無題

「君、明日の昼12時に死ぬから」

「……えっ!?」

 日曜の夜。少し憂鬱な気持ちで布団に入ると、頭上から顔がニョっと出てきて死を宣告された。




「死神って美少女か、スタイリッシュでオシャレな人ばっかりだと思ってた。それか骸骨みたいな顔してるとか、ザ・悪魔ってカンジのやつをイメージしてた」

 目の前に現れた死神はどうやら本物らしい。いつもこの時間になると鳴り止まなかったラップ音が、今は一切鳴っていない。

「困るよねー、そういうの。まあ、今に始まったことじゃないしね。千年くらい前からあったことだしね」

 僕は初めのうちは戸惑って、ソイツの言葉を信じなかったけれど、どうやら信じるしかない様子なので、渋々受け入れ難い自分の死の宣告を受け入れた。そして僕は、遺書を書くことにした。

「でも、今の萌えの文化はイイよねー、カワイイし」

 遺書の代わりに選んだのは「親への手紙」。3月の卒業式で親へ渡す予定で、次の金曜に提出予定だったけど、他に良いものが無いから使うことにした。

「日本ってさ! 定期的にBLが流行るんだよ。もうそうなったらさ、都じゅうBL小説だらけになるの! もう、目も当てられないよ」

 遺書は死神に検閲されることになった。ヘンなこと書いて死神の存在がバレるといけないらしい。

「いちいち死ぬ人間の期待なんて、気にしてられないよー。」

 ちなみに僕の目の前に現れたのは、小太り中年の死神。

「けど、ちょっとは気にしたほうがいいんじゃない? ビールっ腹とか、無精ひげとか、体臭とか、生え際とか……」

「もうやめてよー! それ、昨日娘にも言われたんだよ……」

「え! 娘さんいたの!?」

「いるよー。人間だと、君より少し年下かな」

 ……衝撃だ。

「禿てるのに!!?」

「…………ひどいなぁ……まだ禿てないのに……」

「そのコが迎えに来てくれれば良かったのに!」




「いやー。なんか、ごめんね……。

 名前が、似てたからさ……」

 死神が今日連れて逝く予定だったのは僕ではなく、漢字一字違いの祖父だったらしい。

 あちら側の手違いで(僕は三途の川を渡る寸前だったけど)、僕も祖父も今日死ぬことは無かったけれど、僕は散々だった。

 迎えの時間の昼12時は授業の真っ最中だった。魂の抜き取られた僕は、クラスのド真ん中で意識を失った。センセイには爆睡してしまったと言い訳したけれど、メチャクチャ怒られた。

 そして、遺書も両親に見られ、本気で心配された。

 友人たちの親にも連絡が行き、そこからクラスメイトにも伝わったらしい。……明日からイタイ奴確定だ。

 恥ずかしくて、もう、死にたい……。






・死神 ・手紙 ・親

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