドンパァチ!!」
ビクッ。
木内が一瞬ひるんだようだ。
(毎回毎回、びっくりするんだよなあ。それがまた良いところではあるんだけど)
スタートボタンを押し、機体セレクトへ。ここは迷いなく赤いType-Aを選択。
(やはり使い慣れた伝統の一点集中タイプだな。一般的にはType-Cが多そうだけど、俺は昔から変わらずType-Aだな)
「オッケィ、グッドラック!」
おっさんボイスとともに、木内、出撃。
昔プレイしていた感覚を思い出しながら、赤い機体で雑魚を蹴散らしていく。
(そういや、『怒首領蜂』以降と違ってコンボの判定がやたらと厳しいんだった。全然繋がらないな)
ショットを多少調整しながら、少しでもコンボを繋いでみる木内。
(……うーん、やっぱダメだな。なかなかうまくいかんものだ。そもそもがあまり繋がるようには配置されてないんだろな)
あれこれ試行錯誤しているうちに、ワーニングとともに一面ボス登場。
(よしよし、おいでなすった)
一面くらいであれば、まだまだ手ぬるい。難なく攻撃を避け、あっという間に装甲がはげ、響くおっさんボイス。
「ジャスタカポゥモアシャーァッツ!」
(これこれ、これが聞きたかったんだよね。『首領蜂』のはやっぱり激しいな)
程なくしてボス撃破。
(おっさん、何か言っているがよく聞き取れないし。日本語でおk)
と、ここで突然、木内に焦りの表情が浮かぶ。
(しまった! 蜂アイテム全然取ってない!! 久々過ぎて忘れてたな……。まあいいか、そもそも蜂の配置そんなに覚えてないしな)
あきらめがついたようである。
(さて、二面か。ここから多少きつくなるんだっけ?
……いや、もうパターンもだいたい把握しているからいけるな)
木内の思惑通り、何の苦労もなく二面撃破。
(余裕だったな。まあここまではいいとして、次からだ。やはり三面あたりからはきつくなるだろう……)
そんな木内の予想は外れ、二面に続き、悠々と三面道中、ボス、ともに終了。
(決して稼げているわけではないが、かなり安定しているな? こんなんだっけ? 案外パターン化したのを体が覚えているんだろうか)
四面に突入し、敵の様子がガラリと変わる。
(おおー、そうか、四面からこんなんだったか……これは、きついな!)
横や背後からの高速雑魚に悩まされる木内。さらに増える弾数。追い詰められ、ボムも使い切り、ミスを繰り返す。
(ううーん、厳しい……。しかし、こうでなくてはな!)
しかし、健闘したものの、四面ボス到達ならず、ゲームオーバー。
(ふう。久々にプレイしたけど、案外腕上がってるんだな、俺。前はそんな余裕で四面とか到達できなかったぞ? これなら、四面攻略も捗りそうな気がするな)
結果はまだまだというものの、自分の中ではなかなかの出来だったようで、割と満足気な木内である。
「サンクスフォープレインディスゲイム。バァイ」
(バァイ、また来るぜ)
心の中でおっさんボイスに挨拶する木内であった。
首領蜂をプレイし終わり、席を立ち少し後ろに引く木内。
(ま、こんな時間だから客もほとんどいないんだけど、割り込みとかにならないようになんとなく確認してしまうよな)
周囲を確認。シューティング周辺に待ち人なし。
(よし、やるか!)
はりきって『弾銃フィーバロン』の座席に座る。
「ダンガン、フィーバロン」
コイン投入。他の多くのシューティングと同様に、機体セレクト画面に進む。
ただ、他のと比べて、選択の自由度が高いのは本作の特徴の一つだ。
選択できる内容としては、『機体(ショットタイプ)』、『パワフルショット(溜め打ち)』、『速度』の三項目。
木内の選択は、狭い範囲の3ウェイショットのType-B、パワフルショットには、ミサイルがゆっくりと進み、当たったときに爆風で誘爆してくれるボムタイプ、速度は4段階中の3。
(スピード3くらいないと、敵弾の速さについていけなかったような気がするしな。あとはやはりボム置きまくり誘爆しまくりでフィーバーだ!)
