無題
「昨晩、ワシが大仏様を掘った石をこの湖に投げ込んでおいた。日が沈むまでにその石をワシのところに持って来れなかった者は、即破門とする!」
えー、無茶だ、できないよー、死んじゃいますよ、そうだ! ふざけんなこのエロジジィ!
などなどと、小僧たちは厳しい修行に対し、口々に文句を言う。
「その気持ちはワシだってよく分かる、ワシらもお前たちくらいの頃に、この修行をやらされたものだった」
「しかしお師匠さま、この湖は里の大人たちでも溺れるような危ないところですよ。つい最近も南蛮商人の乗った船が沈んで、命からがら助けられたばかりです」
と、小僧の中でも人一倍賢い子が言った。
対して師匠が言うには。
「それは彼らの、無理矢理にでも生にしがみついて生きよう。という欲が強いからだよ。煩悩にまみれず、自らが仏様の手の中に在り、救われるという自覚があれば、深い湖の底でも慌てず、落ち着いて行動できるだろう」
小僧たちは師匠に上手く言いくるめられた気がしながらも、渋々石を探すことにしました。
しばらくして、一人の小僧が。
「おーい! みんな来てくれー! 何かヘンなのがあったぞ!」
と、叫んだので小僧たちが泳いで来て、一カ所に集まりした。そしてそれぞれが潜って見ると、
何だあれは、分からない、何か文字が書かれてるよ? たぶん南蛮人たちの言葉だ、どーする? とりあえずあのエロジジィのトコへ持って帰ろう。
夕暮れの頃。
「お前たち、ちゃんとそれぞれが石を持って帰ってこれたのか?」
と師匠がきくと、小僧たちは息ピッタリに全員首を横に振りました。
「じゃあ、何故戻って来たんだ?」
「なんかヘンなの見っけた」
師匠が怪訝な顔をすると、小僧たちはそれを師匠に見せました。
それは、西洋の言葉が刻まれた、錆びた鍵のかかった、子供が二人で運べる程度の大きさの箱でした。
「師匠、これなんですか?」
分からない、と応えた師匠は手頃な石を手にし、施錠されている部分を数回叩きました。
すると鍵は簡単に外れ、箱が開きました。
中には、溢れんばかりの金貨に銀貨、大判小判に、夕陽を浴びて黄金に輝く装飾品が入っていました。
師匠が生唾をゴクリ、と飲み込むと、小僧たちは、煩悩にまみれた人間が何たるかを学びました。
お題
・金貨 ・湖 ・師匠
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