機体セレクトのみですでに木内のテンションはあがってきているようだ。
「レディー、ゴーゥ!」
木内、宇宙へ出撃。
敵を倒すと、赤く点滅する『サイボーグ兵士』が出現し、画面下部に進む。これを連続で救出(獲得)することで点数をのばしていくのだ。画面下部まで行った『サイボーグ兵士』は、折り返して画面上部へ進み、上までいくと消滅。連続取得のカウンターも0になってしまう。なお、このシステムは『SOSシステム』と名付けられている。
さらには、レトロなディスコサウンド風のBGMに乗せて、
「オッケェィ!」
「ガッチャ!」
「フィーバー!」
などと極めて高いテンションでのシャウトが入り、速い敵弾や先述の『SOSシステム』との相乗効果により、非常に騒がしく、忙しく、カオスなゲームとなっているのだ。
(きたきた……。じゃんじゃん行きますよー)
撃つ。
「イェス!」
避ける。
「オウイェァ!」
助ける。
「カモン!」
撃つ。
「ファイヤァ!」
避ける。
「ヴェリクール!」
助ける。
「ヘィ!」
(ああ、まだ一面だというのに、おかしくなりそうだ……)
スピードや狂気じみたシャウトに翻弄されるうち、あっという間にワーニングとともにボス出現。
「ヘブンイズヒアインサイドマイソウル!」
(きたきた……はや! やっぱ弾速はや!)
一面だというのに結構な高速弾を放ってくる。
しかしそれをダンスのステップを踏むように左右にかわしながらボスを追い詰めていく木内。
「ワッチャーップ!」
(ジャスタカポゥモアショッ! 脳汁が、脳汁ががが!!)
「イェス!」
「ガッチャ!」
ボスが力尽き、大量に放出される『サイボーグ兵士』。
「フリー、ラブ!」
(いいぞ……いいぞ! もっともっとフィーバー!!)
いい感じに崩壊していく木内であった。
~中略~
「フィールザミュージック!」
~中略~
「スゥィングユァバディ!」
~あえての中略~
延々と続くシャウトとダンスの世界。高まるダンスエナジー。
気がつけばステージ4。
BGMは『ソウルスーパーマーケット』。
印象的なイントロが心地良い。
(チャッチャッチャッチャチャッチャチャッチャッチャ……、ワーォ、ベリィクール!)
ここまでくると、弾の速さも密度も相当なものだ。脳から出るなにかを頼りに、撃つ、踊る。
だがやはり、長年のブランクもあり、ここらが限界だったようだ。最後の一機が撃墜される。
(ノォォォォォォゥ!! ダンスエナジーが足りなかったか!!)
「ノォォォォォォゥ!!」
(スゥィングマイバディ! 踊った……脳汁でた。トランス状態だ)
プレイを終えた木内は、筐体の前に座ったまま放心状態だ。
(ふむ、ミラーボールに始まりミラーボールで終わる。いいじゃないか。キレイな流れじゃないか。
間も蜂繋がりで統一されている。
ヴェリクールなエキスパートコースだったな。
今日はここまでだ! また来よう)
サッと席を立ち、薄暗くどことなく懐かしい感じの地下を後にする。
(去り際はヴェリクールに……大人の余裕ってやつだな)
ふと、エレベーターの横にある、ビルのフロア案内が目に留まる。
(おっ、六階、古本屋か。 オウイェァ! ゲームの掘り出し物でも探していくとしよう。フィーバー!!)
小躍りしながらエレベーターに乗り込む。
先ほどの大人の余裕はどこへやら。フィーバー冷めやらぬ木内なのであった。
レトロゲーム短編アーカイブス みれにん @millenni
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます